リュ・スンニョン、リュ・ヒョンギョンのWつながりで…韓国映画では極めて珍しいミュージカル・スタイルで、夫婦の過去、現在、未来を切なく温かく描いて秀作…「人生は美しい」。

 

主婦セヨンは慌ててバスに飛び乗る。そこへ夫キム・ジンボンから携帯が鳴り、”今どこだ?”と怒っている。今日はセヨンの内視鏡検査結果を聞く日で、病院の呼吸器内科で待っているのだ。セヨンはそこで間違った系統のバスに乗ったことに気づき慌てて降りるが、そこは鐘路3街(チョンノサムガ)で、目の前には夫とのデートの思い出が懐かしいソウル劇場がある。セヨンの心は一気に30年前へと飛んでいく…歌と踊り…その頃、ジンボンは一人で医師の説明を聞くが、セヨンの肺は癌に冒され余命は二か月ほどだと言う。遅れてきたセヨンを粗末な食堂に連れていき、病状を説明する。ジンボンは怒ったように市役所の仕事場に戻り、セヨンは思春期の息子と娘を思い茫然自失だ。夫婦は、そして家族は…

 

市役所勤めのカン・ジンボン50歳に、リュ・スンニョン、その妻で重い病が判り人生を見直すことになるオ・セヨンに、意外にも知る限りリュ・スンニョンとは初共演の演技派熟女ヨム・ジョンア、高校生時代のセヨンに、「コレクターズ」キュートなパク・セワン、セワンの初恋の相手パク・チョンウに、「ソウル・バイブス」二枚目オン・ソンウ、高校生セヨンの親友ヒョンジョンに、「ペルソナ」などシム・ダルギ、夫婦の息子カン・ソジンに、今売り出し中のイケメン歌手ハ・ヒョンサン、娘カン・イェジンに、映画デビューのキム・ダイン。特別出演では、苦情で市役所に米をばらまく爺さんに、ベテラン演技派チョン・ムソン、ジンボンの父親に、意外にもミュージカルもこなし美声を聞かせるパク・ヨンギュ、母親に、お馴染みキム・ヘオク、新婚時代のお隣おばさんに、笑えるシン・シネ、木浦高校教師に、お馴染みキム・ジョンス、ジンボン上司の事務長に、今回は笑えるコ・チャンソク、チョンウの妹チョンアに、「三姉妹」で名演キム・ソンヨン、娘イェジンの担任教師に、リュ・ヒョンギョン。

 

エンタメ・サイト"WOW!Korea"では”韓国初のジュークボックス(オリジナルではなく既存曲をベースにした)ミュージカル映画”と紹介されているように、ミュージカル演劇が極めて盛んな韓国ですがミュージカル映画は極めて稀です。知る限りでは幽霊たちの大騒ぎを描いた「三差路劇場」くらいですが(伊藤博文公を暗殺した安重根(アン・ジュングン)を描く昨年末に公開された「英雄」がそうらしい)、恐らく評価は割れると思われます。作品は三つの要素、余命宣告された妻を中心とした家族の物語、妻の思い出を巡るロードムービー、そして、それらを彩る十数曲の歌と踊りのミュージカル・シーンから構成されているので、そのバランスが観客を選ぶような気がします。個人的には、どの要素も実にレベルが高く大いに評価できると思います。家族の物語としては、家族に尽くしてきたのに”ヤー(おい)”とか”ヨボ(おまえ)”とかばかりで”セヨン”という名前で呼ばれることがなくなり、人生唯一のパーティが結婚式だったという妻の無念と怒り、ロードムービーとしては、妻の思い出をなぞってトンタン(東灘)から木浦、莞島、釜山など半島南西岸を巡る風情、そしてミュージカルとしては、フラッシュボブのように周りを巻き込んで歌い踊るリュ・スンニョン、ヨム・ジョンアたち登場人物たちの見事さ、これらが融合し高い完成度を見せてくれると思います。

 

それぞれが高めあっているか、打ち消し合ってしまっているか、は観る人によるでしょう。個人的には、アラフィフのリュ・スンニョンとヨム・ジョンアの20歳演技に多少無理を感じたりもして、やや五つ星には足らず、といったところでしょうか。

 

楽曲については余りに多いので、1曲だけ。映画の冒頭セヨンが鐘路3街(チョンノサムガ)ソウル劇場(後述)の前でデートしていた昔を思い出し、リュ・スンニョンとのデュエットで歌うのはイ・ムンセ(이문세)1996年「早朝割引(조조할인)」、貧しかった二人のデートシーンにピッタリの選曲になっています。他に、チェ・ベクホ(최백호)、イム・ビョンス(임병수)、TOY(토이)、息子として出演しているハン・ヒョンサン(하현상)などの楽曲が使われています。

 

ちなみに凄い伝統のソウル劇場ですが、この作品はコロナ禍で2年ほど倉庫に眠っていたので、撮影時には営業していましたが、コロナ禍で21年に閉館、22年の本作品公開時にはもうなかった、という切ないお話になっています。ついでに、このシーンの“昔”のパートでかかっている看板は「バック・トゥ・ザ・フューチャーⅢ」「ウムクペミの愛」「ゴースト/ニューヨークの幻」なので1990年、“今”のパートの看板はプ・ウンジュ監督「我が家(우리집)」なので2019年と分かる仕掛けになっています。