忘れられない試合がある。

 2016年11月5日、格上の相手ベガルタ仙台レディースと戦った皇后杯三回戦(藤枝運動公園)だ。

 

 2016年のスフィーダはリーグ戦は5位、カップ戦は8戦全敗の予選最下位。シーズン開始前のファン感で、当時新監督に就任したばかりの川辺学が放った「リーグ戦……全て勝ちます」という言葉がまるで何かの呪いだったかのように、シーズン序盤から噛み合わなかった歯車はその後も大きく大きく歪み続けた。チームはシーズン途中での監督交代を経て、なんとか2部リーグ残留はしたものの、当初の「優勝」「一部昇格」という目標とはかけ離れた結果となる。一方、その年のベガルタレディースはリーグ4位、野球で言えば、ベガルタレディースはAクラス、スフィーダはその下のカテゴリのBクラス、データ上での差は歴然だった。けれど、天皇杯、皇后杯では下剋上、ジャイキリというのもそう珍しくはない。やってみたら良い勝負が出来るかもしれない、そう思って藤枝運動公園に乗り込んだ時のことは、今でもよく覚えている。

 結果は1-5での敗退。数字だけで見れば完敗だと言われるかもしれない。けれど前半0-2で折り返した後、後半54分に長崎茜の右足が放ったボールがベガルタゴールのネットを揺らした時の興奮は今でも忘れられない。

 ――獲った!! 獲ったよ!

 ベガルタから1点獲った!

 まだまだ1-2のビハインドだったのに、私たちはまるで試合に勝ったかのように、飛び跳ね、抱き合い、喜んだ。

「勝てる! 勝てるよスフィーダ! 勝って東京帰るよ!」

 そう叫んだことも鮮明に覚えている。何を根拠に……と笑われるかもしれない、けれどこの時は本当に勝てると思ってた。そのくらい茜のゴールはスフィーダイレブンに力を与えてくれた。

 スフィーダがなでしこ一部のチームからもぎ取った1点が、ゴールへの嗅覚ピカイチの元得点女王、森仁美(現:伊賀)でもなく、ベテランの永田真耶(2017年シーズンで引退)でも山本菜桜美(現:ちふれ)でもなく、スフィーダの中で選手たちの妹的な存在だった茜のゴールだったことには、大きな意味があると思った。今後のスフィーダの未来を照らしているかのようにも感じた。

 

 2015年 15/27試合(フル出場0試合)0ゴール

 2016年  5/18試合(フル出場0試合)0ゴール

 2017年 17/18試合(フル出場14試合)11ゴール

 2018年 17/18試合(フル出場12試合)4ゴール

 

 過去四年の茜の出場試合数と得点数を見てみると、私のこの時の感想がただの妄想ではなかったと、お分かり頂けるかと思う。

(リーグ戦のみの集計です。カップ戦は数えていません)

 

 そんな茜が5/19のハリマ戦(@AGFフィールド)でなでしこリーグ100試合を達成した。今シーズン、リーグ第五節、第六節、第七節と、三試合連続ゴールも決め、現在通算4ゴール、リーグ得点ランキング四位を走り、満を持してセレモニーを迎えることとなった。この日は奇しくもキャプテン原志帆が先週に引き続き、目の負傷でベンチを外れた為、キャプテンマークを腕に巻いての出場。ゴールこそ奪えなかったものの、シュートにドリブル突破、相変わらずの絶対的存在感を見せてくれた。

 

 

▼3-4-3の太田さん作の横断幕と、声出しメンバーで作ったビニールテープ幕

 

▼「長崎茜」って表記にしようと思ったけど「画数多くてつらいw」となったのはここだけの話w

 

 この日のヒロインインタビューに呼ばれたのは、一点目を決めた片寄優と、100試合祭りの主役である茜の二人。このインタビューに関しては「ホームゲームでの勝利」というのが条件の為(引き分けと負けの場合は監督インタビューのみ)、普段どんなにピッチで活躍している選手でもこのような機会が必ず訪れるとは限らない。きっとスタンドには茜の声を初めて聞くサポーターも居ただろう。どこか照れ臭そうに、ゆっくりと、文節で言葉を切りながら喋る茜はあまりにあどけなくて、隣にいる六歳年下の片寄よりも幼く見えた。私も初めて茜のインタビューを聞いた時は、ピッチでの勇ましい姿とのギャップに驚かされたものだ

