12.人名を眺めてうずいた収集癖 後編
前回、三国志の登場人物の姓や名で、同じ種類のものを揃えることができないか挑戦しました。漢数字と干支は話にならないほど揃わず、中国の歴代王朝はあと一歩のところで揃いませんでした。
引き続き、別のテーマで挑戦を続けます。
〇南総里見八犬伝の八つの玉
南総里見八犬伝に登場する八つの玉には、それぞれ徳を表す漢字が1文字ずつ書かれています。「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の八つで、三国志で見覚えのある漢字もあります。南総里見八犬伝には三国志について言及されている箇所がありますので、これも何かの縁と考え、この8文字を探してみます。
仁(曹仁)、義(呂義)、礼(孫礼)、智(劉智)、
忠(黄忠)、信(鮑信)、孝(×)、悌(邵悌)
惜しくも、あとひとつ「孝」だけ揃いませんでした。名の一部であれば鄧子孝[トウ子孝](子孝が名になる)、字の一部であれば曹仁子孝や郭嘉奉孝がいますが、歴代王朝に続きひとつだけ不足になりました。
〇四季
そろそろ何とか揃えたいのですが、四季だとどうでしょう。
春(邴春[ヘイ春])、夏(夏育)、秋(楊秋)、冬(×)
ここでもあとひとつ、「冬」が揃いませんでした。「冬」が人名に含まれるだけなら、冬逢という人物がいます。ただ、「冬」が姓ではなく、今回のルールでは選外となります。
〇将棋の駒
インドのチャトランガを起源とし、中国では象棋になり、日本に伝わって将棋が成立しました。この将棋の駒を略称で探してみます。
王(王允)、金(金奇)、銀(程銀)、
桂(呂桂)、香(孫香)、歩(歩騭[歩シツ])、
飛(張飛)、角(張角)
ここにきて、ようやく揃うものが発見できました。どうせなら、成り駒も見てみましょう。
龍(鄧龍[トウ龍])、馬(馬騰)、と(×)
さすがに歩が成った「と」は平仮名ですので、漢字にあるはずがなく、該当者なしです。「と」が揃えば完璧だったのですが、さしずめ「漢字ともに備われども、只と金を欠く(※1)」といったところでしょうか。
しかし「と」は平仮名に見えるだけで、実際には別の字です。由来は諸説あり、「金」の崩し字、「金」の略字、「今(金と同音)」の崩し字ということですので、平仮名の「と」にこだわる必要はありません。代案として
・杜預の姓である「杜」の読みを使い「と」で扱う
・「卜清」の「卜」をカタカナに見立てて「と」で扱う
が思いつくところですが、平仮名の「と」の印象が消え切らず納得感に欠けます。
そこで、第二回「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(二・養子に入らない方が良い)」を再び活用することにしました。
・歩騭[歩シツ]が侯成を養子に迎えると、侯成が「歩成」になる
・金奇が留略を養子に迎えると、留略が「金略」になる
これにより、歩が成った「と」、もしくは「金」の略字である「と」を表現できないでしょうか。
そして、最終的に
王(王允)、金(金奇)、銀(程銀)、
桂(呂桂)、香(孫香)、歩(歩騭[歩シツ])、
飛(張飛)、角(張角)、
龍(鄧龍[トウ龍])、馬(馬騰)、
と(養子になり改名した歩成または金略)
という結果になり、力技ですが何とか揃えることができました。完全燃焼には少し足りませんでしたが、これにて完了とさせていただきます。
(※1)
『三国志演義』第49回、赤壁の戦いにおける諸葛亮の「萬事俱[トモ、にんべんに旁は且の下にハ]備、只欠東風(萬事ともに備われども、只東風を欠く)が元ネタです。
(関連ブログ)
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(一・名前を思い返す)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(二・養子に入らない方が良い)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(三・動物園と水族館 前編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(四・動物園と水族館 後編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(五・植物園を作れるか 前編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(六・植物園を作れるか 後編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(八・11にんのおうしょう 前編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(九・11にんのおうしょう 後編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(十一・収集癖 前編)」前回
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(終・収集癖 後編)」本ブログ
【本連載におけるルール】
第一回「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(一・名前を思い返す)」に記載していることの概略ですが、以下のルールで記事を書いています。
(1)人物名として扱う対象
・名前から連想する言葉は、姓または名に限定し、字は対象外とする。また、部分的に切り取ることはしない。
・『正史三国志』または『三国志演義』に登場する人物を対象とするが、他時代の人物は除外する。
・称号、諡号、位などにあたる部分は姓や名として扱わない。
(2)内容に関する注意事項
・史実と物語、創作を混ぜてしまうことは不問とする。
・姓の由来は本題から外れるため、深く追求せず軽い感想程度に留める場合がある。
(3)参考書籍
今鷹真・井波律子・小南一郎訳『正史三国志』(ちくま学芸文庫 全8巻)
渡邉義浩編『全譯三國志』(汲古書院)
小川環樹・金田純一郎訳『完訳三国志』(岩波書店/岩波文庫)
『中国の思想』刊行委員会編著『三国志全人名事典』(徳間書店)
渡辺精一『三國志人物事典』(講談社)