それを最後に使ったのは2日前。
次、使おうと思ったとき、ないことに気がついた。
基本、リュックに入れて持ち歩き、職場でも時々使うので、「きっと職場に置き忘れたのだろう」と安易に考えた。
で、出勤した際、職場にもそれがないことが判明。
職場内、自分の車、駐車場から職場までの道中、くまなく探したが、やっぱり見つからない。
おかしい。いや、待てよ。家で使ったとき、机の上には大きなファイルが2つ出ていた。そのファイルの間に挟まっているのではないか。
職場にないのなら、もうそれしか考えられない。
若干、気が楽になったが、果たして本当にあるだろうか。
嫌な予感がする。帰るまで気が気じゃなかった。
そうして家に帰り、ファイルの間にもそれがないことがわかり、一気に血の気が引いた。
話、盛ってない。本当に心臓がバクバクし始めた。おそらく、顔も真っ青だったのではないかと思う。
行方が分からなくなったのは、私の個人情報満載のUSB。
かわいらしいポーチに入っているのだが、そのポーチごと、紛失してしまった。
ドラッグストア、スーパー、喫茶店、映画館、図書館、郵便局etc.etc、この2日間、行った先を必死にたぐり、片っ端から電話をした。
どこにもない。
ということは、車の乗り降りの際、あるいは歩いている道中で落としたか。
もしくは、行った先のどこかで誰かが拾って持ち帰ったか。
いずれにしても、絶体絶命状態。
いたたまれず、夜、また職場に行き、みんな帰ってしまった無人のオフィスを探しに探した。
だけど、やっぱりない。
もうだめだ。
とにかく、USBに入っていたであろう情報の中、思いつく限りのPWを変更した。この間、全然利用していない旅行サイトやインターネット購入サイトを全部解約した。キャッシュカードも全て止めた。
当然、徹夜。
しかし、そんなことで安心できるわけがない。もれているものも絶対ある。何より、悪用者は私なんかよりうんと賢い。PWを変えたくらいで安心なはずがない。
どうしよう。
もう、本当に泣けてきた。
と同時に、そんな大事な情報を小さな機器で持ち歩いている私のおバカぶり、大甘な危機管理を悔やんでも悔やんでも悔やみきれなかった。
新聞に「個人情報がもれました」みたくな記事を見てもまるで他人事だったが、私ときたら、自分でもらすという体たらく。
今後、もう安心は得られない。
トンデモなメールやLINEがきまくり、銀行からお金が引き出され、買い物しまくられ……
疲れ果てて横になってみたが、寝られるはずがない。
悶々とする中、そういえば、行き先に、祖母のお墓もあったことを思い出した。
しかし、お墓ではリュックはしょったままで、全く開けてない。だから、落とすわけがない。
だが、立ち寄ったところは全部確認してみないと気が済まない。
時計を見たら4時半だったが、どうせ眠れないのだ。あるわけないけど行ってみようと思った。
急いで服を着替えた。
車に乗り込んだ。
そして……
サイドブレーキを外すとき、いつもはしないのに、なにげにサイドブレーキそのものに目が行った。
と、そのとき、運転席とサイドブレーキの間の狭いすき間に、弱く光るものを見つけた。こんなところに小石が挟まっている、と思い、手を入れたら、それは探し続けたポーチに付けたストラップ、小さなハローキティの頭部。そっと引き出したら、無傷のポーチが。中にはUSBが。
思考が完全に止まった。
喜ぶどころか、完全に放心状態。
しばらく何も考えられなかった。
こんな結末になろうとは。
見つけられたことすら、奇跡に近い。
「自分の車の中にある」のに、盗られた、なくなった、悪用されると毎日怯えて悶々としなければならなかったのだ。
もう二度とこんな思いをするのは嫌なので、個人情報系のUSBは、持ち歩かないと決めた。
それでもUSBは必要なので、ポーチには小さな鈴10個と大きなストラップをつけた。もちろん、窮地を救ってくれたハローキティもそのままついている。
なので今、私のリュックは歩くたびにシャンシャン音がする。
皮肉なことに熊も避けてくれるに違いない。
明日はまた 別の災難 やってくる
鞠子