 

 

【以下、とてもうろ覚えなまま書き出してるので雰囲気で察して下さい】

 

サッカー100試合を達成して

「これまで100試合を達成してきた先輩たちを見て来て、自分もいつか……とは思ってました」

 

サッカーご両親に対して

「いつも……支えくれてありがとうございます(ほぼ真正面のスタンド上段に座るご両親を見上げながら)」

 

サッカーサポーターに対して

「私には……青い血が流れています……」

 

(ここでしばらくの沈黙、インタビュアーのユキ・ラインハートさんが「目が潤んでいますね」と言うとユニフォームの襟部分を引き上げて両目を拭う姿も。スタンドからは「頑張れ!」「頑張れ茜!」と励ましの声が飛ぶ)

 

「これからも頑張ります。応援よろしくお願いします」

 

(青い血云々で何かもっと言おうとしたのだろうけど、言葉に詰まってしまってなんとかまとめた印象)

 

 

 茜らしいと言えば、非常に茜らしいインタビューだった。これまで100試合のセレモニーを迎えて来た選手は永田真耶(2017引退)、福原菜緒(2016引退)、田中真理子(現:ジェフレディース)、森仁美(現:伊賀)、田中麻里菜(2016引退)、花桐なおみ(現:十文字)の六人、茜で七人目となるが、全員が全員、セレモニーが行われた試合で勝利して、華々しいインタビューの場を与えられたわけではない。だからこそ、我々サポーターも「今日は茜のお祭りだから絶対勝って! 絶対勝って!」と、いつも以上に願いを籠めながら声を出し続けた。本当に、勝って良かった。それに尽きた。

 

 私がスフィーダを応援し始めた2015年、茜のスタメン起用はわずか二試合のみ。アウェイの吉備国(3/29)とジャパンサッカーカレッジ(7/19)の試合、私はどちらも現地に居なかったので茜の印象は「ベンチ外が多く、ベンチに入っても30分も出れれば良い方」といったものだった。ゴールデンウイークの魔の三連敗(ノジマ・日体・愛媛)から始まった「六試合勝ちナシ」の状況でだんだんとサポーターの方向性もバラバラになりつつあった時、あるサポーターの男性が「ミラクル茜さんを出せばいいのに!」「なぜ監督は茜さんを出さない」としきりにブログで訴えていた。私は茜のプレーをほとんど観たことがなかったし、出場時間が短いのもあってゴールも見れていない、この方の言う茜の魅力がこの頃はまだ分からなかった。その茜が爆発的に活躍したのが同年和歌山県で行われた「紀の国わかやま国体」だった。結果は準優勝(優勝は伊賀のメンバーが中心の三重県)だったものの、茜は全試合フル出場、得点ランキングは宮城県代表道上彩花(当時INAC)に次ぐ2位の快挙を抱えて東京に凱旋する。

 

【ショコラブログ20150930】ミラクル茜! 紀の国わかやま国体大活躍!

 

【ショコラブログ20151006】快挙! 長崎茜 わかやま国体得点ランキング2位!

 

▼我が家で作った即席ビニールテープ幕(10/12の町陸での日体戦で掲げました)

 

 ――茜がそんなに得点力のある選手だなんて知らなかった。

 ――なぜ国体の試合はテレビやネットの媒体で見れないの?

 ――スフィーダの試合でもそんな茜が観たい!

 

 そんな気持ちでいっぱいだった。スフィーダでの茜の大活躍が観れるのはもう少し先の話になったけれど、私の中ではやはりこの国体と、前述の皇后杯ベガルタレディース戦がターニングポイントだったように思う。

 

 この頃、日曜の15:15~15:30、FM世田谷で生放送されていたスフィーダのラジオ番組で、川邊監督が茜に対してこんなことを言っていた。

 

 「長崎も、みんなにミラクルとか言われてるようじゃまだまだですね」

 

