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~第一章~  女天国、男地獄#5

『なつみさん!ずっとあなたの事が好きでした!!』


『えっ!?あっ、あの…』


『お願いします!!』


ここは、ねる◯んの撮影場所…ではなく、女子高生に人気のあるドーナツ屋。


レジにはお客ではなく、近くのお坊っちゃま高校の生徒が店員の女の子に頭を下げている。
どうやらなつみをテイクアウトしたいらしい。


『ごめんなさい。』


なつみは少し困った顔で小さく会釈した。


『出たー!だーいどーんでーんがーえし!なつみ殺し!』


後ろからマイクの変わりにスプーンを握りしめた麗奈が、迷?司会者ぶりを発揮していた。


『お客さ~ん、困るんだよね~、ウチの子に手ぇ出しちゃ。ナツはこの店のナンバー1なんだよ~。ささ、ごめんなさいされたんだから早く回れ右してダッシュする!常識でしょ!』


今度は、何処かのキャバクラの店員になりきって話した。


涙目になりかけ、無言のまま店を後にする高校生を横目に、なつみは麗奈に詰め寄った。


『ちょっとー!あんな言い方して、茶化さなくったっていーじゃない!』


麗奈は聞く耳持たず、といった態度。


『どーせナツはあの子の事は、何とも思ってないんでしょ?』


『そりゃそうだけど…、あの人だって勇気を出して言ってくれたのかもしれないし…。それにあの人、初対面なのに私の名前知ってたんだよ?一生懸命じゃない。でも、どこで調べたのかなー?』


今でこそ[個人情報保護法]や[ストーカー規制]等があるが、当時にはそんなものなど無く、ストーカー等と言う言葉も聞かない時代。


『ナツ、この間もそんな事言って好きでもない人に付きまとわれたの忘れたの!?私がなんとかしてあげたからよかったものの、あのままにしてたら家の人にまで迷惑かけることになるよ!』


『そうだけどさー、だって、相手の気持ち考えたら…』


なつみの話を遮るように麗奈が斬り込む


『あんたね、相手、相手って、お人好しにも程があるよ!この間だって…』


『いらっしゃいませ!』


さらに斬り込み返すようになつみは営業スマイル的な赴きで入り口を見た。


普段はすぐ近くの女子高生で賑わうドーナツ屋。の筈だが、その場所には似合わない見た目ヤンキーの2人組が現れた。


その光景は、まるで熱帯魚の水槽に、提灯アンコウを放したようなものだった。

~第一章~ 女天国、男地獄 #4

校則違反がバレてしまった康平と健太郎。しかし、逆ギレしている。


『まあまあ、そう興奮するな。』


なだめる針谷。


『別にお前らを追い込もうって訳じゃねーんだよ。だがな、学校としてもこれ以上黙ってる訳にはいかないんだよ。』


『だったら辞めるまでよ!』


健太郎は、ギリッと奥歯を噛み締めながら言う。


『どうしてお前らはスグそうなるんだ!そんなんだと毎日ツマランだろ?』


『いや、十分楽しいけど。なぁ、ケン』


『毎日学校に寝に来てるだけだろ?そうじゃなくて、一生懸命になる事や夢中になることも無いだろ?』


『女の子に夢中です。』


と健太郎。


『彼女作り頑張ってます!』


と康平。


『で、彼女はいるのか?』


『居たら苦労しねーよ。』


2人は口を揃えて言った。


針谷は深く深くため息をつきながら、


『よしわかった。お前ら、そんなに一生懸命なら今年のクリスマスまでに彼女作って俺に報告しろ!』


突然の針谷の発言に2人は愕然としながら、


『はぁ?ワケわかんねー、大体何でアンタに…』


『ウルサイ!とにかく決めた事だ!それが約束できなきゃ今すぐ免許証置いて帰れ!卒業まで預かってやる。』


無茶苦茶である。


『わーったよ!作ってやるよ!』


イキがってても単純だ。


2人はドアに八つ当たるように職員室を後にした。

~第一章~ 女天国、男地獄 #3

職員室に着いた2人は、ドアを軽く叩き、開けた。


『しま~す。』


すると奥から怒鳴り声が聞こえてきた。


『“します”じゃねー!失礼しますだ!もう一回やり直せ!』


声の主は生活指導の針谷(はりや)先生。生徒からは“ハゲ谷”の愛称で呼ばれている。髪型は、呼び名の通り禿げている。


2人は互いに目を合わせ、深くため息をついてもう一度やり直した。


“ドンドンドンッ!!”


『失礼しますッ!』


『ウルセーっ!お前らは加減てものを知らねーのか?』


『ウルセーのはおめーだよ』と言いたい気持ちを押さえつつ、2人は黙って針谷の前に立つ。


『お前ら、このバイクに見覚えはないか?』


針谷はそう言いながら数枚の写真を机の上にスッと差し出した。そこには2台のバイクが写っていた。


“ゲッ!俺の単車!”


2人は同時に思った。が、

『知りませ~ん』


『俺も』


しらばっくれた。


針谷は、数枚の写真のうちの一枚を手に取り、


『先日、このバイクを知らないかと警察が訪ねて来てな。この2台は盗難車の疑いがあるからと。』


それを聞いた健太郎は


『ざけんじゃねーよ!これは俺が一生懸命バイトで貯めて買っ…ッ!』


と言いかけて突然、我に返り、口を閉じた。が、遅かった。


『ほぉ。じゃ、このバイクは盗難車じゃないのか。しかし、お前ら、この学校の校則は知ってるよな。バイクはおろか免許の取得禁止だって事を。』


それを聞いた康平は、


『だったらどうだってんだよ!免許も単車も持ってるからって停学にでもすん気かよ!?ナメてんじゃねーぞ!オッサン!!』


康平が逆ギレした途端、康平達と針谷の間に緊張感が漂った。