現在の携帯本は、川端康成『山の音』であります。
これも誰だか著名人が、お薦めの一冊として挙げているのを見て、さっそく購入した。
乱暴にあらすじを言うと、
父・母・息子・息子の嫁・出戻ってきた娘、という家族構成の一家の日常が描かれている。
その中心に、父は独身時代、実は妻の姉に魅かれており、いまだにその思いを捨てきれないこと、息子の嫁に今は亡き姉を透かして見ていること、がある。
ところでこの息子、結婚して2年しか経たぬのに、よそに女がいるのだが。
俗に言う「浮気」だ。
そのため、妻はもちろん、父も母も、いろんな意味で傷ついている。
息子自身、心に闇を抱えている。
一見、どこにでもある家庭図。
だが、「浮気」という一点から見ると、実際に事を起こしている息子は責めやすいが、父はどうなのか。
心の中ではずっと浮気しているのだ。
おまけに、息子の嫁に投影したりして、ますます罪深いではないか。
心の中だけなら許されるのか。
むしろ、表に出ないだけ、たちが悪い、とも言えるのではないか。
…などと悩まねばならぬほど、登場人物一人一人の心の掘り下げがすごい。
おまけに、鎌倉の情緒がここかしこにちりばめられ、
おまけのおまけに、日本語が美しい。
特別、大事件が勃発するわけではなく、たんたんと描かれるのだが、だからこそ、人間の醜悪な部分、冷酷な部分、弱い部分が露呈する。
某著名人がお薦めした理由がよくわかった。
ただ、20代の頃に読んでたら、たぶん全然理解できなかっただろうな。