11.人名を眺めてうずいた収集癖 前編
三国志の登場人物の姓や名には、これまで見てきた動物や植物のように、何かの種類になっている漢字が見られます。
例えば、金(金旋、牛金)、銀(程銀)、銅(雷銅)、鉄(馬鉄)、錫(杜錫)のような金属、黄(黄権)、朱(朱桓)、白(白寿、董白)のような色があります。この時、金・銀・銅のように「メダルの色」が揃う場合がありますが、他にそのような例はないでしょうか。動物や植物だと際限がありませんが、数が限られていれば「全て揃う」ものが何か見つかるかもしれません。
〇漢数字
『水滸伝』では阮小二・阮小五・阮小七や扈三娘のように、名前に漢数字を含む人物が頻繁に見られます。そのため、三国志でも漢数字が名前に使われていることを期待していたのですが、壊滅的にいませんでした。
大きい位であれば万(万演)、兆(劉兆)、京(周京)、改ざんを防ぐ時に使う漢数字であれば壱(呉壱)、参(張参)、伍(伍習)、陸(陸抗)、質(呉質)らがいるものの、とても揃いそうにありません。ここは潔く撤退する方が良さそうです。
〇干支
次に中国発祥の干支であればどうでしょうか。まずは、干支として通常使われる漢字を探します。
子・丑・寅(曹寅)・卯・辰(呂辰)・巳
午・未・申(申耽・申儀)・酉・戌・亥
意外なことに3つしか見つかりませんでした。これでは話になりませんので、無理やりひねり出すことにします。
【文丑】中国の書籍では、文醜を「文丑」と表記していることがあります(おそらく丑が醜の簡体字のため)
【羊秘】姓の「羊」を「未」として採用します。
【雲午、酉牧、管亥】徳間書店『三国志全人名事典』では姓と名に分かれておらず、本連載の基本ルールから外れますが、ここでは不問にして拝借することにします。
【傅巽、孫乾】方角を表す巽(=辰巳)と乾(=戌亥)として採用します。
その結果、以下のようになりました。
子(×)・丑(文丑=文醜)・寅(曹寅)・卯(×)・辰&巳(呂辰、傅巽)
午(雲午)・未(羊秘)・申(申耽・申儀)・酉(酉牧)・戌&亥(孫乾、管亥)
ひねり出そうとしたものの、子と卯が揃いませんでした。特に「子」は字ではよく見るのですが(例:曹仁子孝)、姓や名では使われている例が見つかりません。「子」のように、字でのみ頻出する漢字があるのかもしれません。
〇中国の歴代王朝
古代中国では、国の名前が姓の由来になる事例が見られます。そのため、歴代王朝の国号であれば、特に姓として使われている可能性が高いかもしれません。分裂期(春秋戦国時代や南北朝など)の扱いは難しいため、まずは高校教育で習う程度の国号(夏~清)を探してみます。
夏(夏栄)、殷(殷観)または商(徐商)、周(周瑜、周泰)、秦(秦朗)、
漢(劉漢)、新(×)、魏(魏延)、呉(呉懿)、蜀(×)、仲(張仲、仲は袁術が建てた国)、晋(晋宗)、
隋(×)、唐(唐固)、宋(宋金)、元(陳元)、明(秦明)、清(卜清)
新は前漢と後漢に挟まれた短期間の国ですので、見つからなくてもまだ許容範囲と思いますが、あろうことか蜀が見つかりませんでした。蜀を正式名の漢、特に前漢・後漢と区別して「季漢」として扱えば、第二回「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(二・養子に入らない方が良い)」に記したように、季雍が馬漢を養子に迎え、馬漢が「季漢」に改名することで蜀(季漢)が揃います。しかし、遣隋使でも知られる隋が抜けているのは、さすがに王朝の国号が揃ったとは言えないでしょう。中国の歴代王朝を揃えるには、あと一歩届きませんでした。
余談ながら、五帝や分裂期の国号、北方の民族による国号など、以下のような例があり紹介しておきます。
【五帝】 帝堯(甄堯)、舜(臧舜)、禹(荀禹)、
【戦国七雄】 燕(張燕)、斉(尹斉)、趙(趙範)、魏(魏続)、韓(韓玄)、楚(孫楚)、秦(秦松)
【北方の民族】 金(金尚)、遼(張遼)
【その他】 衛(張衛)、越(蘇越)、蔡(蔡瑁)、成(鮑成)、代(蘇代)、陳(陳宮)、鄭(鄭玄)、梁(梁習)、魯(魯粛)
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(終・収集癖 後編)」に続く
(関連ブログ)
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(一・名前を思い返す)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(二・養子に入らない方が良い)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(三・動物園と水族館 前編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(四・動物園と水族館 後編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(五・植物園を作れるか 前編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(六・植物園を作れるか 後編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(八・11にんのおうしょう 前編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(九・11にんのおうしょう 後編)」
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(十一・収集癖 前編)」本ブログ
「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(終・収集癖 後編)」続き
【本連載におけるルール】
第一回「三国志登場人物の名前を眺めてみたら(一・名前を思い返す)」に記載していることの概略ですが、以下のルールで記事を書いています。
(1)人物名として扱う対象
・名前から連想する言葉は、姓または名に限定し、字は対象外とする。また、部分的に切り取ることはしない。
・『正史三国志』または『三国志演義』に登場する人物を対象とするが、他時代の人物は除外する。
・称号、諡号、位などにあたる部分は姓や名として扱わない。
(2)内容に関する注意事項
・史実と物語、創作を混ぜてしまうことは不問とする。
・姓の由来は本題から外れるため、深く追求せず軽い感想程度に留める場合がある。
(3)参考書籍
今鷹真・井波律子・小南一郎訳『正史三国志』(ちくま学芸文庫 全8巻)
渡邉義浩編『全譯三國志』(汲古書院)
小川環樹・金田純一郎訳『完訳三国志』(岩波書店/岩波文庫)
『中国の思想』刊行委員会編著『三国志全人名事典』(徳間書店)
渡辺精一『三國志人物事典』(講談社)