無意識にひそむ太古の地母神 (ユング心理学) | 瑞霊に倣いて

瑞霊に倣いて

  
  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

(日本人の無意識の底にひそむ縄文の母なる女神)

 

 “河合隼雄氏は、学校恐怖症の治療を受けていた、中学二年生の男子が、次のような夢を見たと語ったことを報告されている。

 

 「自分の背丈よりも高いクローバーが茂っている中を歩いてゆく。すると、大きい大きい肉色の渦(うず)があり、それに巻き込まれそうになり、おそろしくなって目が覚める」。

 

 そしてこの少年が、夢の中で巻き込まれそうになって恐怖をおぼえたという、巨大な肉の渦について、河合氏はこう、実に的確と思える解説をされている。

 

 「この場合の渦は、渦巻線としてよりは、何物をも吸い込んでしまう深淵としての意義が大きいが、このような深淵は、多くの国の神話において重い役割を演じている。すなわち、地なる母の子宮の象徴であり、すべてのものを生み出す豊穣の地として、あるいは、すべてを呑みつくす死の国への入り口として、常に人類に共通のイメージとして現われるものである」。

 

 この解説のまさにその通りに、肉の渦は、少年が自分では知らずに、このときそのとりこになっていた、あらゆるものを子宮に呑み込んでしまう、大地母神の強烈な力が、このような生々しいイメージに具象化されて、夢の中に出て来たのだと思われる。つまり少年には、そのことの意識はなかったが、彼の心の深層には実は、このような母神のすさまじい力が働いていた。それでその呑み込む力のせいで、この少年は、通常に学校生活をすることもできぬような、心理状態におちいっていたわけだ。

 ところでこの少年について河合氏は、もう一つきわめて興味深いと思えることを報告されている。

 

 「彼が学校を休んで最も熱中していたことは、石器時代の壷を見ること、そして、そのまがいものを自分で焼いて作ってみることであった」

 

というのだ。

 日本の少年が、見たりまがいものを作ることに熱中した、石器時代の壷といえば、それは当然、縄文土器の壷であったに違いない。縄文土器の壷に、当時の文化の中ではもともと、その時代の人々によって崇められていた、大地母神の姿を表わした像としての意味があったことは、この本の中で詳しく見てきた通りだ。

 現代の日本の中学生が、当人は意識していない、心の深層で働いている、母神の強烈な力のせいで、正常な生活ができずにいた。そしてその間にその少年はまた、もともと縄文時代の母神を表わす意味を持っていた土器の壷に対しても、なぜか異常な執着を持たずにはいられなかった。そしてその壷の魅力にいわば、すっかりとり憑かれたような状態になっていたというのだから、この少年は一言でいえば明らかに、彼の無意識の中で働いている、縄文宗教の母神のとりこになっていた。そして縄文時代の人々が、土器の壷によっても姿を表わしていた、その母神の力に妨げられて、学校に行くことができなくなっていたわけだ。

 縄文時代に一万年以上にもわたって、わが国で崇められた母神はやはり、今も日本人の心の奥底に生きて、目に見えぬ強い力を持ち続けている。現代の日本人も、そのことを意識しているのだ。河合隼雄氏が報告された、少年の夢は、そのことを本当に、まざまざと知らせる意味を持つと思える。”

 

             (吉田敦彦「縄文宗教の謎」大和書房より)

 

*大本では、出口ナオ開祖に憑かられた艮の金神様によって明らかにされた独自の神話が説かれています。一言でいえば「根の国底の国に封印された太古の神々の復活」ということなのですが、この「根の国底の国」とは、ひょっとしたら無意識のことなのかもしれません。