「家は、くらしの宝石箱でなければならない」
【人生フルーツ】という映画の中での、印象的な言葉です。
3月27日、28日と東京都稲城市において、杜の園芸、矢野智徳さんの大地の再生講座が行われました。
今話題の映画「人生フルーツ」にもよく似た稲城での講座の模様を、ブログにて報告したいと思います。
長いブログです・・・。
多摩丘陵の一角、東京都稲城市南山。
八王子から、多摩市、日野市、稲城市、そして川崎、横浜までも続く広大な多摩丘陵ですが、
今はほとんどが開発されています。
それは宅地、(多摩ニュータウンや港北ニュータウンなど・・・)だけに限らず、
東京都立大学(矢野さんの出身校)や多くの大学もこの多摩丘陵に存在しています。
ここ稲城市南山地区は、ほとんどが開発しつくされてしまった多摩丘陵において、
開発を免れていた数少ない地域でした。
しかしながら、これは現在(2月撮影)の姿。
広大な雑木林を切り開き、また新たな街がつくられようとしています。
そんな中での大地の再生講座、奥畑谷戸公園事務所。
森を切り開き、平坦に造成したところに、新しい建物が建ちました。
この建物は今回の講座の主催者、ワクワークス、和久さんの設計です。
ここから新たに「人と自然との共存」 を発信していきます。
2016年11月の第一回目の大地の再生講座。
敷地建物周りに、溝を掘り、水脈整備を始めます。
稲城市独特の土壌(山砂)の乾いた色が、とても印象的です。
炭を撒き、透水管を埋設、竹や木の枝などの有機物を投入していきます。
大地の再生でのいつもの水脈整備。
周辺の固く転圧された道路などによる、空気と水の停滞を、この作業により緩和していきます。
水脈整備はとても手間がかかり、労力を要する作業です。
しかも、普段では目に見えない、土の中の環境を改善する作業。
こんな面倒なことをやらなくても正直、木は育ちます。
でも元気には育ちません・・・。
これは、僕自身の今までの経験上、確かなものです。
現代の住宅環境の多くは、四方をコンクリートや舗装道路で囲まれ、
例えていうなら、
大きな盆栽の鉢の中に、建物が建っているようなもの。
地面の下以外の周囲に、水の抜けるところがありません。
鉢底が詰まれば、土はぐちゃぐちゃにぬかるみ、樹木は根腐れを起こす。
土が固くなれば、水は浸透せずに、外(街中)に逃げるだけ…。
造成され乾ききった稲城の現場のすぐ前に、自然にできた水脈がありました。
水脈上を歩く矢野さんです。
この水脈の姿は、我々へのメッセージなのでしょうか。
水の流れは、直線ではなく蛇行しながら緩やかな曲線を描いています。
そして、当たり前のことですが、
水は高いところから低いことろに流れる。
もしこの水を堰き止めてしまったら、水は停滞し、そして一定量を超えると、水は外に溢れます。
元々自然は、土と木と石だけの世界。
これに、風が吹き、雨が降り、太陽の光が注ぐ。
「土と木と石」
たったこの三つだけで、急峻な山の斜面も、荒々しい海岸線も、そして穏やかなお花畑のような美しい風景をも作られていることを、我々は忘れてはいけません。
この地に埋設していた巨大な透水管に、有機物(炭や木の枝葉等・・)をすき込んでいきます。
一般的に排水処理として使用している塩ビパイプでは、すぐに泥が詰まり機能しなくなることがよくあると思います。
植物の根っこや微生物がつくる絶妙な隙間や保水、排水、浄化機能というのは、
机上の数値では表せません。
自然の持つこの優れた機能を、現代の住環境でも活用しない手はありません。
これを人為的につくるのが、水脈整備です。
現場での水脈整備が整ったら、いよいよ樹木を植えます。
稲城市近郊わずかに残される雑木林の中の果樹畑。
先程の現場から歩いて行ける距離にあります。
この畑のある谷は埋められ、造成される計画だといいます。
2回目の講座では、伐採予定のこの木々を掘り取り、敷地内に植えることになりました。
植木の掘り取り作業を行います。
一般的に根鉢は丸くするのが基本ですが、それは人が運びやすく、作業しやすくするため。
大地の再生流の植木の掘り取りは、完全に樹木目線。
