生い立ちなど、覚えているわけがなかった。
この弱肉強食の格差社会、まして生まれた環境が生存競争の中だった。
その中では生みの親も子にとっては敵でしかない。
勿論、彼も生きるために親を殺した。
自分の存在を保つために親を喰らった。
何の感情も湧かなかった。全ての生物がそうだと思っていたからだ。
やがて、彼は小さいとはいえ、周囲の弱者を統率出来るようになった。
彼は自分が神になったと思うようになった。
いや、信じて疑わなかった。
今の自分に勝てる存在などいない…。
彼は本気で思っていた。
だが、彼を脅かす存在が現れた。
それは彼の知らない物を使い、彼のテリトリーを侵し始めた。
自らの縄張りを無断で侵入した奴達に彼は激怒し、何度も戦いを挑んだ。
現実は非情だと心から思った。
無惨な姿で横たわる彼は絶望に包まれていた。
今まで負けたことがなかった彼は敗因を自分の実力だと認めようとしなかった。
彼の「知らない物」のせいだった。
(あいつらより…強い力が欲しい)
そういった感情を、皆はなんと呼ぶのだろう。
答えは…嫉妬。
それはまさしく、心の闇と呼ぶに相応しい代物だった。
ただ、その時彼は強さに飢えていた。
変化に気づいたのは、数年後のことだった。
いつものように彼は勝てない戦いに敗れ、虚しく倒れていた時…何かが爆発した。
急に背中から手が生えてきたのだ。
彼は勿論驚き、戸惑った。
だが、長年培ってきた戦士としての本能が彼に告げたのだ。
これこそ能力(ちから)だと…。
再び彼は頂点に君臨した。彼を脅かした存在すら、もはや敵ではなかった。
唯一負けていた「言葉」さえも舌の構造を変えたことで簡単に手にいれることができた。
所詮は能力の無駄遣いだったが、一抹の満足を得られたから後悔はしていない。
全てを得た彼は、再び自分を神と称し始めた。
(そうか…)
蛇はゆっくり少女を見下ろした。
(我の歪みは人間に対する憎悪ではない。人間への嫉妬だったのか…。全ては自分の力を固持するためだった。この山はしょせん…言い訳に過ぎなかったのか)
少女は未だに自分の舌を受けていない。
(もしそうなら…)蛇は一瞬、全ての舌を戻す。
(もしそうなら…なおさら負ける訳にはいかん!!)
渾身の一撃が少女に向けて射出された。