キム・ヒウォンつながりで、さらに2021年1,538,038人を集めて10位…何と、あのずっとファンだった女優チョ・ウンジが監督したという、芸達者が集まって8人の男女の関係をコミカルにシニカルに柔らかく描く群像劇の秀作…「ジャンルだけロマンス」

 

出版社代表スンモは出資者から、キム・ヒョンの新作はいつ出るか、と責められている。お抱え作家ヒョンは7年も新作を書けてないのだ。ヒョンはスイスへ取材旅行中だと弁解するが、傍にいた秘書は釣り雑誌の表紙を飾るヒョンの写真を見せる…ヒョンは暗い顔で汽車に乗っている。恩人キム教授が亡くなったと連絡があり葬式に向かっているのだ。そして式場に着くと、そこは葬式ではなく70歳の誕生祝の宴だ。スンモは、こうでもしないとお前を捕まえられない、とヒョンを責める。一方ヒョンの別れた妻ミエは、息子ソンギョンが休みがちだと高校から呼び出しを食う。実際には、ソンギョンはガールフレンドから急に別れを告げられたからだ。しかも彼女は妊娠したと言う。勿論ソンギョンにはそんな覚えはない。ヒョンは先輩作家ナムジンに呼ばれる。ヒョンの小説でゲイだと仄めかされヒョンを恨んでいるのだ。ナムジンの家にはイケメン恋人ユジンが住んでいるが、ユジンは意味ありげな視線をヒョンに送ってくる。ソンギョンが近所で煙草を吸っていると隣人の人妻ムン・ジョンウォンが一本欲しいと近づいてくる。ヒョンは今度は元妻ミエに呼ばれる。息子ソンギョンに事情を聞き出して欲しいと言う。しかしそのうち元夫婦は怪しい雰囲気になりまさにコトに及ぼうとした所に息子ソンギョンが帰ってくる…グダグダの関係にある8人にまともな明日はくるんだろうか?

 

再婚した妻子をアメリカに住まわせる作家で文学部教授キム・ヒョンに、出れば大ヒットのドル箱俳優リュ・スンニョン、ヒョンの元妻で今はスンモの恋人パク・ミエに、これまで注目したことはありませんが実に巧い円熟女優オ・ナラ、ヒョンの長年の友人で出版社代表スンモに、今や主演級の存在感たっぷりキム・ヒウォン、ミエとソンギョンの近所に住む妙に色っぽい人妻ムン・ジョンウォンに、「アトリエの春」以来大ファンのイ・ユヨン、別れたヒョンとミエの高校生の息子キム・ソンギョンに、子役出身で「ユンヒへ」「The Witch」などもはやベテラン若手ソン・ユビン、ゲイで文学部学生のユジンに、映画デビューの二枚目ム・ジンソン、特別出演では、ユジンのゲイ恋人の作家ナムジンに、大ファンのオ・ジョンセ。友情出演では、キム・ヒョンの恐妻に、「房子(パンジャ)伝」など個性派美形リュ・ヒョンギョン。

 

まずは監督チョ・ウンジのことから。彼女は韓国エンタメにのめり込むきっかけとなった『パリの恋人』ヒロインの友人役で初めて見ましたが、その後ここの感想でも22回も登場する独特の感性を持つ名バイプレーヤーです。その彼女が監督したとのことで驚きなんですが、作品出来栄えの良さにさらに驚いた、という次第です。まず脚本が見事です。8人の男女を描きますが、男女関係にこだわらず、元夫婦、親子、ゲイ、片思い、幼馴染、ライバル、師弟といった複雑な要素を組み込んだ語り口は見事でしょう。しかも殆どがスパイシーな関係であるところがまた大好物で、タイトルの「ジャンルだけロマンス」とは言い得て妙だとトコトン納得です。勿論役者陣も圧巻で、リュ・スンニョンの困り顔が中心ですが、女優陣オ・ナラ、イ・ユヨン、リュ・ヒョンギョンが女流監督のせいか活き活きしていて好演だと思います。

 

映画館で観るべき広がりやダイナミズムにはやや欠ける感じは否めないので五つ星は難しいですが、活き活きした登場人物たちを存分に楽しめる優れたちょっと辛口群像劇として十分な評価に値すると思います。

 

余談を二つ。

・重要なアイテムに、”ウジュピス共和国”が出てきますが、バルト3国リトアニアの首都ヴィリニュスに実在する人口7000人ほどの国境もない芸術家が中心の未承認国家です。劇中にも登場しますが、41条からなるユニークな憲法で有名だそうです。物語では、4月1日の独立記念日(要するにお祭)が印象的に使われています。

・劇中、女優の卵イ・ユヨンが突然叫ぶ台詞がありますが、”평생 수명이 길어졌으니까 철도 그만큼 늦게 드는 거야!”です。これは名作「美術館の隣の動物園」韓国映画界で最も美しい女優シム・ウナの台詞で、”平均寿命が延びたので大人になるのも時間がかかるのよ”といった風な意味で使われているようです。

 

楽曲について。イ・ユヨンがカラオケでがなるのは、テジナ(태진아)2015年「ジンジンジャラ(진진자라)」、高校生ソンギュンが歌うのは、K.will(케이윌)2014年「今日から1日(오늘부터 1일)」、エンディングの土俗的なロックは、ロックバンド<シンシン(씽씽)>が黄海道の民謡を題材にして歌う「サソル(パンソリの語り)ナンボンガ(黄海道の民謡):사설난봉가)」。