「植栽土木」という提案(横須賀市の現場から) | 中央園芸のブログ

中央園芸のブログ

(株)中央園芸の庭づくりの様子や、日々の出来事

神奈川県横須賀市、とある高台からの眺め。

 

周囲は山々に囲まれ、相模湾が眺められる風光明媚なところ。

 

ここの平地に家を建てる計画があるということで、現場視察に伺ったのが3月19日の事。

 

 

 

 

高台から下を見下ろすと、足がすくむような景色。

 

平地である住宅予定地から下は、斜度30度ほどの急な斜面が広がっていました。

 

 

 

 

 

 

 

斜面下の道路から、上を見上げます。

高台からの斜面を、コンクリートの擁壁がせき止める。

斜面地ではよくある光景です。

 

平地である高台に建物を建てて、この傾斜地を庭として有効に活用したいというお施主様のご要望。

 

一般的にここを造成するには、同じようなコンクリートの擁壁を傾斜地の途中につくり、土留めをしながらコンクリートの階段をつくったりするでしょうか。

 

 

しかしながら、これらのコンクリートの構造物や舗装道路が、高台からの空気と水の循環を停滞させ、土中環境に悪い影響を及ぼしていることは、今まで様々な現場で見てきました。

 

空気と水の循環の滞りを解消しながら、斜面地の土地利用ができないものか?

 

 

大地の再生、矢野さんが描いた、完成イメージ図。

 

 

崖の下の道路側から、小道を歩きながら建物がある高台に登りながら歩いて行ける、という計画。

 

 

 

 

 

 

急こう配な斜面地で、本当にこんな土地利用ができるのか?

4月中旬、半信半疑のまま、横須賀での土木造成工事が始まりました。

 

 

 

工事初日は、講座形式でスタート。

この地域で講座を開催するときは、いつも女性が多い。

 

講座参加者にこの土地の現況や問題点から、今後の土地活用の仕方などを説明。

 

 

 

そして、工事開始。

 

この斜面地においての作業はバックホーやクレーン車がメイン。

バックホー重機2台を投入して作業が始まりました。

 

 

 

矢野さんと共に重機に乗ったのは、長野県上田市から応援に来られた赤尾さん。

道路際、ぶ厚いコンクリートの擁壁沿いを重機で掘削しました。

 

 

1mほど掘削し、中を覗いてみると、グレー色した土壌が現れました。

「グライ土壌」と呼ばれる、いわゆる呼吸不良になって酸欠した土です。

また、土の中には、細い草の根が伸びています。

 

 

草が繁茂し、一見豊かに見える土地でも、土の中はグライ土壌でした。

団粒化した健全な土壌は、草の根があるわずか地上から10~20cmといったところ。

 

これは何を意味しているかというと、単純に「崩れやすい」ということ。

草の根だけでは、この土砂を支えるのは非常に困難であり、ひとたび大雨が降れば土壌は緩み、崩れやすい状況をつくってしまう。

もし、除草剤等で草を排除し、土がむき出しの状態であれば、事態はさらに深刻なものになるでしょう・・・

 

 

 

僕も昨年、人工的な構造物により空気と水の循環が滞り、結果として土砂災害が起きやすくなってしまった(起きてしまった)現場を、広島をはじめいくつか見てきました。

 

土砂崩れや斜面崩壊は単なる「記録的な豪雨」によるものだけではなく、このような斜面地のコンクリートの構造物や舗装道路が大きく影響しているということを再認識する必要があるでしょう。

 

 

 

 

そんな時は、地形の変換するポイント、上部からの土圧がかかる擁壁沿いに溝や穴を掘り、停滞する空気と水を抜くと良い。

 

この現場においても地形変換点の要となる、コンクリートの擁壁沿いに造作をします。

擁壁沿いに溝を掘った後は、炭を入れ、土と石と木(幹や枝葉)を組み込みながら、ゆっくりと雨水が浸透するよう、空気と水の循環を促していきます。

また、コンクリート擁壁にコア抜きを使って、丸い穴を開ける作業も後日行いました。

 

 

 

 

 

そして、傾斜地は丸太と杭を使いながら土留めをつくっていきます。

 

 

 

丸太を組み、杭を打ち、それをバンセンで固定していく。

これを繰り返しながら土留めをつくり、重機で道を作っていきます。

 

