昨夜、某身内から電話がかかってきた。
彼は1か月ほど前、新規出店をした。もともと、卸の仕事をしていたのだが、補助金なんかも利用して、直営の小売店を開いた。
そうして夢をかなえた。
だがしかし、物事はそうはうまくは進まない。昨夜は、半分愚痴みたいなもので、決していい話ではなかった。
彼は、私からアドバイスやヒントを得ようという気はさらさらない。誰にも言えない胸の内を聞いてほしかっただけだ。それが分かっているから、私も基本、うんうんと相槌をうっていただけだ。
だが、その「相槌をうっている自分」が嫌で嫌でたまらなかった。
この出店の話は、決まってから、もう内装工事に入った段階で、彼に話を聞いた。
聞いたとき、即、「その店、続かない」と思った。
どう考えたって、人手がない。片道1時間強かかる場所の店、よほど信頼できる右腕か相棒がいれば別だが、雇ったばかりの従業員に全面委任せざるを得ず、これがうまくいくとは思えない。
…と、言えなかった。
夢実現のために嬉々と計画を話す彼に、本心は全く言えなかった。
でもこれって、結局私は非常に「悪い人間」だということだ。
だから、昨夜の電話も「さもありなん」、悪く言えば「そうなること、わかってたじゃん」的な内容だった。
もちろん、「初めから懸念していたよ」なんて、言えるわけがない。打っている相槌も、いわゆる「カラ相槌」にすぎない。
2時間近く話していたが、自分の「悪」が見えるばかりで、本当に嫌だった。
奥底の 悪に気づいた 電話口
鞠子