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ゆうママ@チーズのブログ

自分の記録用にゲームのレポ書いてます♪
のんびり更新しています(^^
ネタばれ注意です

シンさんに連れられて来たのは、港の近くにあるホテルの一室だった。


シン「入れ」


ユウ「……」


開かれたドアから、ゆっくりと中に入る。


するとそこにはハヤテさんとトワくんの姿があった。


トワ「ユウさん!」


トワ「よかった…来てくれたんですね!」


ユウ「トワくん…」


ハヤテ「どーせ、シンが脅して連れて来たんだろ?」


ユウ「ハヤテさんも…」


シン「フン…」


シン「それが見つけられず帰ってきたヤツの言うことか?」


ハヤテ「なんだと!」


シンさんが眉間にシワを寄せ、私の後から部屋に入ってくる。


トワ「ちょ、ちょっと待ってください!」


トワ「今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!」


トワ「ソウシ先生やリュウガ船長にユウさんが見つかった事を」


トワ「伝えに行かないと…」


(ソウシさんやリュウガ船長…?)


(どうして…私、皆に気づかれない様に船を出てきたのに…)


シン「バレないと思ったのか?」


シン「まったくおめでたいヤツだな」


ハヤテ「お前がいなくなった事を、俺たちが気づかないわけねぇじゃねーか」


ユウ「…じゃあ、もしかして皆、私の事を探しに…」


トワ「何か話せない事情があったんですよね?」


トワ「リュウガ船長は遺跡がどうのって言ってましたけど…」


シン「船長の勘は当たってた」


シン「こいつは面倒な呪いとやらにかかっているらしい」


ユウ「シンさん!!」


トワ「呪い…」


トワ「そういう事だったんですね…」


ハヤテ「なるほどな」


ユウ「どうしよう…」


ユウ「このままだと皆も危険な目に合ってしまうかも…」


ハヤテ「危険?」


ハヤテ「そんな事、気にすんな!」


ハヤテ「俺たちは海賊だぞ?」


ハヤテ「仲間ひとりも守れねーでどーすんだ!」


トワ「そうですよ!」


ハヤテ「俺たちが必ずなんとかする」


ハヤテ「それまでお前はこの部屋で大人しくしてろ」


シン「…というわけだ」


シン「面倒も気にならないバカが仲間でよかったな」


シンさんがフッと笑う。


ユウ「皆さん…」


ユウ「ありがとうございます」


シン「俺たちは調べることがある、行くぞ」


ハヤテ「おい、シン待てよ!」


ハヤテ「ユウ、また後でな!」


シンさんを追いかけてハヤテさんが部屋を飛び出して行く。


トワ「後で食事を持ってきますから」


トワ「今はここで待っててくださいね」


ユウ「うん…」


ユウ「ありがとう、トワくん」


トワ「いいえ、僕はユウさんに戻ってきてほしいだけですから」


トワくんは微笑むと、静かにドアを閉めて部屋を出て行った。


(あれからどのくらいの時間が経ったんだろう…)


気がつけば部屋の窓から見える空は、すっかりオレンジ色に染まっていた。


(今も皆は、呪いの正体を探してくれてるんだよね…)


(ここで大人しくしてろ、って言われたけど…)


(何もできない自分自身がもどかしい…)


――コンコンッ


その時、部屋のドアがノックされる。


ソウシ「ユウちゃん」


ユウ「ソウシさん…」


ユウ「すみません、私…」


ソウシ「シンから話は聞いたよ」


ソウシ「シンも詳しくは知らないようだったけど…」


ソウシ「事情があることはわかったからね」


ユウ「……」


(夢での事は、絶対に言えない…)


(言ったら私やナギさんだけじゃなく、皆も呪いを受けてしまうかも…)


(そう言えば…ナギさんはどうしてるんだろう…)


最後に見たナギさんの表情を思い出し胸がギュッと締めつけられる。


ソウシ「…ナギの事が気になるかい?」


ユウ「はい…」


(私がシンさんに呪いの事を聞かれてしまった事で)


(ナギさんがまた危険な目に遭ってるかもしれない…)


(どうしよう、私のせいで…)


ソウシ「大丈夫」


ソウシ「ナギがそんなに弱い男じゃないのは」


ソウシ「ユウちゃんが一番わかっているよね」


ユウ「……!」


ユウ「もしかして、ナギさんにまた何か起こって…」


ソウシ「何もないよ」


ソウシ「だからそんな顔をしないで」


ソウシ「事情があった事は伝えてあるから、ナギも落ち着けば顔を出すと思うよ」


ソウシ「今は、少し動揺してるみたいだけどね」


ユウ「あ…」


(そうだ…私はナギさんにひどい事を言ってしまったんだ…)


