CAHIER DE CHOCOLAT
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フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(Fly Me to the Moon)


とにかく映画館に行きたいと思ったときに、上映している中で一番おもしろそうだったから観た。大好きな時代が舞台だし、新作としてチェックはしていたけど、正直、特別に期待はしていなくて、絶対に観るぞ!と思っていたほどではなかった(申し訳ない)。でも、こういう時に当たりを引くこともある。時は1969年。登場人物の服装も、食事をするお店も、乗ってる車も、もうすべてが「ザ・アメリカ」という世界。「アポロ11号の月面着陸映像は捏造だった」という陰謀論は(ある意味)ほんとうだったというストーリーと主人公ふたりの恋愛もよう、ふたつのドキドキハラハラが交差し合って、かなりエンターテインメントで楽しかった。PRのプロフェッショナル、ケリー(スカーレット・ヨハンソン)の大げさなくらいデフォルメされた口八丁っぷりが豪快で気持ちいい。彼女のスタイルは60年代というよりも50年代の名残りを感じさせる感じで(あと少しで60年代も終わりだというのに!)、映画女優のように美しい。まあ彼女のやっていることはある種の“演技”で、しかも“名女優”なので、これは意図的なものである可能性あり。NASAの宇宙船発射の責任者、コール(チャニング・テイタム)はなかなかにガチガチで融通が効かないタイプだけれども、つらい過去も背負っている。トレードマークのハイネックのニットはスタートレック風。宇宙へのロマン……でも、ひとりだけスーツでないのは彼の変わり者っぷりを表わしているんだろうなとも思ったり。そんなまったく違うタイプの、それぞれデキルふたりがお互いのことを少しずつ理解して、バディみたいになっていって……というスローラヴがまた良い。ふたりを取り巻く人々も素敵なキャラクターがたくさん! とにかく楽しくて、気持ち良いどきどきがあって、最後はハッピーになる。猫の演技も見事(実はダブルキャスト。でも全部本物の猫だそう)。とにかく大好きな時代の空気をたくさん味わって、観終わるころにはちょっと元気になっていた。音楽も良かった。帰りに車の屋根を開けてフランク・シナトラとかディーン・マーティンとか聴きながら、ふと空を見上げたら、見事な満月だった。


実は、一番感激したのは体験していないわくわくを体験できたこと。当時の映像だけ観ても、特別宇宙に関心があるとかくわしいとかいうわけではないし、そこまでわくわくしたり、息をのんで観たりはとうていできない。でも、月面着陸自体は成功するとわかっていても、そこに別の「どうなるんだろう!?」というストーリーがからまってくると、そこにどきどきが生まれて、結果として、「どきどきしながら月面着陸の中継を観る」という体験ができるという、うまいしかけになっていた。個人的には、マイケルの日記に書かれていたことをまるでリアルタイムの自分の体験のように味わえたのがとっても嬉しかった。


マイケル・ペイリン 『The Python Years: Diaries 1969 – 1979, Volume 1』より。


7月21日(月)
今朝、3時にヘレンを起こし、月からの初のテレビ映像をふたりで観た。かなりぼやけたはしごのようなもの、それから大きなブーツが見えて、そしてついに、3時56分、ニール・アームストロングは月面に初めて足を下ろした人類となった。彼は、足の下にある地面(“足の下にある地球”と書きそうになってしまった)は主にちりやほこりで構成されていると言った。一瞬、流砂のようなものに巻き込まれる危険にあるのではないかと感じたが、彼はすぐにみんなを安心させるようにぴょんぴょん跳び回って、6分の1の重力状態はシミュレーションほど危険ではないと言った。
この晩に関して見事だったのは、3時56分にアームストロングが宇宙船からはい出してきて、キーホールカメラ(keyhole camera)を起動させるまで、僕たちは宇宙の映像をまったく目にできていなかったのだが、それでもITVはなんとかして月面着陸の特集番組で10時間を埋めたことだ。
5時にベットに入った。宇宙服を着て、月面で、奇妙なクモみたいな物体の前で、カンガルーのようなジャンプをしたり、大またでゆっくり歩いたりする人の姿を思い浮かべながら。まさに古いイーグル・コミックス(Eagle Comics)の『ダン・デア(Dan Dare)』を読んだあとに思い浮かべたイメージのようだけれども、今回はほんとうのことだ。たくさんのサイエンス・フィクション(科学的空想)がとつぜんサイエンス・ファクト(科学的事実)になっている。




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Monday, July 21st
 At 3.00 this morning I woke Helen, and we both watched as the first live television pictures from the moon showed us a rather indistinct piece of ladder, then a large boot, and finally, at 3.56, Neil Armstrong became the first man to set foot on the lunar surface. He said the ground beneath his feet (I almost wrote ‘the earth beneath his feet’) was composed mainly of dust – for a moment one felt he was in danger of falling into a kind of quicksand – but soon he was reassuringly prancing about and telling us that the one-sixth gravity conditions were less hazardous than in simulation.
The extraordinary thing about the evening was that, until 3.56 a.m. when Armstrong clambered out of the spaceship and activated the keyhole camera, we had seen no space pictures at all, and yet ITV had somehow contrived to fill ten hours with a programme devoted to the landing.
To bed at 5.00, with the image in my mind of men in spacesuits doing kangaroo hops and long, loping walks on the moon, in front of a strange spidery object, just like the images in my mind after reading Dan Dare in the old Eagle comics – only this time it’s true. A lot of science fiction is suddenly science fact.



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