昨日から、隣家の様子がおかしい。
おばあちゃんの声が聞こえないのである。
そして、何となくひっそりしている。
私が心配することは、何もない。
息子夫婦も孫も同居しているので、間違っても「孤独死」ということはない。
私は何十年も、ここに住んでいる。
多少の入れ代わりや子供が独立して離れたりはあったが、住人はほとんど変わっていない。
迷惑な家とかルールを守らない家もない。
いたって静かな家々で、深夜、電気がついているのも我が家ぐらい。
…だけど実は、お互い、何も知らない。
事情は何もわかってない。
好奇心マンマンのおしゃべりおばさんも、なにかとお節介を焼きたがるおじさんも、全然いなくなってしまった。
班長をやって、そのことに初めて気づいた。
うちのあたりでこれなんだから、都会はもっと「不明」だろうな。
隣に人が住んでいるのかいないのか、それさえ知らない。
そして、
知られたくない。
ますます知られたくなくなる。
左家(ひだりや)も右家(みぎや)も預かり知らぬ闇
鞠子