唐組の『泥人魚』が現在、東京で公演中です。
初演は2003年。
その頃に世間の注目を浴びた長崎県・諫早湾の干拓事業がテーマ。
湾を分断する鋼板が次々にまるでギロチンのように落下してゆく当時のニュース映像は衝撃でした。
唐組としては21年ぶりの再演となるこの舞台、関西公演は神戸の湊川公園。
すでに先月に終わっています。
.....なぜ観に行かなかったのか、激しく後悔しているのですよ。
他人と違う事をやるのは勇気がいります。
言い訳ができませんから。
1960年代から主宰し、麿赤兒や小林薫、根津甚八、李麗仙など個性的な俳優を輩出した「状況劇場」が解散したのが1988年。
若い俳優を集めて「唐組」を旗揚げし、他の演劇人が皆、設備の整った劇場での活動にシフトしてゆく中で一人、テント公演にこだわり続けました。
紅テント..... テントと日常とを遮断するのは赤い布きれだけ。
雨風の音や周りの喧騒はそのままノイズになりますが、それらを全て飲み込んだ異世界を作りあげたのが「唐組」
この刺激は一度体験するとクセになります。
そして、
他の演劇人が欧米での公演を目指す中、アジアや中東などで活動を行っています。
欧米でやりたいのは当然なんです。
アメリカはショービジネスの本場ですし、イギリスはシェイクスピアの国。格が違います。
フランスやイタリアでも演劇は花形。
しかしそれを選ばなかった。
寺山修司があくまでもイメージの作家だったのに対し、イメージから脱却してリアルの追求を始めた人。
描く世界は、社会の矛盾や弱者の哀しみ、傷....
芝居で取りあげるテーマは自衛隊の海外派遣やバブル崩壊、代理出産など社会的でしたから、リアリティが必要だったのかもしれません。
ただ、
ご本人の口から社会批判的なコメントやイデオロギーはほとんど聞いた事がありません。
あくまでも作品の中での表現。
そして、徹底してリアルを追求した役者たちがまくし立てるセリフは、本人のコワモテなキャラのイメージとは真逆で、実に詩的でロマンチックなもの。
セリフを大事にしない演劇が多い中、唐組の舞台は戯曲が読みたくなる。
転倒してケガをされ、自身が舞台に立たなくなってもう10年以上になります。
劇作家として正当に評価されているのかどうか、よくわかりません。
おそらく.... されてないんでしょう。
そして、
珍しく90年代から予言していた事があるんです。
それは、
「今に新宿 灰になる」
何を以てそう思ったのか、もはやご本人に聞く事はできなくなってしまいました。
唐十郎さんが亡くなりました。
84歳。
寺山修司と同じ日に亡くなるとは。