ダブルワーク先に納品に行き、納品届け書を書いていたら、一人の社員さんがおもむろに近づいてきて、「ちょっとプライベートのことなんですけど」と言い出した。
ドキッとした。
何や、プライベートのことって……
「実はですね、私、名字が変わりました」
とっさに「それはおめでとうございます」と言ってしまったが、即、後悔した。
名字が変わるのは、おめでたいときばかりではない。真逆のときだってあるではないか。
頭、混乱した。
そもそも私は在宅ワーカーの一人に過ぎず、名字が変わったことを伝える必要は全くない。
なぜ、わざわざ言いに来たのか。
結局、おめでたい方の改姓だったのでほっとしたが、それでも謎は残る。
なぜ、結婚したことを私に報告したのか。
彼女が別の社員さんに新姓で呼ばれていたら、私が不思議に思うだろうから、と思ったのだろうか。
だけど、私は週1回しか出社しないし、そのときも社員さんたちとほとんど話す機会はない。
いや、単にうれしくて、知っている人には誰にでも話したくて仕方がなかったのだろうか。
だとしたら、すごく申し訳ない。
彼女には口が裂けても言えないが、今や私は「結婚」と聞いても正直、感動しないのだ。
それどころか、家庭を持ってこの仕事は大変だろうな、と思ってしまうくらいで。
若いころ、そうじゃなかった時期もあるにはあったが、少なくとも焦った記憶は皆無。
ある意味、ずっと冷めていた。
年と共に、冷め具合がひどくなった。
今となっては、家庭を持たないこのお気楽生活が楽しくて仕方なく、手放す気は毛頭ない。
まあ、そんな私の思いなど、彼女には全く関係のないことだ。
だが、今もって、彼女がわざわざ私に告げた理由は釈然としない。
ただ、彼女は雰囲気的に何となく不思議ちゃんなので、深い意味などないのかもしれない。
そう思うことにして、機会があれば、教えてもらった新姓で声をかけることにしよう(←まず、ないが)。
枯れたのか 枯れていたのか 恋心
鞠子