 

 

土留めは基本的に丸太と杭が主な使用材料ですが、その間に石や木々を絡めていくことがとても重要な要素になります。

 

 

 

「土木」という名の通り、昔の土木造成や道づくりには土と石だけでなく、

必ず「木」が利用されてきました。

 

 

これは、日光東照宮付近の石垣。

 

植えられた木々や植物(下草)の根が伸び、石垣を守ります。

木々の根は空気と水の通った石垣を崩すことなく、強靭で半永久的な土留めとして共存していきます。

 

 

横須賀でのこの工事は、中央園芸からも僕と濱田が参加、全国各地から集まった、大地の再生のメンバーと共に、慎重に工事を進めていきました。

 

 

 

 

 

相模湾を眺めながらの環境改善工事。

 

矢野さんからも、「今までの工事の中でも、最も危険度が高い」と言わせた緊迫した現場でしたが、束の間の休憩時間は高台から海を眺める。

 

海なし県に育った僕は、休憩時間にこの高台から見える海に本当に癒されました・・・。

「海はいいなぁ~」

 

 

 

 

マテバシイ、シイガシ、ユズリハ、ムクノキ、ツバキ・・・

植栽する樹木は弊社から運びました。

荷台から木々をクレーン車で降ろしながら、土留めに絡めて植え込み、バックホーを高台に向かって徐々に進めていきます。

 

 

もちろん、水脈整備も重要な作業。

 

今回使用した水脈資材ですが・・

 

 

隣地にあった枝葉の残骸を利用させて頂きました。

無残にも強剪定され、放置された剪定枝。

普通は「ゴミ」と思えるものですが、水脈整備では立派な資材となります。

 

 

 

講座形式だった工事初日は、参加者たちにより水脈資材をリレーで運びます。

水脈整備で使用する資材をつくるのも大事な役目、人手があることで、工事も進みます。

 

重機や危険な作業はできなくても、誰にでも出来る事はあります!

 

 

 

土留めで使用する丸太は、道路に停めてあるラクタークレーンで斜面地に吊り上げて運びます。

 

 

 

 

そして、杭を打ち、バンセンで固定して、土留めをつくります。

 

 

 

 

 

 

1.5tのブレーカー付きのユンボ。

バケットタイプではなく、矢野さんはいつもこのブレーカー付きを使います。

穴や溝を掘ったり、途中にあったコンクリート片を解体しながらの作業は、バケットよりも格段に使い勝手が良いという。

 

しかしながら、ブレーカーは重量があるので、旋回するだけでも転倒の危険があり、安全を考慮した操作性を要求されます。

 

 

 

それな作業を繰り返し、1.5tほどの重機で小道をつくりながら、上へ上へと登っていきます。

 

 

少しずつ慎重に工事を進めながら、頂上である高台に近づいていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この現場はでは、建設機械や重機が大活躍しました。

バックホウ2台に2t、3tのクレーン車、2t平ボディ、そして12tクラスのラクタークレーン。

 

このような斜面地において、丸太ひとつ運ぶのも手作業では大変な事です。

便利な機械があるからこそ、このような仕事も可能になります。

 

かつての土木工事は膨大な人工や時間をかけてほぼ人力により工事を行ってきましたが、重機や建設機械が登場してからは、かつての工事とは比べ物にならないくらいのスピードや力を持つようになりました。

 

しかしながら、現代の便利な社会が出来る過程において、残念ながら自然を壊してきた側面もあったと思います。

 

でもその建設機械や重機を上手に利用することで、手作業では困難な工事でも可能になります。

 

大地の再生の工事では、環境劣化の原因とされる、コンクリートやアスファルトなども、空気と水の循環するようにひと手間加えながら、積極的に使用しています。

 

要は使い方次第、考え方によっては、自然を再生するには便利な時代なのかもしれません・・・。

 

 

 

資材は軽々とラクタークレーンで吊り上げ、高台の平地へ。

本当に機械のありがたみを感じます。

 

 

崖下の道路から降ろされた1.5tのユンボも、ようやく頂上の高台へ到着しました。

 

 

 

 

 

 

高台の建物建設予定地では、グランドレベル(地面の高さ)を隣地よりも50~60cm下げる造成を行いました。

この平地も最初は3軒のお隣さんの敷地と同じ高さにありました。

しかしながら、隣地より地面の高さを下げる事で、この地域に地形の高低差が生まれます。

 

画一的な住宅地においても、この地域全体としての起伏地形をつくり、周囲の山々との環境の調和を図ります。

 

マクロとミクロは相似形・・・

移植ごてレベルの数センチの地形落差から、地域全体としての数m、数十m単位の地形落差までを考える。大きなものも小さなものも仕組みは一緒です。

 

 

 

 

 

 

4月中旬に始まった工事も、令和に年号が変わった5月始めには完成!

