もう一本「蜘蛛の巣」から<f(x)>クリスタルこと美貌チョン・スジョンの映画デビュー作を…妊娠5カ月の女子大生、彼女の両親、彼女の実父、年下の婚約者、そして彼の両親が織りなすちょっとシュールなハート・ウォーミング・ファミリー・ドラマの佳編…「愛鼻叫喚」(タイトルについては後述)

 

女子大生トイルは家庭教師先の生徒ホフンと妖しい関係に陥る…5カ月後、お腹の大きくなったトイルとホフンはそれまで秘密にしてきたトイルの両親に結婚すると報告に行く。妊娠5カ月、相手が年下浪人生、驚愕の事実に狼狽する両親は何とか思いとどまらせようと二人を説得しようとするが、キれたトイルは、実の父親なら祝福してくれる筈、と捨て台詞を残して実家を飛び出る。今の父親テホは母親ソンミョンの再婚相手で継父なのだ。二人はホフンの家に行くが、こっちのパンクな両親は妙に事態を歓迎してくれる。ホフンの家に飾られた3人の家族写真を見て、トイルはある決断をする。教師でチェという姓であることしか知らない実の父親を探しに行こう…こうしてトイルは高速バスに飛び乗り、故郷テグ(大邱)に向かうが、これは波乱の物語の序章に過ぎない…

 

妊娠5カ月の女子大生キム・トイル(土日)に、<f(x)>クリスタルこと美貌のチョン・スジョン、彼女の実母ソンミョンに、最近では「パラサイト」貧乏母役で名演チャン・ヘジン、15年トイルを育てた継父テホに、とぼけた味わいが絶品の名脇役チェ・ドンムン、トイルの実父ファンギュに、イケメン悪役でお馴染みイ・ヘヨン、浪人生の婚約者ホフンに、脇役では見た筈のとっぽいシン・ジェフィ、彼の母親に「チャンシルさん」主演カン・マルグム、父親に、お馴染み脇役いつもむさ苦しいナム・ムンチョル、トイルの幼馴染ポクナムに、妙にキュートなチャン・ヘッサル。

 

怒りっぽい妊娠5カ月の女子大生、頼りない浪人生、彼らの両親、女子大生の実父たち7人が右往左往するだけの物語で、しかもこれといって特筆すべきキャラでもありませんし、“阿鼻叫喚”と呼ぶほどの凄い事件が起きるわけでもないので、はっきりいえばとても映画的とは呼べない、というのが一般的な見方なんだろうと思われます。確かに、TVドラマだとしても今のご時世では物足りないんだろうな、というのが正直な所です。ところが、これが良いんです。特に理由もなく自分や周りに怒りを抱える妊娠5カ月のヒロインを中心として、オロオロ、オタオタ、時にはシミジミ、ワチャワチャする普通の家族たちが絶妙の空気感を漂わせている、といった感じでしょうか。離婚の過去を多少は気にする実母、15年頑張ったつもりの継父、15年ぶりに訪ねてきた娘に嬉しいながらも戸惑う実父、といった人物造型はありきたりながら、不思議とホノボノさせてくれます。多分、妙に尖ったヒロインの存在が上手くバランスを取っているんだろうな、と想像したりします。全くどうでも良いことですが、テグ(大邱)寿城池(スソンモッ)のアヒルボートとか、ヒロインの大好物どんぐりゼリー(トトリムッ)とか、謎の少女が持つ四文字漢字学習帳とか、妙に引っかかる小道具もお気に入りだったりします。

 

<少女時代>でいうと実姉ジェシカよりユナにそっくりの美形<f(x)>クリスタルことチョン・スジョンにとって、その存在感が光る映画デビュー作品だといっちゃいましょう。わざわざ探して観る程の作品とは絶対に申しませんが、何処かで配信されたなら、ちょっと気にかけてみる、くらいは良いかもしれません。

 

原題について。ヒロインの継父テホが漢字の教師ということで台詞には漢字四文字熟語が度々登場し、実の父親が見つかる契機にもなるわけですが、原題”애비규환”も”阿鼻叫喚(아비규환)”をもじったものと思われます。”애”は恐らく”愛”だろうと考え「愛鼻叫喚」としていますが、裏が取れたわけではないので間違っていたらゴメンナサイ。ついでに、ヒロインの名前はトイル(土日)ですが、土曜と日曜の間に生まれたから、だそうで、劇中にはイルウォル(日月)という名前の幼い少女が登場したりします。

 

ちなみに【YouTube】での正式予告編は、”[애비규환] 메인 예고편”で検索すればすぐ見つかりますが、7人の主要登場人物の魅力が良く出ていると思います。字幕はありませんが…