イメージ 1

 

もう一本マ・ドンソク主演作を観たんですが、4作連続しんどいかも、と思ってたら、WOWOWで「最新韓国サスペンスの衝撃」という特集が始まり、なかなかのラインナップなんです。今日はその中の一本で、160万人というヒット作でもあり、ずっと気になっていた作品、「ザ・フォーン (邦題:リバイバル 妻は二度殺される)」。

人気のない工場で労組委員長が柄の悪い男たちに暴行されている様子をビデオが撮影している…2014年5月16日。ニュースは太陽フレアが発生し、携帯などの通信障害に気をつけろと伝えている。深夜、救急車が高級住宅街ソチョドン(瑞草洞)を走る。ある一軒の住宅では、刑事や鑑識でごった返している。そのリビングでは、妻ヨンスの遺体が担架に乗せられる。ダイニングでは、夫ヨンスが頭を抱えている…時間は遡って、その朝。ヨンスは、血文字で書かれた脅迫状を夫トンホに渡す。トンホは、弁護士には日常茶飯事だ、と気にかけない。それに、弁護士事務所を辞めて製薬会社の法務部への転職も決まっているから、といつも通り法廷に向う。法廷で勝利が決まった時、トンホの携帯が鳴る。ヨンスから、鍵が見つからない何処に置いた? 隠れて煙草を吸ったでしょう、と夫を非難する電話だ。そして、中学生の娘キョンニムは、バイオリンのコンクールで慶州に向う。トンホは、留置中の情報屋クァンヒョンを訪ねる。テユン建設の労組委員長失踪の証拠となる写真があるというのだ。コピーは画質が悪く、原版を家へ送れと指示し、クァンヒョンを釈放させる。トンホが事務所を片づけていると、部下の弁護士キュスが、送別会をやると誘ってくる。トンホは例の写真を、部下の女弁護士ヘジンに引き継ごうと、封筒に入れる。その頃、ヨンスは、スンチョンヒャン(順天郷)大学病院で女医として忙しく働いている。部屋に戻ると、夫トンホから、会議が入ったので迎え不要、とメッセージが入っている。折り返し電話を入れるが、夫は出ない。トンホは、居酒屋で弁護士仲間と送別会の真っ最中だ。ヨンスは、帰り道に軽い追突事故を起こし、車の前部に傷をつける。夫に電話を入れるが、またも、夫は出ない。トンホは、飲み会やカラオケで盛り上がっているのだ。午後6時、ヨンスは帰宅するが、やがて、何者かが、家に侵入してくる。深夜3時。酔ってタクシーに乗り込み、妻からの追突事故のメッセージを見て、折り返し電話するが応答はない。そして、深夜3時半、帰宅したトンホは、無残にも刺殺された妻を発見する。警察で事情聴取を受けていると、娘キョンニムが来て、泣き崩れる…1年後。トンホは、事件の進展がないことに怒り、警察署に怒鳴り込む。そんな時、かつて部下の弁護士キュスから呼び出される。結局製薬会社法務の仕事につかなかったトンホに、事務所に戻らないかと持ちかける。翌朝、5月16日の朝、久しぶりに新しいワイシャツに袖を通したトンホは、キョンニムを中学校に送り、弁護士事務所に向おうとする。その時、携帯が鳴る。送信元は、"キョンニム母"、1年前に死んだ筈の妻ヨンスだ。電話の向こうから妻ヨンスの声がする。鍵が見つからない何処に置いた? 隠れて煙草を吸ったでしょう、と非難する電話だ。1年前のあの電話と同じだ。しかも、キョンニムが出て、飲みすぎるな、と言うのも、あの時のままだ。そのキョンニムは、目の前で、中学校に向って歩いているのだ。いたずら電話は止めろ、とトンホは激昂する。トンホが事務所に着くが、ニュースでは、1年振りに太陽フレアが発生したと伝えている。そして、16時過ぎ、再び、妻からの携帯が鳴る。会議が入ったというのは嘘で本当は飲み会でしょう、とトンホを責める。1年前には出なかった電話だ。トンホは思わず日付を聞く。ヨンスの答は"2014年5月16日"。それは、ヨンスが殺された1年前のあの日からの電話なのだ…

弁護士トンホに、「かくれんぼ」「悪の年代記」についで主演三作目で合計900万人を集めすっかりサスペンス映画スターとなったかつての名脇役ソン・ヒョンジュ、その妻ヨンスに、シリアス・コメディ・アートなんでも来いの演技派美形オム・ジウォン、夫婦を執拗に狙う殺し屋チェヒョンに、最近めちゃめちゃ出演が増えている名脇役ペ・ソンウ、夫婦の娘キョンニムに、子役出身の美少女ノ・ジョンウィ、トンホの部下の弁護士キュスに、いつもは笑える脇役チョ・ダルファン、刑事ソクホに、味わい深い脇役イ・チョルミン、トンホを助ける謎の情報屋クァンヒョンに、個性派脇役ファン・ソクチョン、トンホの部下の女弁護士ヘジンに、キュートなファン・ボラ。

勿論サスペンス映画なんですが、「時間超越」をテーマとしたSF映画の面持ちが、作品に絶妙(或いはコアなSFファンなら微妙と感じるかもしれません)な味わいを醸しだしています。「時間超越」を題材にした韓国映画といえば「イルマーレ」「リメンバー・ミー (原題:同感)」という傑作があって、郵便箱やアマチュア無線という小道具だけで「時」を超え叙情溢れるファンタジーに仕上がっていますが、本作は、1年という時空を超えてつながる携帯という小道具を使い、しかも、韓国映画お得意のダーク・サスペンス風に仕上げた所が秀逸だと思います。結構お気に入りのB級SFにピーター・ハイアムズ「サウンド・オブ・サンダー」ってのがあって、過去を変えるとそれが現在に響いてくる、という内容ですが、本作でも、1年先からの電話で、妻が殺される第一の歴史を妨害すると、再び妻が狙われ殺されるという第二の歴史が始まり、そしてその度に、現在のトンホの状況も変わる、というストーリー展開は、よく考えられているでしょう。勿論、SFの玄人が観れば矛盾がいくつも見つけられるんでしょうが、泥臭いサスペンス風味にすることで、映画としての緊張感は見事に持続していると感じます。車の傷、証拠写真、Yシャツ、カフスボタン、手帳、小犬、とかの小道具の使い方も、個人的には大好感です。役者では、勿論、ソン・ヒョンジュでしょう。三作続けてとことん追い込まれる主人公を演じるのは或る意味では切ないんでしょうが、最早ソン・ヒョンジュ世界とでも呼ぶべき独特のサスペンス空間を造り上げているという感じです。個人的には、オム・ジウォンが一押しです。居丈高なキャリア妻を演じながらも、必死で自分の殺される運命から逃れようとする役は、言葉使いは間違っているんでしょうが、実にキュートだと思います。残虐ながら何処となく切ない殺し屋を演じるペ・ソンウも、新境地と呼べる名演だと云えるでしょう。

三回繰り返されるたった二日間の物語、とも云えますが、個人的には、二時間楽しませてくれるアイデア満載の名サスペンス、と感じます。SF的仕掛けをきちんと理解・評価できないこともあって五つ星は見送りますが、捻ったサスペンスが好き、という観客には充分に通用する可能性はあるでしょう。秀作サスペンスだと思います。