僕は2児の父なのですが、最近はお陰様で連日たくさんのお庭の仕事をさせていただくようになりました。それは本当に嬉しい事なのですが、一方家族と過ごす時間というのは、本当に僅かなものになってしまいました。
たまに5歳(年中)の長男と一緒に遊びに行ったりすると、「かわいいお孫さんですね!」とか言われる事が多い(笑)・・・・押田です。
お盆休み明けの19日月曜日は、5歳の長男の通う保育所の一日保育士体験というのがありました。
これは、普段子供たちが過ごしている環境を、保護者が1年に1度体験するというもの。
実際に何をするかというと、同じクラスの子供たちと一緒に遊んだり、給食を一緒に食べたり、それを配膳し、片付けたり、、、主には保育士さんのお手伝いをしながら1日を過ごします。
この日朝9時に息子と一緒に保育所に行くと、まずは朝の挨拶をして、みんなで歌を歌ったり、体操をしたりしました。その後、少し室内で遊んだ後は、外で遊ぶ事になりました。
夏の晴れている日はプールに入ったりもするようなのですが、この日は比較的日差しが少ないということで、外遊びになったようです。
この保育所の敷地内の裏手(北側)には、僕がこの保育所に通っていた頃からある、大きなケヤキがあります。しかし、それ以外に樹木や植物は少なく、敷地内の僅かな草地に生息するバッタやトンボ、セミなどをみんなで捕まえ、虫かごに入れたりして遊びました。(昆虫は後ですべて逃がしました)
ちなみに、この保育所の周りは、除草剤で茶色の草が繫茂する環境です・・・
その後子供たちと給食を食べ、お昼寝をする時間の前、パパ先生(教室内でそう呼ばれる、)の大きな役目として、「絵本や紙芝居の読み聞かせをする」、というのがありました。
「絵本や紙芝居を自由に選んで来て下さい」と担任の先生に言われて、息子と事務所に移動、100種類以上もある紙芝居の中から読み聞かせをするものを選ぶことになりました。
事務所に入ると、別の先生がデスクワークをされていました。
「押田さんもこの保育所を出られたのですか?」
「はい、そうです!かれこれもう40年以上も前のことですけど(笑)」
「そうですか、ここもあと1年ちょっとで終わっちゃうんですよね・・・」
「ああ、そうでしたか!そういえば噂では聞いていましたが・・・、そうですか、本当になくなっちゃうんですね~」
ただ、ちょうどうちの息子がこの保育所の最後の卒園生になるというタイミングである事は初めて知りました。
そんな話をしながら、読み聞かせをする紙芝居を物色していました。
紙芝居は確か100~200タイトルくらいあり、ひとつひとつ内容を見て選んでいる時間もありません。
「何がいい?」と、息子と悩みながらも、ひとつ気になるタイトルを発見しました。
それは、「森のレストラン」という題名で、もう内容を確認する時間もなかったので、息子にも見てもらい、「これにしよう!」という事になりました。
僕は、「森のレストラン」の紙芝居を手に取り、息子と手を繋ぎながら、教室に戻ります。
「そうか、この保育所なくなっちゃうんだ~」と息子に話しかけながら、廊下を歩いていると、急に涙がこみ上げてきました。
この保育所は僕が通っていた頃から何度か修繕はされましたが、建物も教室も当時からほとんど変わっていません。特に保育所の長い廊下は、当時からの面影を強く感じるところで、幼い頃の記憶がよみがえってきました。
僕も年を取ったけど、こうして自分の息子とあの頃と同じ長い廊下を歩いている現実・・・
僕もこうやって育ててもらったんだなぁ・・・
僕は教室に戻り、10人ほどの子供たちの前にある椅子に腰掛けました。
みんなが一斉に注目する中、紙芝居の封を開けました。
何枚か紙芝居をペラペラとめくると、樹木の幹にたくさんの昆虫が集まっている絵が見えました。
それを見て僕は、「自分の伝えたい事と同じかもしれない・・・」と感じ、この物語を全力で子供たちに伝えようと思いました。
「パパ先生は、毎日みんなが住んでいるようなお家の庭に、木をたくさん植えて、森をつくるお仕事をしています。今日は森のレストランという紙芝居をします!」
紙芝居が始まると、スマホや動画に慣れた現代の子供たちでも、蝶々やカナブン、スズメバが次々に登場する物語の展開にハラハラドキドキ、こちらを見る真剣な眼差しを感じました。