 

 

 

この土地の環境を痛めずに、むしろ環境を以前より改善させながらの造成工事。

 

 

たくさんの木々も植えられ、見た目にも美しい空間が出来上がりました。

 

 

 

 

 

 

 

道路から、斜面地中腹までの小道、高台までの園路(小道)も完成しました。

 

 

 

斜面地中腹から上部までの道。

樹木はデコレーションやデザインで植えるものではありません。

樹木は土木造成においても、必要なもの。

 

土と石やコンクリートのみで行いがちな現代の造成工事ですが、そこに樹木(植物)を組み込むことで、耐用年数が○○年ということではなく、半永久的な世界が生まれていく。

 

樹木や植物なくして、永続的、持続可能な社会をつくる事は不可能なことかもしれません。

 

 

 

雨が降った後の現場。

 

植物を植えることで、雨水は斜面を走ることなく、ゆっくりと地面に浸透していく。

 

木々の根が伸び、地形を支えるようになれば、昨今の記録的な豪雨にも耐えうる土中環境を形成していくことでしょう。

 

「植栽土木」

このような土木造成を行う事で、災害は事前に防ぐことができるのではないか・・・

 

災害が頻発している現代において、植物を絡めた土木造成、植栽土木がカギを握るのということを、我々はこの現場で確信しました。

 

 

 

今回の横須賀での工事初期のメンバー。(お施主様の撮影)

いつも現場作業が忙しく、大地の再生のメンバーでは貴重な集合写真です・・(後列一番左が僕です)

今回の工事は僕も初日から数日間のみの参加でしたが、その後も入れ替わり立ち替わり、大地の再生のメンバーが全国から集まり、この困難な工事を完成させました。

今回のとても意義のある工事に、自分も関われたことを誇りに思います。

 

また、何よりも大地の再生の視点や活動に共感し、この工事に大変な理解、ご協力をいただいたお施主様のK様には、心より感謝申し上げます。

(今回のブログの写真も数多く提供していただきました。)

 

 

新しい時代の幕開けに相応しい、植栽土木という提案

木々や植物の根や土中の微生物の働きは、雨水をろ過、浄化させ、結果的に横須賀や湘南の海を美しくしていきます。

このやり方が広まり、多くの自然が再生していく事を強く望みます!

 

 

 

 

 

 

 

 

ブログの最後に、ご案内を2件。

いつもお世話になっている、アトリエDEFさんで開催するワークショップと、僕が実行委員をしている、28会(にわかい)のご案内を致します。

 

■アトリエDEF

 

<問合せ先>

アトリエDEF関東営業所・モデルハウス 循環の家 前橋

TEL:027-289-5358 

前橋市富士見町皆沢359-2(水曜日定休)

 

 

■28会(にわかい)

 

Facebookページ : https://www.facebook.com/events/324745804872427/

 

===== 28会(にわかい)とは? =====
人気職業ランキング(13歳のハローワーク)にて、建築士や大工さんが上位にランクインする中、庭師や造園家は100位にも入らない、ランク外だという事実を知りました。

どうしても技術を磨く事だけに集中してしまう庭師の世界ですが、もっと学ぶべきことが他にもあるのではないか?
それはお客さんへのプレゼン力であったり、世間への発信力であったり、建築家と対等に話せる知識や話術であったり・・・
「造園の仕事がもっと魅力ある職業になるためには、どうしたらよいか?」そんな事を皆で考える場を作りたい、そう考えたのが28会の始まりでした。

 

<問合せ先>

k.sakai@yamaichizouen.co.jp 

締め切り 5月25日(土) 
28会事務局 山一造園(株)

 

以上です、今回も長いブログにお付き合いいただきありがとうございました。