パリ
のセーヌ
河畔にあるシェイクスピア&カンパニーという名の本屋さん。
どうも世界的に有名らしいですねえ。
およそガイドブックと名のつくものに必ず出ているほどであるそうな。
本屋さんですから、当たり前に本を売っているお店ではありますけれど、
なんでも物書き志望の故に食い詰めた者たちに食事とベッドを提供し、
開店準備や店じまい、本の整理や店番など多少の労力供与はあるものの、
いっさい費用はかからないという場でもあるのだとか。
やおらシェイクスピア&カンパニーの話を始めましたけれど、
ちょうど「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」なる一冊を読み終えたところでして。
カナダで犯罪記者をしていた作者ジェレミー・マーサーが犯罪ネタの著作のせいで脅しにあい、
逃げ出した先というのがフランス、パリ。
ここで物書きとしてひと旗揚げようとの目論見を持ちつつも、
日々は徒に流れていき、じわじわと手元不如意になるばかり。
そんな折にシェイクスピア&カンパニーの話を小耳に挟んだジェレミーは、
理想主義的コミュニストである店主ジョージが仕切るコミュニティに活路を見出し、
その扉を叩くのでありました…。
てなふうにいいますといささかフィクションめきますけれど、
実際にシェイクスピア&カンパニーに滞在した思い出を綴ったものなのですね。
ところで、シェイクスピア&カンパニーの有名さというのはなかなかに筋金入りであるようで、
1920年代、エコール・ド・パリ
の画家たちを始め、自らが新しい文化創造の旗手と信じる者たちが
パリに屯していた頃に、この看板は掲げられたと言います。
同じ頃パリにいたヘミングウェイ
も「移動祝祭日」の中でこの書店のことを書いているという。
でもって、現在に至るシェイクスピア&カンパニーは実は二代目ということになります。
第二次大戦を経て閉店した初代の精神を勝手に受け継ぎ、
(何しろ初代と二代目は縁もゆかりもないわけで)再出発したお店なのですけれど、
こちらの方にもヘンリー・ミラーやらビートニクの作家たちが出入りしたそうな。
そうした由緒を考えると、大層なイメージを抱いてしまいそうになるものの、
本だらけの片隅に設えられた寝棚のようなベッドでの共同生活みたいなところとなれば、
滞在の長さも人それぞれ。
作者はそうした環境に、わりと、というかかなり馴染んで店主ジョージの気まぐれにも適応し、
ジョージに右腕と見込まれるような存在であったようですから、
その回顧録には、寝泊りする他の者たちは「同じ釜の飯を食って苦楽を共にする同志」であり、
その仲間たちとの貧しくも夢を語る日々てなふうになっているのですね。
こう考えると、「理想」というのか「夢」というのか、
そんなふうなことが(経験としても)できたらなと思う反面、
本当にこうした生活共同体(?)があるのかという驚きと
本当にあるとしてなかなかに飛び込める世界ではないなぁということが
極めて普通のありふれた平凡人間には思えたりするところでありますね。
そうした点で、よく言われる「事実は小説より奇なり」ではありませんが、
小説のような事実というのもまたあるものなのですねえ…。
