これも旅行中に日本公開決定の報を見たので…現時点「犯罪都市3」「密輸」についで本年3位、大災害に唯一倒壊を免れたアパートを舞台に繰り広げられる、実に珍しいポスト・ディザースター映画の傑作…「コンクリート・ユートピア」

 

<報道映像を使って1970年代に始まり、高層化、価格高騰に至るソウルのアパート開発の歴史が紹介される>そんなアパートの一室602号でキム・ミンソンが目覚める。隣では妻のミョンファが寝息を立てている。厚着をしたミンソンがベランダに出て街を見下ろす。そこには全てが倒壊しいまだに炎や噴煙が漂う灰色の街並みが広がっている。ここはファングン・アパート103棟。見晴らす限り、唯一倒壊を免れた15階建てのアパートだ。謎の大惨事から数日、住民たちは、食料や水の確保に奔走している。時は12月、電気のない生活には厳しい寒さだ。そんな二人の部屋のドアを叩く音がする。飢えと寒さに苦しむ母親と幼い息子が宿を求めているのだ。ミンソンは断ろうとするが、子供のいない看護婦のミョンファは受け入れる。ある朝、アパートの1階で爆発火災事故が起きる。その時、率先して消火活動を指揮する男が現れ、何とか鎮火する。男は902号に住むキム・ヨンタクだ。今回の事故が非居住人(”外部人”)の屋内での焚火が原因だったこともあり、居住人会議が開催される。会議は非居住人を追い出すべきか、否かで激論が交わされラチがあかない。まずはリーダー(代表)が必要だ、との声が上がり、火事騒ぎの働きぶりからキム・ヨンタクが選ばれる。こうしてヨンタクのリーダーシップの下、136世帯219人が住むファングン・アパートの過酷なサバイバルが始まる…

 

ファングン・アパート103棟902号に居住し住民臨時代表に選ばれるキム・ヨンタクに、説明不要イ・ビョンホン、602号に居住する公務員キム・ミンソンに、もはや『梨泰院クラス』を乗り越え名映画俳優と呼べるでしょうパク・ソジュン、その妻で看護師チュ・ミョンファに、映画女優歴は10年を超える童顔美形パク・ポヨン、ファングン・アパート女性会長キム・グメに、「ひかり探して」「三姉妹」などの名女優キム・ソニョン、903号に居住していたがとある事情でアパートから離れていた若いムン・ヘウォンに、初めは全く分かりませんでしたが何とあの「はちどり」の美少女が美女として帰ってきたパク・チフ、809号に居住する独身男トギュンに、「8月のクリスマス」からの個性派脇役キム・ドユン、キム・グメの息子チヒョクに、10歳から活躍する名子役も20歳目前の爽やか系二枚目に成長イ・ヒョジェ。友情出演では、生き延びた野宿者に、オム・テファ監督の実弟で監督作には「イントゥギ」「隠された時間」と出演し続けるオム・テグ、扮装で気づきませんでしたがその仲間には、チョン・ヨンギ、オ・ヒジュン、キム・ジュンベといったお馴染み脇役も出てたようです。

 

大災害後の過酷なサバイバルを描くという非常に珍しいと共に非常に優れた映画だと思いますが、観客動員数3,849,217人(現時点で国産3位、総合8位)はかろうじて損益分岐点380万人を超えた程度です。やはり今年の韓国観客の動向はいささか腑に落ちないといった所でしょう。原作がキム・スンニュンのウェブ漫画「愉快ないじめ」の第2部「愉快な隣人」ということですが、ヒロイックで能天気なパニック映画として観るとがっかりする一方、本国の評価を見ると評論家などプロには非常に高い評価を得ているようです。韓国の持つ様々な社会的暗部、例えば格差・住宅難・金融詐欺等を巧みに背景として描くところが秀逸だと思いますし、パク・チャヌク監督のもとで学んだというオム・テファ監督は生々しく過酷な生存競争に、あたかもヒューマニズムを押し潰す新興宗教的熱狂のような匂いをも振りまき、さらには評論家の指摘によればカンニバリズムや犬食などのダークなイメージを密かに埋め込みながら、見事なディストピア戯画として構築していると思われます。ポスト・ディザースターというかなり珍しい主題は実に魅力的で、パニック映画というよりは社会派スリラーに近いと感じられ、濃密な2時間超が過ごせたと思います。軽薄ですが、非常な美形に成長したパク・チフを見るだけでも十二分に価値があったとも思えたりします。

 

ということで、最近素晴らしいクオリティを見せる韓国パニック映画を期待して観ると、落胆する可能性は小さくなさそうに思え、むしろ、例えばポン・ジュノ「雪国列車」パク・チャヌク「渇き」みたいなダーク・ディストピア映画として挑むくらいが穏当なのかもしれません。ディストピアなので期待通りの展開にならないこともあって五つ星とはいきませんが、優れた映画、というのは間違いないでしょう。

 

楽曲について。劇中新年を迎える宴でイ・ビョンホンがカラオケで熱唱し、エンドロールでまだ二十歳前のパク・チフが柔らかく歌うのは、ユン・スイルのポップ演歌1995年「アパート」。洒落た選曲です。

 

全く関係のない余談ですが、あの傑作コメディ「6/45」の日本公開も決まったようなんですが、邦題を見て悶絶、何と「宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました」とのこと。映画が映画だけに、止む無し、といった感じかもしれません。あの朝鮮半島ギャグをどう日本版に落とし込むか、これは見ものだと思います。12月29日公開予定。