NYでの映画・演劇漬けの休暇に一区切りをつけて、次に目が向いたのがオーストラリアだった。かつては、そして今でも世界の映画の中心といえば米ハリウッドと誰もが思う事だろう。しかしながら実は南半球に位置するオーストラリアも、世界の映画産業にとってかなり重要な位置を占めている。例えば豪州出身で活躍する俳優には、「リーサル・ウェポン」メル・ギブソン、「Xメン」ヒュー・ジャックマン、「マトリックス」ヒューゴ・ウィービング、「メメント」ガイ・ピアース、「めぐりあう時間たち」ニコール・キッドマン、「エリザベス」ケイト・ブランシェット等々上げればきりがない。又「ミッション・インポッシブル2」等、豪州でロケーションを行ったり、FOXやワーナーブラザースが豪州国内に作ったスタジオで撮影する作品も少なくない。そしてオーストラリア映画自体も世界で注目を集める作品を生み出してきた。

 

 その代表作としてジョージ・ミラー監督「マッド・マックス」(1979年)が上げられるが、実は豪州映画が世界的な注目を集める切掛けとなったのが、1975年に公開されたピーター・ウィアー監督「ピクニックatハンギングロック」だった。この映画はハンギングロックと呼ばれる岩山へ、学校の遠足に来た少女3人が謎の失踪をするという物語。主演したアン・ランバートの可憐な容姿やミステリアスなストーリー、そして美しい映像が評判となった作品だった。その舞台となったのは、豪州大陸南端ヴィクトリア州の州都メルボルンから北西車で約1時間の所に位置する“ハンギングロック”という岩山。まあ、“山”というよりは、大きな岩が重なった“小高い丘”と言うべきかもしれない。

 

 自分がここを初めて訪れたのは2002年12月の事だった。生憎と当日は折からの雨天ではあったが、遊歩道が整備されていたこともあって頂上まで登ることにした。そのような天候のため他に人影はなく、歩き出すと小雨の上にだんだん霧に囲まれてくる。そして歩みを進めるほどに霧は周囲にそびえ立つ大きな岩を包み込み、こちらにのしかかってくるような何とも不気味な雰囲気になってきた。30分と掛からずに頂上まで到達することができたが、そこは完全に霧に囲まれてどこか異世界にいるよう。まるで映画の世界に紛れ込み、そのままどこかへ連れ去られてしまいそうな気分になった。後年好天の下再訪したのだが、前回霧をまとって怪物の様に見えた岩々が、今度は山を登るにつれて青空を背景に様々な姿を見せ、周囲の景観も美しく全く異なる印象を残してくれた。又、近くのマウント・マセドンの上から見下ろしてみると、ハンギングロックは岩を積み上げた塊の様だった。周囲を見渡せばそれほど大きくはないものの、他にも岩の塊がいくつかあり、何でもはるか古代の地殻活動か活発だったころの火山噴火の跡だそうで、溶岩が冷えて固まり巨大な岩となったらしい。

 

 劇中に登場する少女たちが学んでいた寄宿学校は、ハンギングロックから10㎞程離れたウッドエンドという村にあるという設定になっていた。ウッドエンドは実在する町だが、実際はスーパーマーケットと周囲の数軒の商店を中心として広がる静かな田舎町。実は実際に学校のシーンでロケが行われたのはヴィクトリア州の西隣、南オーストラリア州の州都アデレードから北へ車で2時間弱のところにある、マーチンデールホールというマナーハウスだった。この邸宅は19世紀にイギリス人が本国から職人を呼び、家具調度品もすべて取り寄せて建設したもので、2007年に訪問した際は宿泊することができた。夕食の際は宿の管理人が執事/バトラーとなってサービスしてくれて、つかの間の英国貴族気分を味わうことができたたことも思い出深い。また食事の後でふと玄関から外を見たら、室内の光が届く以外の空間が本当に漆黒の闇だったことが強烈な印象となって残っている。泊まった部屋も19世紀当時のままで、その重厚さゆえに夜眠る際は不気味さすら感じたほどだったが、後で聞いたらかつてこの邸宅に住んでいた家族にまつわる幽霊話もあったようだった。