(今更会わせる顔なんて…)


――コンコンッ


その時また部屋のドアがノックされる。


トワ「ユウさん、入って大丈夫ですか?」


トワ「食事を持ってきました!」


ユウ「トワくん?」


ユウ「うん、どうぞ」


私の言葉で部屋のドアが開く。


トワくんは大きなバスケットを手に部屋へと入ってきた。


ソウシ「またずいぶんとたくさん持ってきたね」


トワ「はい」


トワ「ナギさんがあれもこれもって詰め込むから」


ユウ「ナギさんが…」


バスケットを部屋に置いたトワくんは、バツが悪そうにソウシさんと目配せをした。


トワ「こんな事、ユウさんに言っていいのかわからないんですが…」


トワ「ナギさん、今までにないくらい落ち込んでて…」


ユウ「……」


トワ「す、すみません…」


トワ「でも、ナギさんを救えるのはユウさんしかいないんです」


トワ「このお弁当だって、ナギさんがユウさんのためだけに」


トワ「作ったもので…」


トワ「ナギさんはずっとユウさんが戻ってくるのを待ってて…」


ソウシ「トワ、そこまでだよ」


ソウシ「これからの事は、全てが片付いた後、ふたりが話し合うことだ」


トワ「わかってます」


トワ「でも…」


ソウシ「トワの気持ちもわかるよ」


ソウシさんはなだめる様にトワくんの肩を叩くと、私に微笑みかける。


ソウシ「ユウちゃん」


ソウシ「相手がどんな強い敵でも、ナギは最後まで諦めないと思うよ」


ソウシ「だからユウちゃんもナギとの事をもう一度よく考えて欲しいな…」


ソウシ「じゃあ、私たちはまた情報を探しに行ってくるね」


ユウ「……」


トワ「ちゃんとご飯も食べてくださいね」


ユウ「…ありがとうございます」


ふたりが部屋をでていくと、私は部屋の壁にもたれかかった。


(もし、呪いが解けたとしても…)


(私はナギさんにあんなひどい事を言ってしまって…)


(きっと、もう、元になんて戻れない…)


そのまま壁にもたれるようにすべり落ちると、身体を丸めうずくまった。


静かになった部屋にひとりうずくまる。


オレンジ色だった空はあっという間に真っ暗になっていた。


ユウ「…ナギさんのご飯、食べたい」


顔をあげ、トワくんの持ってきてくれたバスケットを見つめる。


(別れてほしい…最初から好きじゃなかったなんて…)


(こんなに好きなのに…よく言えたよね…)


ユウ「今だって、ナギさんのこと」


ユウ「世界中で誰よりも」


ユウ「一番大好きなのに……」


真っ暗な部屋の中、抑えていた感情を吐き出すように小さく呟く。


その時――


???「…俺もだ」


ユウ「!!!」


(い、今の声…)


突然聞こえてきた声に、あたりを見渡す。


(誰もいるはずないよね…)


(でも、今、確かに…)


ユウ「ナギ、さん…?」


ナギ「ユウ」


ナギ「俺も、お前が好きだ…」


ユウ「ナギさん…!」


(この声、いったいどこから…?)


(もしかして…)


思わず壁に張りつくように身体を寄せる。


(ナギさん、隣の部屋にいるの…?)


ナギ「呪いが襲おうが何だろうが、俺はお前が好きだ」


ユウ「……!!」


ナギさんの声に、ナギさんの言葉に、一瞬で胸が張り裂けそうになる。


ユウ「ナギさん…」


ナギ「…どうした」


ユウ「……」


ユウ「すみません…私…」


ナギ「……」


ユウ「私…本当はあんな事…」


ユウ「ナギさんの事が好きじゃないなんて」


ユウ「嘘でも言いたくなかった…」


ユウ「でも…」


ナギ「ああ、わかってる…」


ユウ「……」


(ナギさん…)


ナギさんの優しい声に、さらに胸が締めつけられる。


(あんなにひどいことを言ったのに、私を許してくれるの…?)


(こんな私を信じてくれるの…?)


