ハン・イェリに戻って、シンプルなマン・ハントものに見えながら複雑な後味を残す「殺戮にいたる山岳」

 

老婆が、山道を歩き、今は閉山したムジン鉱山の坑道に供え物をする。ここの落盤事故で死んだ息子チュンヒョンを偲んでいるのだ。その帰り道、にわか雨で道端の崖が崩れ、山肌に金色に光るものが見える。老婆は、金が出たのではないかとムジン警察署に通報するが、電話を受けたのはパク・ミョングン刑事だ。パク刑事は一人で現場に赴き、金に似たただの黄鉄鉱だと老婆に告げるが、老婆と別れると同じく刑事の双子兄トングンに連絡し、金が出たので猟友会の仲間を連れて来るように言う。落盤事故の夢にうなされ老猟師ムン・ギソンが目覚めると、ソウルから来た娘がドアを激しく叩いている。電話にも出ず、毎日山へ狩りに行く父親を心配して来たのだ。娘は、父親に写真を渡す。運動会でキソンと老婆の孫娘ヤンスンが二人三脚で走る姿が写っている。ヤンスンは落盤事故で死んだ部下チュンヒョンの一人娘で、日頃から気にをかけているのだ。娘を送る車の中から、鉱山へ続く入山道に見慣れぬ都会の車が並んでいるのを見て、キソンは不審に思う。今日はチュンヒョンの命日なので山に入ろうと警察署に猟銃を取りに行くが、パク・ミョングン刑事が山崩れのため今日は入山禁止だと言う。それでも山に向かうが、途中でヤンスンが悪ガキどもに絡まれているのに出逢う。少し発達障害はあるが武道を習う元気なヤンスンは男の子を投げ飛ばす。チュンヒョンの母親である祖母は山へ薬草を採りにいっていると言う。山道の入り口では、都会から来たパク・トングン刑事と5人の猟友会仲間が入山の準備に忙しい。化け物が出るという噂もあり、ライフルなど重装備で山に入っていく。遅れて着いたキソンも、猟銃がないので空気銃を持って山に入っていく。そして、帰ってくるのが遅い祖母を心配してヤンスンも山に向かっている。こうして、老猟師、老婆、少女、そして金に目の眩んだ男たちの苛烈な狩り合いが始まろうとしている…

 

元鉱山技師の老漁師ムン・ギソンに、韓国映画界発展を支えてきた大黒柱で超のつく名優アン・ソンギ、刑事の双子パク・トングン/ミョングンの二役に、今や主演作も多い脇役の頃から大好きなチョ・ジヌン、キソンの亡くなった部下チュンヒョンの一人娘で老婆の孫娘ヤンスンに、ハン・イェリ、唯一背広姿の卑劣な悪党チュノに、「最悪の一日」でハン・イェリの軽薄二枚目カレシを演じたクォン・ユル。特別出演では、ムジン警察署の班長刑事に、こちらも主演サスペンス目白押しのソン・ヒョンジュ。

 

老境に入ったスタローンやイーストウッドのアクション映画を期待すると裏切られるでしょう。山に詳しい老漁師が土地勘を活かし都会のハンターたちをやっつける、といった感じかと思っていましたが、銃撃戦はどちらかというと泥臭い肉弾戦として描かれます。むしろ、過去の因縁から来る部下やその娘に対する思いに駆り立てられ無謀な戦いに傷だらけで飛び込んでいく老人、という視点が強い感じだと思います。そういった意味で、アクション映画として観るなら期待に添えない一方で、松の木や銀の指輪のペンダントを駆使して語られる家族ドラマとしての仕掛けが重かったりして、観客は鑑賞後に複雑な後味を味わうことになるでしょう。それにしても、アン・ソンギとハン・イェリの競演は見事で、チリチリした火花を感じます。この2年前「春の夢」のチャン・リュル監督「フィルム時代愛」でも祖父・孫を演じているはずですが、そちらも是非観なければならないでしょう。

 

これだけの俳優を揃えるのは至難の業ですから期待も大きかったんでしょうが、観客数も65万人程度で、俳優の魅力を引き出し切れたとはいえないと思われます。アン・ソンギ、ハン・イェリ、チョ・ジヌンらの顔が見れたらOK、とかの観客限定かもしれません。