『洗濯船』なる言葉を初めて知った。
洗濯船とは、パリのモンマルトルにあった安アパート。
セーヌ川に浮かんでいる洗濯用の船にそっくりだったことから、この名前がつけられたとのこと。
このボロ長屋に貧乏な画家たちがアトリエを構え、制作活動を行った。
ピカソやモディリアーニといった巨匠は、ここから生まれた。
一方、モンパルナスには『蜂の巣』なる集合アトリエが。
シャガールはここにいた。
そして、『洗濯船』と『蜂の巣』を中心に、画家だけでなく、ヘミングウェイやフィッツジェラルド、ジャンコクトーといった詩人やら作家やら、芸術家がぞくぞく集まってきて、1920年のモンパルナスは「狂乱の時代」と言われたのだそうだ。
…などと、知ったかぶりで浅い知識を書いてみたが、名古屋市にある松坂屋美術館で『洗濯船と蜂の巣』展を観て、得たことなのである。
この前観た『ピカソ展』では、ピカソの作品ばかりが展示されていたが、『洗濯船と・・・』は、ここに集まった何人もの芸術家の作品が展示されており、つまり、作風の違う作品を観ることができ、別の面白さがあった。
あえて作品について取り上げるとするならば、シャガール。
いろんなところで観たことがあり、なんとなく想像できる作風なのだが、じっと観ているうちに気づいた。
シャガールの絵って、登場する生き物のどれかは必ず私を見ているってことに。
例えば私が絵の中心に書かれた生き物を観ていると、逆に誰かに見られているような気がして落ち着かなくなってくるのだが、よくよく見ると、端っこにいる生き物が私を見ているのである。
これはなかなかスリリングで面白い。
…そしてなにより、「狂乱」と言われるほどの「芸術家のるつぼ」には、もうドキドキする。
強烈な才能の持ち主たちがどれだけ激しくぶつかり合ったのだろう。
どれだけ熱い議論を交わしたのだろう。
ラ・ロンド、ル・ドーム… 舞台となったカフェの写真を見ながら、そんな想像がかきたてられた。
当人たちは、苦悩のただ中で創作活動をしていたのだろうが、おんぼろの洗濯船や蜂の巣での彼らの生は充実していたに違いない。
・・・それは凡人の無責任で甘ったるい感傷に過ぎないのかも、とも思いつつ。
描くことは生きることまた死ぬること   鞠子