うらうらと晴れて、まったく少しも風のない春の日に、それでも、桜の花が花自身の重さに堪えかねるのか、おのずから、ざっとこぼれるように散って、小さい花吹雪を現出させることがある。机上のコップに投げ入れておいた薔薇の花の大輪が、深夜、くだけるように、ばらりと落ち散ることがある。風のせいではない。おのずから散るのである。天地の溜息とともに散るのである。空を飛ぶ神の白絹の御衣のお裾に触れて散るのである。
…*…*…
人生の最高の栄冠は、美しい臨終以外のものではないと思った。小説の上手下手など、まるで問題にも何もなるものではないと思った。
…*…*…
太宰の『散華』より。
死の美学。
かくも美しい「死」に、読んでしばらく呆然としていました。