極限まで根を切らずに掘り取ります。
重機で掘り取られた樹木は、幅の細い緑化テープでぐるぐると巻いていきます。
締めすぎず、緩すぎず。
移植作業とはよく言いますが、これはまさに病人に包帯を巻くようなもの。
長年生きてきた土地から、別の場所に移動するわけですから、それは樹木にとっても一大事です。
けが人をいたわるように、緑化テープを巻き、命を繋いでいきます。
稲城市近隣から掘り取られた樹木が、次々に現場に運び込まれました。
樹木が一本もなかった敷地内ですが、次々と木々が植えられていきました。
プロのカメラマン、大沢さんがまとめた、2回目の大地の再生講座の様子。
9分半の動画です。是非ともご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=kkKji-V6DW4
2回目の大地の再生講座の後、
3月8日、9日の中間作業を経て、木々もたくさん植えられました。
そして、3月27日、28日の大地の再生講座、完結編。
いよいよ工事は最終段階に入ります。
今回は、歩道の舗装工事から始まりました。
冷たい雨の降る中、朝から作業に入ります。
周囲が開発されたこの場所には、とても冷たい風が吹き抜けます。
3月下旬というのに、真冬のような寒さでした。
砕石に炭を混ぜ、舗装の下地を作ります。
舗装工事も大地の再生流の「有機アスファルト舗装」。
呼吸するアスファルト舗装です。
しかしながら、作業を始めて間もなく、体を冷やしてしまったことが原因でしょうか。
いきなり腰に激痛が走り、ぎっくり腰を再発!
このまま動けなくなり、その後、建物内で休むことになってしましました・・・。
この日、午後からは天気も回復し、作業は順調にはかどった様子でしたが、あまりの激痛に建物からは出ることができず、寝返りさえもできないような状況でした。
夜になり、講座も終わり、全く身動きが取れない僕は、矢野さん行きつけだという、府中市にある、「おおくにたま鍼灸院」に担ぎ込まれました。
ゴザに包まれ、5~6人で車に運ばれ、狭いエレベーターに押し込まれ、何とか7階の診療所の中へ。
身動きのできない僕を診療所まで運ぶ、大地の再生仲間による、結の作業。
腰に激痛を感じながらも、人のありがたみを感じる時間でした。
(濱田君撮影)
「お酒好きでしょ?」
「はい、好きです。」
初診での院長先生との質問に、正直に答えます。
舌を見せたり、現在の体の症状を見てもらいながら、
「胃腸が弱っている」
「足が機能していない」
など、院長先生は痛めた腰以外の事ばかりを話します。
体の中の、血の巡りが滞っているところに、お灸や鍼治療をし、血行を良くしていきます。
そうすることで、体全体が機能し、腰にも負担がかからなくなる。
これは、まさに我々が自然に対して行っていることと同じでした。
樹木に害虫が付くのは結果であって、敷地全体の環境を改善しないと、問題は解決しない。
自然と人の体は全く同じ原理だという事を、治療を受けながらも、身をもって体感しました。
いつもはぎっくり腰になると2~3日寝込んでいましたが、
今回は驚くことに次の日には歩けるように!
翌日には、奇跡的に現場復帰を果たしました。(作業はしませんでしたが・・)
ということで再び、有機アスファルト舗装の話題に戻します。
前日の下地づくりを終えた路盤。
砕石の上には、剪定枝のチップが敷かれていました。
さあ、いよいよアスファルトが到着!
有機アスファルト舗装のレシピを公開します。
トラック荷台のアスファルトに、チップ化された枝葉を混ぜていきます。
そして、重機で下地を終えた歩道に敷いていきます。
5cmほどの厚みに薄く伸ばして、
プレートにて転圧。
表面に、目地となる砂や燻炭を敷き、ほうきではいて、
再び剪定チップを撒き、散水して、完成です!
アスファルト舗装とは考えにくいとてもナチュラルな仕上がり!
これが「有機アスファルト舗装」です。
今度は駐車場にも、有機アスファルト舗装。
下地の砕石の上に炭を敷き、枝葉のチップを敷きます。
そして、アスファルトが到着。
今回もアツアツです!
