”YouTubeで観る韓国映画100選”第5弾は、一見韓国刑事ミステリー映画の原点かと…一人の男が一酸化炭素中毒で死んでいるのが発見され、刑事たちが周辺の怪しい人物たちを執念で捜査する…「将軍の髭」

 

大家である母娘が合鍵で部屋に入ると、暗がりの中、賃貸人キム・チョルンが死んでいる。部屋は絵画、写真、落書きのような走り書きで埋め尽くされている。一見練炭自殺のように見えながらも他殺を疑うパク刑事部長と若手刑事は、現場から見つかった三つの端緒を追うと決める。一つ目は、書きかけの作家ハン・ウジョン宛の手紙、二つ目は、一人暮らしにはある筈のない女性用ナイロン・ストッキングがあり、写真家の被害者にはある筈のカメラがないこと、三つ目は、被害者の額に残る傷跡、だと言う。キム刑事は第一の端緒に従い、作家ハン・ウジョンに会う。手紙には、1週間で完成させる、と綴られているが、ハン作家は新聞社の写真記者を辞めた被害者から小説の相談を受けていたのでその小説のことだろうと笑い飛ばす。被害者の書こうとしていた小説のプロットはこうだと言う…【アニメ】朝鮮解放後意気揚々と凱旋した将軍を始め軍人たちはみんな立派な髭を蓄えていた。将軍は髭を剃る時間がなかっただけだ、と笑うが、民衆たちはみんな真似をして髭を蓄えるようになる。そしてある髭を生やしていない気の弱い青年はそのことを理由として遠回しに解雇を迫られる。青年は、髭を生やしていないことは罪だ、と交番に出頭するが…一方若い刑事はストッキングから、被害者と一時期同棲していた若く美しい女ナ・シネを問いただす…こうして二人の刑事の執念の捜査が続くのだが…

 

元新聞社写真記者キム・チョルンに、”100選”10本近くに主演シン・ソンイル、元ダンス・ホステスのナ・シネに、この後42年を経て五つ星「ポエトリー」で円熟演技を見せる妖艶美形ユン・ジョンヒ、事件を執拗に追うパク刑事部長に、「荷馬車」など彼も”100選”常連大俳優キム・スンホ、シネの父ナ牧師に、30年代から活躍する迫力チョン・チャングン、チョルンの母親に、この後1996年イム・グォンテク「祝祭」まで300本の映画で活躍する大女優ハン・ウンジン。

 

シノプシスや老獪な刑事の風貌、そして映画の冒頭を観ても絶対に刑事ミステリーの原点に違いないと思って観たわけですが、中盤辺りからちょっと雲行きが怪しくなります。物語は、傑作「砂の器」のように事件を追う刑事が死んだ主人公に纏わる過去の様々な恩讐と向き合う、という構図ではあるのですが、その描き方に独特の違和感を感じることになります。冒頭のアニメもそうですし、幼少期の元両班で地元の有力者であった父親との確執の物語に始まり、朝鮮戦争のトラウマ、ヌードモデルと四月革命、同棲相手の暗い過去、彼女の父親との奇妙な縁、などなどそれらはある種オムニバスと呼べるほど一つ一つが尖った物語を構成しているわけです。途中から、血眼で犯人は誰か、と観ているのが恥ずかしくなる感じかもしれません。さらには、主人公と同棲相手を中心として、現れる会話で妙に浮世離れした哲学的芸術的隠喩が多用されているのも奇妙な感覚をもたらします。

 

途中ダリの画集が登場しますが、あのグニャリと折れ曲がった時計の謎と現実的で生臭い刑事が格闘しているかのような不思議な感覚の作品になっていると思うので、純文学系ファンも、ミステリー系ファンも、手放しで絶賛する作品とは呼べないのかもしれません。実は、ラストシーンが目茶目茶お気に入りなんですが、もし気になるならご自身でお試し下さい。確かに”100選”に選ばれるクオリティはあると思います。それはそれとしても、66歳での演技しか見ていませんでしたが、若いムン・ジョンヒのちょっと無機質でいて妖艶な美貌は圧巻だと思われます。

 

それにしても、今回もやたら煽情的なポスターで申し訳ありませんが、全く映画の雰囲気とは無縁な、当時のさもしい客寄せ根性の現れだろう、とお許し下さい。

 

【YouTube】장군의 수염(1968) The General's Mustache(Janggun-ui Suyeom) (1968)<한국고전영화 Korean Classic Film>(英・韓字幕付き)