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知る限り韓国映画初にも関わらず、抜群に面白いホラー風味ミュージカル、「三叉路劇場」。

或る雨の夜、「三叉路劇場」へ行って映画を見る、と云って姿を消した認知症の祖母を追って、女子高生は雨の町を彷徨う。そんな彼女の前に、雨があがった夜霧の中、突然古びた劇場が姿を現す。祖母を探すため、彼女は、その「三叉路劇場」にバイトとして居つくが、ある夜、劇場で四人の亡霊が彼女にまとわりつく。女子高生は、祖母のことを知っているみたいな亡霊たちと因縁を結ぶうち、亡霊たちが成仏できずにいる原因である或る映画に祖母が関係していることを知るようになるが…

主演の女子高生に、実に魅力的キム・コッピ、自殺願望の劇場社長に、見事な美声を聞かせる「デイジー」チョン・ホジン、四人の亡霊には、売店売り子に、森公美子を思わせるミュージカルが本職のパク・チュンミョン、映写技師に、「スーパースター☆カム・サヨン」とかのチョ・ヒボン、掃除夫に、演劇が本職のパク・ヨンス、色っぽい経理係に、やはりミュージカル畑のハン・エリ。他には、少年幽霊に、「奇跡の夏」「飛べ、ホ・ドング」の名子役チェ・ウヒョクや、祖母に、名おばあさん役者ソン・ヨンスンも顔を見せます。

昨年の百想芸術大賞、「グエムル」「いかさま師」「ラジオ・スター」「サイボーグでも大丈夫」といった錚々たる顔ぶれに並んで、この作品が作品賞候補にノミネートされていたこと、そして、チョン・ゲス監督が新人演出(監督)賞を受賞したことを記憶してられる方がそう多いとは思えませんが、受賞レースに加わって当然、と思わせる面白さです。そのポップでキッチュな感じに一番印象が近いのは「ロッキー・ホラー・ショー」なんですが、さらに脚本が凝っていて、昼間の倒産間近の劇場、深夜の亡霊お祭騒ぎ、さらには劇中映画「牛頭人間ミノス・テソドン」、と四人がそれぞれ三役を務める三重構造を持った物語に、女子高生や祖母、劇場社長が絶妙に絡む展開は実によく練られています。

ところで、「花雨」という珍しくも美しい名前を持ったキム・コッピですが、初めてかと思いきや「女、チョンヘ(チャーミング・ガール)」ではキム・ジス、「6月の日記」ではキム・ユンジンの少女時代を演じるなどのキャリアを持っていて、ミノルタX-7のCMで衝撃を与えた若き宮崎美子を彷彿とさせるナチュラルで知的なイメージを持つ期待の女優です。この映画でも、不思議な映画空間に実によく馴染んでいます。

ブルース、オペラ、パンク・ロック、バラードといった様々なジャンルの音楽を散りばめたミュージカル・シーンも楽しく仕上がっていますが、さすがに、ハリウッドの名ミュージカルに比べると一歩及ばないので五つ星という訳にはいかないながら、韓国映画初の試みとしては上々の出来ばえと云えるでしょう。お薦めですが、ただイケメンが一人も出てないので、日本輸入は期待薄と思われます。

ちなみに、物語の鍵になる劇中映画「牛頭人間ミノス・テソドン」ですが、多少チープながらも雰囲気たっぷりに仕上がっていて、「マジェスティック」劇中映画のブルース・キャンベル主演「サハラの盗賊」に次ぐ出来ばえだと思います。さらに余談ですが、劇中上映される無声映画は、やはり恐怖風味タップリの「カリガリ博士(Das Kabinett des Doktor Caligari)」(1920)だったりします。