夕食の片づけを終えて、甲板へと出る。
そこには思った通り、ユウの姿があった。
ナギ(部屋にいない時は、必ずここにいるんだよな……)
そんなことを思いながら、気配を消して無防備な後ろ姿に忍び寄る。
ユウ「……」
ナギ(これだけ近づいても…)
ナギ(まだ気づかないのか……?)
無言で海を見つめる後ろ姿にどのように自分の存在を知らせるか考える。
けれど、手の込んだ作戦を頭に巡らせる前に自然に腕がユウを抱きしめていた。
ユウ「!?」
ユウ「あ…ナギさん!」
ナギ「……どれだけ夢中で海を眺めてたんだ?」
ナギ「こんなに近づいても、全然気づかなかっただろ…」
ユウ「ふふ、すみません」
ユウ「なんだか、今日は月が綺麗だな…と思って」
ユウの言葉に、視線を上げてみる。
そこには、大きな満月が顔をのぞかせていた。
ナギ「……ずいぶんでかい月だな」
ユウ「でしょ?」
ユウ「すごく綺麗…」
ナギ「……」
ユウ「だけど……ずっと眺めてると」
ユウ「怖い気もしてくるんです…」
そう言ったユウが、俺の腕の中でくるりと身体を回す。
目の前に現れた大きな瞳が、俺を見つめた。
ナギ「……何が怖いんだ?」
ナギ「ただの満月だろ…」
ユウ「……月って、不思議な力があると思うんです」
ユウ「満ちたり、欠けたりを繰り返す時って」
ユウ「人間の力じゃ、どうすることもできない」
ユウ「大きな力が働いている気がして…」
ナギ「大きな力?」
ユウ「んー……」
ユウ「例えば、すごく仲がいいはずの人とケンカしちゃって」
ユウ「離れ離れになったり……」
ナギ「……」
何かに不安を感じているのか瞳が少し揺れた後、ユウは静かに俯いた。
その姿になぜか深い愛おしさを感じてユウの頬を両手で掴むと、ゆっくりと引き上げた。
ナギ「…悪いが、俺はそういう迷信は信じない」
ナギ「行動や考えは、自分が決めることだ…」
ユウ「そうですよね…」
俺の言葉に一瞬微笑んだユウが再び俺を見据える。
ナギ「……」
次の瞬間、互いに引きつけられるようにして唇が重なった。
ユウ「……んっ」
ナギ「……」
小さな背中に回した腕に力を込めるとユウが小さな声を漏らした。
その小さな声さえも愛おしくて全てを自分の中に閉じ込めてしまいたくなる。
ユウ「……っ」
ユウ「…ナギさん」
ナギ「……」
少し乱れた息を整えるように少しだけ唇を離すと、かすれた声が俺を呼んだ。
耳元に指を這わせるとその声に応えるように少しだけ微笑んだ。
ナギ(お前は何も怖がる必要はない……)
ナギ(たとえ、何が起こっても)
ナギ(俺とお前は、この先もずっと一緒だ……)
腕の中に収めたユウの身体を強く抱きしめると――。
???「宝の噂だぁ?」
???「その情報、確かなんだろうな…」
???「お前のことだ、信用できない」
???「ああ!?」
???「なんだよ、またつっかかる気か!?」
???「確かな情報だって言ってんだろ!?」
シリウス号の中から、いつもの騒がしい声が聞こえてきた。