そしてこの物語は、主人公の子供と父親が夜にコナラの様子を見に行くというシーンがありました。
コナラを懐中電灯で照らすとクワガタを発見、そして次にカブト虫が登場し、クワガタと対決。
昆虫界の横綱と呼ばれるカブト虫は、自慢の角でクワガタを追いやり、カブト虫が樹液にありつくという展開。でもその周りには、たくさんの昆虫が樹液に集まっている。
「今日も森のレストランは大盛況!」・・・という物語。
実は、僕の家でも全く同じような事が起こっていました。
今年の春、庭に植えたコナラの木に、7月くらいから大量のカブト虫が集まっていました。
それはもう、びっくりするくらいの数で、それはまさに【行列のできる森のレストラン】状態。
日によっては、蝶々やカナブン、スズメバチ・・・
クワガタとカブトムシが戦うシーンも何度か目撃しました。
夜には、懐中電灯を持って、何度か子供たちを連れてこの木のところに見に行った事もありました。
「もっと木々や生き物に親しんでほしい!」そんな思いを持ちながら、紙芝居の読み聞かせは終わりました。
「紙芝居、うちと同じ話だったね、、」と後で息子に話しかけると、お互いの顔を見てニヤリと笑いました。
「リーン、リーン、リーン。」
子供たちがお昼寝をする大部屋には、毎年近所の方が持ってきてくれる鈴虫の鳴き声が響きます。
先生たちが子供たちを寝かしつけた後、担任の先生と面談をする時間を頂きました。
いつも息子がどのように過ごしているのか、先生からお話しがありました。
息子は4月生まれでクラスで一番お兄さんなので、周りの子供の事をよく面倒を見ているということ。
2ヶ月ほど前、元気のない時期が続いたということ。
パパ先生が来る日を、カレンダーをめくりながら何か月も前からとても楽しみにしていた事、など。
「子供なんて、毎日遊んでいるだけだと思っていましたが、色々と考えているんですね~」
僕は仕事に追われている日々に少し後悔しながらも、もっと子供と一緒にいる時間を作りたいと思いました。
担任の先生から、「他に何かありますか?」と聞かれ、敷地内の環境の事を話しました。
「もっと大きな木がたくさんあれば、木陰があって涼しいのですが・・・」
そういえば、長女の保育士体験の時も同じように思い、高田造園設計事務所さん施工のN幼稚園の写真を印刷して見せた事を思い出しました。
庭NIWA2014秋号より
「こんな木々に囲まれた環境にしたいですね!」
そんな事を話したのが、4年前だったか。
あれから1年後、保育所の大きなイチョウが極度に強い剪定をされていることがありました。
数少ない敷地内の木々の中、せっかくの木陰を作ってくれるものをこんな姿に・・・
その時はさすがに町役場に、「少し酷すぎるのではないか、日陰がなくなるのではないか」と電話したことがありました。
しかしながら、あれから保育所の環境は木々を植えられて森になった訳でもなく、ただただイチョウの木は時間をかけながら枝葉を少しずつ茂らせ、元の姿に戻ろうとしていました。
もっと木々があれば、、、と思いながらも何も変わらない現実。
そして、あと1年半でなくなってしまう保育所。
自分の子供の通う保育所くらいは何とかしたい、と思いながらも結局何もできなかったという無力感が僕の中に漂いました。
しかしながら、極度に強い剪定をされながらも、再生しようとするイチョウのたくましさは、一筋の光を見たような心境でした。
弱っている樹木の周りに点穴を開ける様に・・・・ それは、気づいた時で良いのかもしれません。
水が停滞していたり、死んだような土でさえも、新鮮な空気と水が土の中に入れば、「待ってました」と言わんばかりに事態は好転し、再生に向かっていく。
「言っても仕方がない、どうせ無理だから・・・」と諦めたら終わり。
何度もボールを投げ続けることで、いつかそれに気付く時が必ず来る。
僕はそう信じたいと思います。
子供たちの育つ環境というのは、本当に大切な事。
教育の事、健康の事、そしてこの国の将来の事など、これから子供たちにはたくさんの課題が突き付けられてくることと思います。
しかしながら、全てのベースとなるのが、土の中の環境づくりから木々と共存できる社会づくりではないか、と今は確信しています。
そんな仕組みづくりを僕は諦めずに続けていきたいと思います!
我が家の森のレストランは、最近お客さんが少なくなってきました。
もう秋も近いですね・・・