もう一本、ハン・イェリ。とはいえ、これもここ5年で最も進化した俳優マ・ドンソク作品といった方が的確かもしれません、「ファイティン!」

 

ロスの華やかなクラブで、巨体が店内に目を配っている。幼い頃にアメリカに養子としてやってきた用心棒のマークだ。そこへ腐れ縁のチンギがやって来て、もう一度アーム・レスリングの試合に出てくれと懇願する。根負けしたマークは地下賭博場で試合に挑み勝つが、チンギは勝ち金を持って逃げてしまう。馘首になったマークは、しがないスーパーマーケットの警備員で細々暮らす。そこへチンギが電話してくる。韓国でアーム・レスリングの大会があるから韓国へ行こう、との誘いだ。アーム・レスリングに未練のあるマークは、重い腰を上げ、かつて獲ったチャンピオン・メダル一つを持って飛行機に乗る。仁川空港にチンギは派手な車で迎えにくるが、食事は、知らない他人のトルチャンチ(盛大な子供の一歳誕生日会)へ潜り込んでの食べ放題だ。東大門のグッド・モーニング ・シティ(小さな店の集まるモール)をユ社長がミカジメ料を集めて回っている。チンギは大物エージェントを装ってユ社長に近づいてマークを売り込むが、ユ社長は八百長を前提に話に乗る。一方マークは、地図を頼りに坂道だらけの町をうろついる。子供の自分を捨てて養子に出した母親の家を探しているのだ。目指す家に着いて、ベルを鳴らすか迷っていると、幼い兄妹が声をかけてくる。ここのお婆さんの孫だと言う。チンギからの電話でそのまま引き返すマークだが、兄妹から不審な男の話を聞いた母親スジンは怪訝そうな表情だ。こうして、マークの韓国での複雑な挑戦が幕を切って落とすのだが…

 

米国で養子として育った韓国系アメリカ人でアーム・レスリング強豪マーク、韓国名ペク・スンミンに、今や国際的肉体派俳優マ・ドンソク、東大門(トンデムン)で小さな衣料品店を営むイ・スジンに、ハン・イェリ、マークとはアメリカからの腐れ縁でスポーツ・エージェントを自称するパク・チンギに、ハン・イェリとの共演が「最悪の一日」「殺戮にいたる山岳」に続いて何と三本目クォン・ユル、スジンの息子・娘に、二人とも演技の上手い美男・美女子役チェ・スンフンとオク・イェリン。特別出演では、チンギの父に、愛嬌・哀愁たっぷりキム・ジョング。

 

スタローン主演「オーバー・ザ・トップ」以外に知らないアーム・レスリングを素材とした珍しい映画ですが、凶暴な強敵、悪辣な八百長胴元、口八丁身勝手な相棒、そして家族の絆…教科書通りのスポ根映画の構造で、それが実に心地良い作品です。裏を返せば、作品として何か新しいものを期待すると裏切られるということです。強いて教科書以上と思われるのは、マ・ドンソクの肉体と英語(後述)、ハン・イェリの美しい泣き方、韓国独特の下町風情といったところでしょうか。ちなみに、東大門(トンデムン)のごちゃごちゃした市場がGood Morning Cityという高層ビルに変わっているのには驚きましたが、中は昔のまま屋台くらいの小さな店がひしめき合っていて、通路をヤクザが肩を揺すってミカジメ料を集金しているシーンには思わず声を上げて笑ってしまいました。さらに、五輪やアジア大会など国家を背負っているという気負いがない分、すんなり物語に入っていけるのもあるかもしれません。あのむさ苦しいマ・ドンソクが苦手でさえなければ、十分に広いストライク・ゾーンを持った作品だと思います。

 

映画として王道ですし、これといって驚きや衝撃があるわけではなく、いつもなら「及ばない」とするところでしょうが、クライマックスでは、マ・ドンソクやハン・イェリに思い入れながら、思わず思い切り歯を食いしばる自分に気づいてしまった、という体験を重んじて、五つ星とします。

 

余談ですが、マ・ドンソクの英語があまりに流暢過ぎるので思わずwikiを見ちゃったんですが、皆さんはご存知でしょうが、何と18歳で渡米、米国籍を取り、役者デビューも韓国でより10年も早かったとのこと。大ファンのつもりでしたが、不明を恥じました…