弊社では、2022年2月13日日本橋亭の「旅にしあれば演芸会」にご出演いただいたのが
最期になりました。
この時は『甚五郎の蟹』を是非にとお願いし、曲師の佐藤貴美江師匠とのイキのあったところを
期待していたところ、なんと急病で貴美江師匠休演。
代役が伊丹秀敏師匠というミラクルがありました。これを聞けたお客様は千載一遇のチャンスに
遭遇したことになります。この時は極めつけの名演で袖で出演者が鈴なり。
打上でも絶賛が絶えず、圓橘師匠が「先生、軽く締めましょう」と人差し指で手締めをしてくれました。
その時の写真から。
澤先生の特徴にはやはり気風の良さがあり、形も綺麗。
そして女性の登場人物は女でなく、「女形」の演技でなさったことがあげられます。
『一本刀土俵入』の幕切れも、お客様は澤先生の正面を向いている筈なのに、
いつの間にか駒形茂兵衛の後ろに回って、お蔦家族を見送っているような錯覚すら覚えました。
不世出の名人。
孝子先生の師匠である廣澤菊春師の『徂徠豆腐』は五代目神田伯龍がお教えしたもので、
「偉い、偉すぎる」は先代のギャグ。『人情唐傘桜』(三囲神社の由来)も先代伯龍からです。
重なるご縁で、初対面は2000年11月9日の神奈川県民ホールの『甚五郎特集』。
澤先生は『竹の水仙』。この時は座り高座で「寄席に出るときの菊春は”小鍛治”で上がりましたので私も」
とおっしゃったのを覚えております。
伯龍は『寛永寺の登り龍』、談幸師匠が『ねずみ』でした。
毎年お招きするつもりでおりました。ただただ残念の一言です。