枯れ葉(Kuolleet lehdet / Fallen Leaves) | cahier de chocolat
December 13, 2024

枯れ葉(Kuolleet lehdet / Fallen Leaves)

テーマ:films&dramas

2023年中に観られなかったので、2024年の映画館での鑑賞作品1本目はこれにしようと決めていた。何を書こうか迷ってぐずぐずしていたら、ものすごい時間が経ってしまった。この作品は「プロレタリアート三部作の4作目」らしい。ちょっと意味わからないことをしれっと言うこの感じからして、すでにアキ・カウリスマキで好き。とはいっても、別にふざけているわけではなく、「続きに位置する」という意味だそう。静かな中に印象的な部分がいくつもあった。人々の日常生活の中に戦争のニュースが流れている。同じ世界のできごととして、作品内に存在している。直接の影響はない人でも、気持ちの上で影響を受けることはおおいにある。身の回りのことと世界でのことは並行して起こっているのだと強く感じる。とはいえ、実際の世の中がそうであるのと同じように、どんな時でもユーモアというのはある。救いのようにそこにある。映画館でゾンビコメディの『デッド・ドント・ダイ』を観た人たちが、「ブレッソンの『田舎司祭の日記』を思い出したよ」とか「僕はゴダールの『はなればなれに』だね」と感想を言い合っているのには笑ってしまった。映画を観て、どんなふうに感じようとその人の自由だよと言ってもらえたような気がした(実際、自由なのですが)。まあ単純にずれ具合を笑えるという意味でも好きなシーンのひとつ。ずれているといえば、不思議なのが、この映画の公開は2023年、ラジオからは2022年のロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れている(これは制作時期のことを考えれば納得できる)、けれども、壁にかかったカレンダーは「2024年」。ラジオ、固定電話、ジュークボックスなどの旧式なものとPCやQRコードといった現代的なものの混在はまだわかる、でも、このできごとと年号のずれはいったい? しかも、カレンダーの日付と曜日の組み合わせが違っている。例えば、2024年12月31日は現実のカレンダーでは火曜日なのに対して、『枯れ葉』のカレンダーでは金曜日。ある種のパラレルワールド? そして、実際に2024年の現在も侵攻は続いている。それから、思わず声を出して笑ってしまったのは写真のシーン(大好き)。館内でも笑いが起こっていた。映画館で観てる人たちが声に出して笑うという状況に出会うことは意外と少ない。やっぱりアキ・カウリスマキ監督のコメディ映画(レニングラード・カウボーイズみたいなやつ)の新作も観たい。


ここからネタバレあり。主人公・アンサ(アキ・カウリスマキの世界観に見事にはまっている『トーベ』のアルマ・ポウスティ)が着ているものについての話です。

この作品では、アンサの服の赤が印象に残る。観ていると、もうひとりの主人公であるホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)との関係性に関連した彼女の気持ちを反映しているのだろうなと思える。嬉しいときや良いことがあったとき、前向きな気持ちのときは赤いシャツやセーター、迷っているときなど、彼のことを思いつつも複雑な心境のときは赤と黒を組み合わせた色柄になっている。最後、退院するホラッパに会いにきたときの服は一見真っ黒に見える。でも、黒いコートの下に赤い服を着ているのが袖口と衿元からわかる。ショートブーツもそれまでのブラウンからダークレッドに変わっていたりする。例外は、犬のチャップリンを引き取る日も赤いシャツと赤いパジャマを着ているところ。ただ、これは彼女にとって良い出会いであったことは間違いないので、感情のステータスとしてはやっぱり「喜び」に入る。あと予見的なのは、ホラッパの意識が戻ったという知らせを受ける前の病室内のシーンだけ、アンサはシルバーのイヤリングをつけている。真っ暗な病室できらっとひかるイヤリングはまるで「silver lining(希望の兆し)」のよう。この時もシャツは赤い。

そもそも「オヅサン」リスペクトのアキ・カウリスマキ映画には、画面内に赤があることが多い。

改めて観ると、この動画内でアキ・カウリスマキはこれまで「11本」の映画を作ってきた、「これから30本の映画を作るつもり」と言っている。IMDbの情報によると、ミュージックビデオを除いた作品数は31本。そこから短編とテレビ映画を除くと24本。まだまだ楽しみにしていますね。

ところで、アキ・カウリスマキと作家のミカ・ラッティがオープンし、ふたりが共同オーナーをつとめている映画館“Kino Laika”が2021年にオープンしています。場所はもちろんフィンランド。この映画館のオープンを追ったドキュメンタリー『キノ・ライカ 小さな町の映画館』が12月から公開になるとのこと。これは楽しみだ。
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