『侍タイムスリッパー』を観に行った。
チケットを買ったのは1か月ほど前。
地元の公共施設で上映するというチラシが新聞に折り込まれていた。
内容的には今一つピンとこなかったのだが、主演が山口馬木也さんだったので、思わず行く気になったのである。
馬木也さんは、テレビドラマ『剣客商売』で、秋山小兵衛の息子・大治郎を演じていた。
いろんな人が大治郎を演じていたが、馬木也さんが一番ぴったり。
剣の達人なんだけど、父には若干届かない。その「若干」の塩梅がもう絶妙。朴訥で、素直で、素朴でまっすぐな人柄がにじみ出ていた。
そして、『侍タイムスリッパー』での会津藩士・高坂新左衛門も、その期待の通りの役柄だった。
長州藩士との対決のさなか、現代にタイムスリップしてしまった新左衛門。
そのスリップした先が、幸か不幸か時代劇撮影所。
そして、様々な出来事を経て、新左衛門は斬られ役として名をはせていく……
いわば、題名そのものの内容なのだが、まあ面白くはあった。
ただ、タイムスリップした新左衛門が現代になじんでいく過程が、すんなりしすぎていることが気になった。彼にしてみたら、まったく理解不能な状況に陥ったわけで、見るもの聞くものすべて、全然受け入れられないはずだ。
もちろん、テレビに驚き、ビル群に仰天し、ケーキに激感動するシーンなども織り込まれてはいるのだが、案外あっさりと現代になじんでいってしまう。
だが、彼を居候させる寺の住職夫婦がまったくもって好人物で、どこの誰だかわからない変人の新左衛門をごく普通に受け入れるところがいい。
この夫婦だったからこそ、新左衛門は現代になじめたのだと思えなくもない。
だけど、なにより時代劇のよさが満載であることのほうが魅力的だったな。
当然、斬り合いのシーンが多いのだが、相対する互いの姿勢、その形、微動だにしない静寂が全く美しい。
時代劇をますます好きになった。
ちなみに、この作品が日本アカデミー最優秀作品賞を受賞したことを知ったのは、チケットを買った後だった。
剣構え 向き合う男の 視線剣
鞠子