寄り道ついでに大好物ホラー・オムニバスを見つけたので…その道の手練監督が集まって作り出した独特のホラー境界作品集とでも呼ぶべき異色ホラー・オムニバス…「怪談晩餐」(日本では7月封切り予定とのこと)

 

【ep.1 ディンドン・チャレンジ】仲の良い女子高生ボラ・ヘユル・ユンビの三人がダンスの練習に汗を流す。ボラはイケメン生徒会長に熱を上げ、ヘユルは自分のカバーダンス動画チャンネル100万人登録を夢見て、ユンビは明日のオーディション通過を願っている。カフェで三人は最近急に人気の出た歌手DidiのオカルトチックなMVを羨ましそうに眺めている。するとヘユルが似た雰囲気の怪しい動画を思い出したと言いだす。dingdongが配信する”Wish Witch"という動画では、一緒に踊ると願いが一つ叶うらしい。そしてそのカフェからイケメン生徒会長が見えるが、彼はボラの電話を無視して議員の娘と仲睦まじく消えていく。そしてボラは…【ep.2 四足獣】女子高生ユギョンは試験用紙を手に持ったまま回数を数えながら母親に激しくビンタされている。医学部に入るには試験の成績が余りに酷いからだ。その様子を籠に入った可愛い兎が眺めている。姉ソンギョンからは機械のように感情を殺すよう言われる。ある日学校の帰り道、ユギョンは橋の下で不気味な少女に出会う。そして彼女はユギョンに願いが叶うある方法を伝えるが…【ep.3 ジャックポット】大雨の日、カジノ帰りのチノは大きなカバンを抱えタクシーに乗っている。運転手はソウルまで帰らず近くのホテルで休むようしきりに勧める。余りにしつこいのでチノは雨の中タクシーを降り、結局とある安ホテルに泊まることになる。しかし彼の部屋をモニターで監視している者がいる…【ep.4 入居者専用ジム】とある高層高級マンション。管理人室では、入居者代表(≒管理組合長)が管理人を叱りつけている。23時までという規約に反し”入居者専用ジム”の電気を切らなかったからだ。ある日ヒョングという青年が新たに入居してくる。そして23時を過ぎてもジムで筋トレを続けていると…【ep.5 リハビリ(活生)】ある施設に大けがの若い女が運び込まれる。女が気づくと何もないコンクリート製の部屋の中央にある箱の上に横たわっている。壁には45時間35分44秒というタイマーが刻々と時間を減らしている。身体が満足に動かない。そして体を動かそうとして気を失う。次に気づくとタイマーは残り39時間半を切っている。少し身体が動き出したようだが、部屋に大量の鼠が降り注ぎ再び気を失う。そして次に目覚めると白スーツの女が見下ろしている…【ep.6 モッパン(”食べる”+”放送”でグルメ番組、特に大食い番組のこと。原題は”식탐(食)+(貪欲)”で”食い意地”くらい)】ライブ配信”ニョムニョム・モッパン・ライブ”が始まる。テーブルの上には生肉、甘エビなどが並んでいて、若く美しいニョムニョムはお喋りをしながら次々と食べていく。その食べっぷりに画面では次々と”投げ銭”が投げ入れられるが、あるコメントが”ユラ”について触れている。1年前に大食い対決したかつてのライバルだ。ニョムニョムは”あぁ、あの事件…”と言ってその問題の対決動画を再生することにする…

 

【ep.1 ディンドン・チャレンジ】監督は「アラン」「ブラインド」のアン・サンフン。三人のヒロインヨンビ、ヘユル、ボラは、いずれも映画デビューのチャン・スンヨン、オ・スンイ、チャン・イェウンが演じていますが、彼女たちは一時期相当にハマったガールズグループ<CLC>のオリジナル・メンバー。【ep.2 四足獣】監督は「ホテルレイク」のユン・ウンギョン。主演ユギョンに、14歳デビュー「隠された時間」でカン・ドンウォン相手に好演のシン・ウンス、母親に、演技派熟女キム・ホジョン。【ep.3 ジャックポット】監督は迷作「空手道」のチェ・ヨジュン。主演チノに、実兄キム・テウ同様ニューロな演技は抜群キム・テフン、タクシー運転手に、お馴染み名脇役チョ・ジェユン。【ep.4 入居者専用ジム】監督は五つ星ホラー「殺人漫画」のキム・ヨンギュン。新入居青年ヒョングに、大好物”家門”シリーズ最新作では主演で元野球選手という二枚目ユン・ヒョンミン、管理人に、巧いチャン・グァン、入居者代表に、文芸作品も多いユン・ダギョン。【ep.5 リハビリ(活生)】監督は傑作「師の恩」「時間回廊の殺人」イム・デウン。ヒロイン、ジヨンに、最近「声」「毒戦」など活躍がめざましい若手個性派イ・ジュヨン、謎の女ハヌルに、お馴染みお母さん女優キム・ジュリョン。【ep.6 モッパン】監督は【ep.3】のチェ・ヨジュン。主人公ニョムニョムとボラに、どちらも端役でしか見たことのない美形チェ・スイムとパク・チナ。

 

直観的な感想は、ホラーらしくない、というところです。というのも、どの作品もホラー描写よりもある種の社会批判みたいなものに力が入っていて、ホラーとちょっと趣が違うと感じるからだと思われます。それぞれのエピソードは、”踊ってみた”現象(自己承認欲求)、毒親と過熱教育、ギャンブル依存、マンション・エゴイズム、実験動物虐待、大食い番組、といった社会現象への批判や憤りをホラー風アレンジしているように見え、実際、【ep.3 ジャックポット】での幽霊はほんの脇役ですし、【ep.5 リハビリ(活生)】や【ep.6 モッパン】にいたっては怨霊すら登場しないSFやスリラーなわけで、怨霊なんかより人間の方がよっぽど怖いぜ、みたいな感じは悪くありません。一方、そういうことからか、ホラー描写よりもグロテスク描写に結構力が入っていて、小動物虐待(風)描写や見苦しい食べるシーンは逆説的とはいえ相当メンタルに来るので、その方面に弱い方は気をつけた方が良いかもしれません。個人的には、【ep.1 ディンドン・チャレンジ】で登場する三人が踊るシーンを見て余りにプロっぽいので仰天したわけですが、後で元<CLC>メンバーだと知り、胸落ちすると共に懐かしさ一杯、ってな所に感動してたりしますし、【ep.2 四足獣】シン・ウンスが根暗引きこもりからどんどん輝いていくのにワクワクしたり、とそんな楽しみ方はできるかもしれません。

 

ちょっと期待していたホラー・オムニバスとしての小洒落た語り口とは違う方向の作品ではありますが、大体腕の確かな監督たちなので、それなりの2時間だ、と思われる観客も、多くはなくとも、いらっしゃる可能性はあるかもしれません。その類に入るかどうかは、かなりワリの悪い博打ではあるんでしょうけど…