経典の読誦による霊性の開花 (大無量寿経) | 瑞霊に倣いて

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  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

 

・経典の読誦による霊性の開花 (大無量寿経)

 

 “『手の妙用』(東明社)は昭和六十一年に出版された本であるが、著者(吉田弘氏)は昭和四十六年に死去しているので、原著はもっと古いものであろう。著者は大正十一年に京大文学部哲学科を卒業し、宇都宮高農(現宇都宮大学)の教授や高等女学校長を歴任した人であるが、大学院では西田哲学の西田幾多郎教授について「心魂」(Psyche)を研究テーマとして霊媒や霊能者を研究した人である。

 吉田氏はもともと岐阜県のお寺の長男で、宗教的素養はあったようであるが、京大在学中には一燈園の西田天香に道を求めたり、出口王仁三郎に鎮魂帰神を教えた長沢雄楯の講習会に参加したり、南禅寺で南針軒老師について参禅して「無字」の公案について「無々々……」と模索したりしていたが、心は一向に定まらなかった。

 そこで親鸞の著書「教行信証」に『教とは大無量寿経是れ也』とあるのに啓発され、既成観念の一切を捨てて、素直に、『大無量寿経』を何百回も読んだのである。するとある日、忽然としてまったく別な世界が眼前に開けてきたのである。吉田氏はこの時の状態を次のように書いている。

 

 「見る木も家も何もかもがすっかり変わって見える。いずれも何か光り輝いているようである。大無量寿経に極楽の相が書いてあるが、あたかもそれと同じように見える。木の幹や葉が、金銀、瑠璃、玻璃、蝦蛄、瑪瑙でできているように見え、鳥の声も何か微妙な音楽に聞こえ、池の水は八功徳水のような感じがし、人はみな菩薩のような感じがする。 気が狂ったのではないかと思い、世間の人と話してみるが、別段変わったこともない。ただ明るい光に満ちた世界が眼前に開けてきたのである」

 

 吉田氏が書いているような外界が光り輝く世界に一変する体験は、求道者が苦行の末に到達する〈悟り〉の最初の境地のようである。余談であるが、数年前に目白メディカルクリニックを見学し、色盲治療に活躍している和同会会長の山田武敏氏にお目にかかった際に、同氏が開発した色盲治療器を使用すると、外界が色彩鮮やかな環境に一変し、患者が景色とはこんなにきれいなものかと驚嘆するという話をうかがった。色盲が治った患者やその家族の体験談を聞いた後で、私自身も治療器を頭部に装着して実際に体験した。確かに視界が鮮明になったようであった。

 ちなみに山田氏が開発した治療器は、コンピューターに組み込んだ特殊波形の微弱な電流を、皮膚上から通電して脳を刺激し、人体の生理機能を向上させる装置であり、色盲だけでなく、自律神経失調症、アレルギー性鼻炎、喘息などにも有効だそうである。

 余談が長くなったが、求道者の心機一転と、脳の物理刺激と、まったく異なった条件が、視界の鮮明化という同じ状態を招来するのは興味深い。

 吉田氏は前記の視界一変の経験の直後から他人の苦痛を自分で感覚することができるようになった。遊びに来た友人に、「君は頭が痛くないか」などと、身体の具合を言い当てるので、気味がわるいといって誰も来なくなったそうである。”

 

             (勝田正泰「気をめぐる冒険」柏樹社より)