イメージ 1

 

90万人を動員できなかったのでヒットとは言い難いんでしょうが、実にチャレンジングで好感、タイムトラベル密室サスペンスの傑作、「11時」。

「明日のことを誇ってはならない。一日のうちに何が起こるかを知ることができないからだ」旧約聖書より箴言27:1。近未来、ENERGIE社。チーム長チョン・ウソクは、ロシア人社長に静止型タイムマシンを提案している。人工的なブラックホールを造るには少なくとも100個のLHC加速器が必要とのウソクの説明に、社長は余りにも巨大な投資に尻込みする。しかしウソクは、マーシャル諸島のグレートホールに巨大なエネルギーが潜むことを発見し、しかもそれを制御するのに必要な「反エネルギー」を開発し、時間旅行に必要なワームホールを維持できると言う。社長は、2年前に癌で死んだウソクの妻チユンのためか、と尋ねるが、ウソクは、未来では幹細胞の技術も飛躍的に進歩していると言い返す。社長は脊髄損傷のため車椅子が必要なのだ。時間旅行は可能だ、とウソクは言い切る。マーシャル諸島のグレートホール、最初の潜水艇が海に投下される。ロシア大統領は、タイムマシン(転送器)を「トロツキー」と名付けたいと言ったという。もしスターリンに代わってトロツキーが権力を握っていたら、ロシアは変わった筈、との思いからだ。3年後、グレートホールの海底基地。技師パク・ヨンシクは韓国ガールズ・グループの未来を嘆いている。少女時代のユナは結婚し、Miss Aのスジは婚約したからだ。女性技術者ヨンウンに博士号がないとからかわれるが、自分が博士号を取ると、パクパクサ(博士)になるからだ、と強がる。あきれた助手のナムグン・スクとムンスンは基地内を見回りに出る。二人は恋人同士だ。研究室では、ユ・チウォン博士が弾くギターを、ヨンウンが聞いている。4弦(D)が無い。二人は、7年来の付き合いだ。チョ室長は、契約の破棄と基地からの2日以内の退去、という命令をウソクに伝えている。1日先への時間旅行が成功した、とウソクが主張しても、本社はシミュレーションの結果だけでは納得しないのだ。ウソクは承服できない。ヨンウンがウソクの部屋に現れ、自分たちの将来を嘆く。チョ室長はメンバー6人に、クリスマスは地上で過ごせる、と遠回しに撤退を伝えるが、ウソクは、明日24時間後の未来への時間旅行実験を実施すると宣言する。証拠を持ち帰ることを条件に、ロシア本社も、この無謀な試みに同意する。チウォンは、1匹の猿さえ送れてないのだ、と反対し、やるなら、ヨンウンの代りに自分が行くと志願するが、ウソクは、コカコーラでは社長と副社長は一緒の飛行機に乗ってはならないんだ、と拒否する。スクとムンスンはクリスマスの計画を、ヨンウンは時間旅行を夢見た亡き父との思い出を…メンバーそれぞれの思いを抱えながら時間旅行への準備が進む。12月24日、午前9時38分。チョ室長は、ウソクの出発後に新しい契約書を机に置くので、24時間後の未来でその契約書にサインし、持ち帰れと言う。そしてお守りだと十字架を手渡す。こうして、ウソクとヨンウンは未来への転送器「トロツキー」に向かう。未来での滞在に許された時間は15分だけだ。出発前、ウソクは、室長から手渡された十字架をヨンウンに渡す。仏教徒に十字架は不要だと言う。こうして、12月24日午前11時から12月25日午前11時への時間旅行が決行される。2分後、12月25日午前11時02分の「トロツキー」内で、ウソクとヨンウンが目覚める。そこで二人が見たものは…この24時間で何が起こったのか…そして、二人は、昨日へ戻れるのか…

チーム長ウソクに、とにかく何でもこなせる芸達者で尊敬するチョン・ジェヨン、彼の片腕チウォン博士に、最近幅広い活躍を見せ若手の期待株チェ・ダニエル、女性研究員ヨンウンに、ますます演技と美貌に磨きがかかり「女高怪談」シリーズでのデビュー以来の大ファンとしては嬉しい限りキム・オクピン、ふてぶてしい海中基地責任者チョ室長に、これまた昔から大好きなイ・デヨン、博士号は無いながら優秀な技師パク・ヨンシクに、韓国最高のコメディアンでもあるパク・チョルミン、特別出演では、ヨンウンの父で時間旅行を研究するソ博士に、麻薬禍から確実に立ち直りつつあると信じる名脇役オ・グァンノク。

「時間超越」を題材にした映画は、人類の果たせぬ夢でもあることから巨万(ゴマン)とあり、新機軸を打ち出すのはなかなか難しいでしょう。個人的には、TV「タイムトンネル」を生で観て興奮した世代ですが、そのあと心底納得できる作品にはなかなか出会えていないという感じです。韓国映画には、ご存じでしょうが、「時間超越」を題材にした傑作が二本あります。「イルマーレ」「リメンバー・ミー(原題:同感)」です。郵便箱やアマチュア無線という小道具だけで「時」を超え、叙情溢れる物語を作り上げる腕前に感服したものです。役者も見事でした。さて本作品ですが、本格的な時間旅行を題材にしつつ、たった1日という「時間超越」がもたらす、しかも密室内での悲劇をドラマチックに描きあげるという点で、実に良く練られていると思います。24時間後の破滅を知ることで、海底基地という密室内の7人が「未来の自分を知ることで、現在の自分が狂っていく」様子は、「時間超越」により知り得た未来が、果たして、「原因」なのか、「結果」なのか、というタイム・パラドックスを見事に物語化しているでしょう。さらに、あまたの伏線を張りつつ、その24時間で各人の隠された過去や本性が次第に明らかになっていく語り口も絶賛に値します。役者もうってつけです。チョン・ジェヨン、チェ・ダニエル、キム・オクピン、イ・デヨン、パク・チョルミンなど無茶苦茶好きな俳優が揃っていて、しかも、凄い好演ですが、敢えて一人挙げれば、キム・オクピンでしょう。かなり危うく不思議な役回りですが、キュートに激しく演じているのには大満足です。

実は、一度通して観ただけでは、殆ど理解できなかったのが実情です。翌日、再度ラスト30分をじっくり見直して、ようやく、物語の全貌が概ね理解できたという次第です。良く出来ているにも関わらず100万人に及ばなかったのは、そんなことも関係しているのではないか、と邪推したりしています。日本で公開されても、入替制の映画館で一回だけ観るのでは理解出来ないかもしれない、ということは頭の片隅に置いておいた方がよいかもしれません。「イルマーレ」なんぞは五つ星の価値充分ですが、当時の評価は厳しかったのか四つ星止まりだったので、本作も四つ星にします。ただ、充分五つ星の価値はあると考えます…