 最初に茜のことを「ミラクル」「ミラクルガール」「ミラクル茜」と言い出したのは当時のスフィーダの先輩たちなのだろうか。人とはリズムが違っていて動きがなかなか読めないだとか、予想も出来ないプレーをする、抜群のセンスで奇跡を起こすだとか、当時のブログ担当の選手たちも口を揃えて賞賛していた。今も歌い継がれている個人チャント 「あかねー あかねー ながーさーきー 世田谷のミラクルガール」もきっとそんな流れで生まれたのだと思う。監督は、偶然が重なったプレーで起こす「ミラクル」ではなく、きちんと計算して必然的にゴールを生み出せと、そんなつもりで言ったのだろう。ただ、茜自身が今の個人チャントを気に入ってくれている(……と我々は思っている)し、試合中にこのチャントを歌った後に、茜のギアがぐんと上がりゴールを生み出してくれたことが何度もあるので、ここから先も歌詞を改定する予定もないし、いくつになっても、ベテランになっても茜には永遠の「世田谷のミラクルガール」で居て欲しいと思うのだ。

 

 この日、18年目の歴史を刻むスフィーダ世田谷FCで「なでしこリーグ100試合」を達成した七人目の戦士、長崎茜。中学生世代からスフィーダで育った選手を「生え抜き」「青い血が流れる戦士」と呼ぶのならば、茜は四人目になる。すぐ隣で一緒にヒロインインタビューを受けた同じくユース出身の片寄優(現在リーグ通算3試合)は何度も「私もいつか茜さんみたいに……」「茜さんのように……」と言っていた。ただ100試合は終着駅ではない。中には「とりあえず目標は100試合」「そろそろ引退を考えているけれどどうせだから節目までは続けよう」そう思っている選手も当然居るだろうけれど、茜にはこの先も走り続けて欲しいし、そんな茜をいつまでも見ていたいと思うのだ。

 

「次は150試合ね!」

 我ながら100試合を達成したばかりの選手に、酷なことを言っただろうかとも思った。けれど茜は、いつもの茜スマイルで元気に返事をしてくれた。

「はいっ!」

 

 スフィーダ世田谷FCでは未だ150試合を達成した選手は居ない。

(※ 先日、田中真理子と森仁美がそれぞれの移籍先で150試合を達成した)

 世田谷のミラクルガールは、我々にまだ見ぬ景色を見せてくれるだろうか。勿論数字だけを目標にするものでもないけれど、欲を言えば、カップ戦優勝、2部リーグ優勝、一部昇格……その先にオマケとして付いて来るのが色んな選手の100試合、150試合であれば良いと思っている。

 

「あかねー あかねー ながーさーきー 世田谷のミラクルガール」 

 

 これからも健やかに、逞しく、怪我に気を付け、どうか一曲でも多く、我々にこのチャントを歌わせて欲しい。かつて永田真耶や田中麻里菜、現キャプテンの原志帆のように、みんなをまとめて引っ張って行くようなタイプではないかもしれない、けれど茜が黙って走り続けて背中を見せることで、後ろから後輩たちがそれに続いて行くのだろうと思う。

 

 

 

 

 

ダイヤモンドオマケダイヤモンド

 

▼声出しサポーター有志からのプレゼント贈呈

 

▼サプライズ大成功!!!

 

 大の仲良しの村上朱音に探りを入れて貰って「茜が欲しいらしいシューズ」を入手しましたw 協力してくれた村上、かっしー、妃芽佳、瑞稀、お仕事の昼休みに職場を抜け出して買って来てくれたMさんありがとうございました♡ みんなに探って貰ったから「誰かが私に何かくれようとしている?」って気付かれてもおかしくないし、むしろバレバレなんじゃないかって思ってたけど、全然茜気付いてなかった!!! 村上の聞き方がめっちゃ上手なのか、茜がとても鈍いのか? 両方? www  

 結果オーライ!!

 喜んで貰えて良かった~!!

 

 あとから、かっしーに聞いた話。

「あかにゃん、今更衣室でめっちゃ喜んで自慢してますよw」

 

 もう~!!! 可愛い、茜! そうやって喜んで自慢して、後輩たちに「私も100試合頑張る~!」って思わせてくれ!!

 

 我ながらクソ長いブログでびっくりしましたw これを書いてる間にもう茜のプレーが観たくて観たくて仕方なくなってきたので早く日曜が来て

欲しいですw