そして剪定チップを重機のバケットで混ぜる。
矢野さん曰く、
「チャーハンをつくるように、柔らかく混ぜる!」
チャーハンと聞くと、何だかトラックの荷台と重機のバケットが、中華鍋とお玉に見えてきました。
ご飯と具材を良く絡めて・・・
そして、薄く引き伸ばし、
プレートで転圧、
転圧のコツは表面をきれいに仕上げないこと。
アスファルトにも多少の起伏をつけます。とても矢野さんらしいやり方です。
有機物の入ったアスファルトは、あまり固くならず、
まるで「濡れせんべい」のようです。
そして砂を撒き、
表面は剪定チップ!
そして、散水して完成です!
そして、驚愕の裏技をもう一つ。
昨日施工したばかりの歩道の隅を、ハンマードリルで砕きます。
そこに芝生を張り、
目土(砂)を掛け、
竹串を打ち、固定させます。
これで、舗装の上にも芝生が広がっていくとのこと!
有機アスファルト舗装から、「芝生の生える歩道」に!
このような仕上げの歩道であれば、落ち葉が落ちても全く気になりませんね。
今までの常識を覆す、見たこともないアスファルトの施工でした。
そして今回は、街路樹も一緒に施工しました。
歩道の向かい側は、ハナミズキの街路樹。
よくある風景です。
「この敷地には、冬の強い風から守る常緑樹が必要。」
矢野さんは、そう言いました。
確かに、僕も吹き上がる冷たい風に腰をやられてしまいました。
ということで、歩道の街路樹は、常緑樹であるシラカシと小さなガマズミ。
他も、アラカシやシラカシの街路樹。
というより、敷地内の植栽と同化されています。
矢野さんにとって街路樹は、敷地内の植栽の一部として考えられているようです
「その場所に、必要な木々を植える。」
新しい街路樹の形です。
この常緑樹たちが、冬の冷たい風除けになってくれることでしょう。
さて、29日の作業は夜遅くまで続きました。
投光器を付け、矢野さんも最後に残された、池の周りの作業を仕上げます。
稲城の現場は、丘の上にあるため、都心を望む夜景がよく見えます。
夜も10時近く、ようやく作業を終えることになりました。
最後まで残ったメンバーでの記念撮影!
緊迫した現場に、ようやく笑顔が戻りました。
昨年11月から始まった、造園外構工事もようやく終了しました。
殺風景だった敷地外周も、
木々が植えられ、潤いのある景色に!
自然石を使った、心地よい階段。
建物入り口周辺。
有機アスファルト舗装の歩道。
歩道というより、山の小道です。
果樹や雑木の木々の中、緩やかに蛇行して続く、前庭の小道。
青々とした芝生が生えたら、きれいだろうなぁ~と思います。
ここは樹木の掘り取りの時に訪れた、「いなぎめぐみの里」。
先程の前庭も、いつの日か木漏れ日の差す気持ちの良い小道になっていくでしょう!
講座中は地元の方々が食事を作ってくれました。
体に優しくて美味しい、そして見た目も鮮やか!
寒い日も、作業に疲れた時も、心も体も温まるこの食事は、何よりも楽しみでした!
本当にありがとうございました。
3月も下旬になると、梅の花が咲き終わり、今は梨の花が咲いていました。
稲城市は果樹園がとても多く、「フルーツランド」といわれているそう。
特に梨は稲城市の特産物という事をこの現場に来て知りました。
伐採される運命だった梨の花も、新たな地で白い可憐な花を咲かせています。
命は繋がりました。
梨、ゆず、梅、ブルーベリー、ゆすら梅、ヤマモモ、タケノコ・・・
ロウバイ、梅、椿、山吹、ミツバツツジ、桜、ヤマツツジ、エゴノキ、アジサイ、
ノウゼンカズラ・・・
四季折々の季節に花が咲き、果実が実る。
殺風景だったこの敷地も、今は宝石箱のように見えます。
4月2日(日)、束の間の休日。
家から近くにある、深谷シネマという小さな映画館に行きました。
この日から公開された、
「人生フルーツ」という映画を見に行きました。
今回の稲城の現場に良く似ている、心温まる物語でした。
山は削られ、谷は埋められ、今は無機質な一直線の道。
新たに再生された自然と、温かい人に囲まれた稲城市南山、奥畑谷戸公園事務所。
風が吹けば、枯れ葉が落ちる。枯れ葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果実が実る。
豊かな木々に囲まれ、色とりどりの果樹の実る、まるで宝石箱のような!
美しい街並みがここから広がっていくことを、強く願います。
こつこつ、ゆっくり。
人生フルーツ。
長いブログにお付き合いいただきありがとうございました。