80年代になって話題となったオーストラリア映画が、1986年に公開された「クロコダイル・ダンディー」だった。この映画の主な舞台となったのが、豪州北部ノーザンテリトリー州にあるカカドゥ国立公園で、広大な湿地が広がり様々な鳥、動物、そしてワニが生息する素晴らしく美しい自然に溢れた場所。物語はクロコダイル・ダンディーと呼ばれ原住民アボリジニとも親しい野生人ミック(ポール・ホーガン)を取材するために、NYから記者スー(リンダ・コズラウスキー)がやって来て行動を共にすることから始まる。その際にロケーションが行われたのがカカドゥ公園だったのだった。ところで、この映画が公開された当時、「映画で話される豪州英語は極めて田舎の言葉で、日本でいえば津軽弁みたいなもの。都会の特に教養ある人はむしろBritish Englishを話して、決して“G’day Mate”とは言わないから気を付けるように!」と忠告されたことがあった。確かに過去何度も豪州を訪問したが映画の様に話す人に会ったことはなかった。しかし、2024年の夏にノーザンテリトリー州の州都ダーウィンからリッチフィールド、ニトミルク、カカドゥと三つの国立公園を巡る旅に出かけたのだが、この旅の途中で初めてすれ違いざまに“G’day Mate”と声をかけられ、そのように話す人が本当にいるのだと感動(?)してしまったのだった。

 

 カカドゥは映画で描かれたように本当にひと気がない場所で、ニトミルク国立公園で泊まったキャサリンの街からの約300㎞の道のり中も、特に豪州大陸を南北に横断するスチュワート・ハイウェイから逸れた後は、途中に町らしい町もなくひたすらブッシュの中を走り続けることとなった。その途中で野焼きなのか自然発生なのか知らないがブッシュが燃えているところがあり、それが放置されていたことにも驚いた。その日の宿泊地はカカドゥ・クロコダイル・ホテル、その名の通り空から見るとワニを模した建物となっているのだが、翌朝燃えるブッシュからの煙のせいで鳴り出した緊急避難のサイレンに叩き起こされたのには驚いた。結局大したことはなかったのだが、時々あるんだよと平然と言われたときは少々唖然としてしまった。

 

 ホテルから更にカカドゥの奥地へ30分程進んだところウルビーでは、原住民アボリジニが古代岩面に残した壁画を見ることができ、その一番奥の見晴らし台ではカカドゥの湿地や周囲の山波等の雄大な大自然を一望することができる。そこからは映画「クロコダイル・ダンディー2」に出てきた岩壁の小屋が設置された場所が望めるとの事だったが、結局何処かは分からなかった。また近くのチェイヒルズクロッシングには、川を渡るためにダムのような道があり(川はその道を越えて流れている)、それによって堰き止められてできた池には数匹の野生のワニが泳いでいた。川の傍にはワニに襲われて亡くなった人の慰霊パネルもあって、改めて野生のワニの恐ろしさを感じさせられた。

 

 ダーウィンに戻る途中マムンカ湿地という所で一休みし周囲を散策したところ、湿地の縁に数えきれない程の鳥の大群が蟻の群れの様に帯を成して群れて休んでいるのに出くわし、映画で見た以上の雄大な自然の素晴らしさに改めて感嘆させられた。そしてダーウィンの街に戻るとダウンタウンの繁華街の一角に、ワニと爬虫類を展示しているクロコサウルス・コーブなる施設があった。そこでは沢山のワニが飼育されていて、透明な筒に入ってプールに入り横を泳ぐワニが餌に飛びつく様子をすぐ隣で見るというアトラクションもある。その数多くいるワニの中の一番の古株バートは、「クロコダイル・ダンディー」でリンダ・コズラウスキー演じるスーが水辺で襲われそうになった場面に登場したワニなのだそうだが、先日とうとう永眠したとの記事がネットに出ていた。ご冥福をお祈りします。(合掌)

 

 ダーウィンはノーザンテリトリー州の州都とは言いながらこじんまりとした港町で、日本でいうなら九州・長崎の様な感じだろうか。90年代バブル真っ盛りの頃は日本からの直行便もあって多くの日本人が訪れたこともあったようだが、現在は殆ど見かけることもなかった。またこの街は第二次世界大戦中の1942年、日本軍による空襲で甚大な被害を被ったという歴史があり、そのことも被爆地となった長崎となんとなく通じるものがあるように感じた。そのため郊外にある軍事博物館を始めとして、街のあちこちで当時の惨状を示す展示や記録が残っており、単純に観光を楽しむには少々辛い気持ちにさせられてしまうこともあった。