いつの間にか涙が頬を伝っていたことに気づく。


ユウ「ナギさん、私…」


次の瞬間、声が震えていることも忘れて、必死に想いを伝えていた。


ユウ「好きです…」


ユウ「ナギさんが大好きです…」


ナギ「…ユウ」


ユウ「だから、守りたかったんです」


ユウ「たとえ一生会えなくても、生きてて欲しいって思ったから」


ユウ「でも、ナギさんと別れることがこんなに辛いなんて…」


ユウ「わた…し…」


涙がこみ上げ、声が震える。


ナギ「…泣いているのか?」


(やっぱりナギさんと離れたくない…)


(でも、もう一緒にはいられない……)


(誰よりもナギさんのことが大切だから…)


ナギ「ユウ?」


ユウ「……っ」


嗚咽で返事もままならない。


しかし震える声を抑え、なんとか声を出す。


ユウ「…でも…やっぱり…」


ユウ「元には戻れません…」


ユウ「私は…ナギさんを守りたいんです…」


ナギ「……」


目の前の薄い壁が、とてつもなく大きな障害に思える。


いつも抱きしめてくれた人が、すぐ近くにいるのに、もう触れることすらできない。


ナギ「…バカだな」


ナギ「お前は…」


ユウ「え…?」


その時――


ドンッ


ユウ「!!!」


バルコニーに続く窓が、突然大きな音を立てる。


そこには――


ガラス越しに立っているナギさんの姿があった。


ユウ「ナギさん…!」


急いで駆け寄ると、ナギさんは鍵を指差して声をあげた。


ナギ「…ユウ」


ナギ「ここを開けろ」


ユウ「…え?」


ナギ「ここを開けろ」


ユウ「で、でも…」


(この窓を開けたら…きっとナギさんに触れてしまう…)


(そしたらもう、次は何が起こるかわからない…)


ナギ「ユウ?」


ユウ「……」


窓の向こうのナギさんの顔を見上げる。


今すぐにでも包み込まれたい腕の中を思いながらも、首を振り後ずさった。


ユウ「…だ、駄目です」


ユウ「ここを開けたら、今度こそナギさんが…」


ナギ「そんなもん、関係ない」


ナギ「早く開けろ」


ユウ「…駄目です!」


ナギ「……」


ナギさんの目が、静かに私を見据える。


固めたはずの決心が揺らぎそうで、私の方から視線をそらした。


(絶対に開けられない…)


ナギ「…ユウ少し離れてろ」


ドンッ!!


(え……)


ユウ「ナギさん!?」


ナギさんは鎖鎌を構えると、窓に向かって勢いよく投げつけた。


鎖鎌が当たった窓には大きなヒビが入る。


ユウ「ナギさん、待って…!」

ユウ「やめてください!」


ナギ「…諦めろ」


ナギ「お前が今言った言葉が本心だ…」


ユウ「それは…」


ナギ「なのに、こんな所で黙っていられるか」


ナギさんが再び鎖鎌を大きくふりかざそうとする。


ユウ「や…やめて!!」


ナギ「!?」


ヒビの入った窓ガラスに抱きつくようにして張り付いた。


ナギ「ユウ、離れろ!」


ナギ「怪我するだろ…」


ユウ「離れません!」


ユウ「もうやめてください!」


ユウ「私はもう…ナギさんと一緒にはいられないんです!」


ナギ「……」


ユウ「……」


部屋の中が、不自然に静まり返る。


ふと視線を上げると、ナギさんの手から鎖鎌が消えていた。


ナギ「…そこをどけ」


ユウ「…ナギさん?」


ユウ「何を――」


ナギ「いいからどけ!!」


ユウ「……!」


ナギさんの鋭い声に、身体がビクっと反応する。


その迫力に圧倒されるように、私は窓から離れた。


次の瞬間――。


ナギ「……」


ユウ「な…!!」


ガシャン!!!


真っ暗な部屋の中、キラキラと輝くガラスの粒が散らばる。


ナギさんの足が割れたガラスから抜かれると、部屋の中には鍵が開く音だけが響いた。


ナギ「……」


ユウ「…ナギさん?」


部屋の中へと入ってきたナギさんは、一直線に私へ向かって歩いてくる。


ナギ「……」


ナギさんは目の前で立ち止まると、ゆっくりと私に向かって腕を伸ばす。


私はその腕を避けるように、後ずさった。


ナギ「手荒なことをして悪かった…」


ナギ「…怪我してないか?」


ユウ「どうして…?」


ユウ「ナギさんの方こそ、怪我したらどうするんですか?」


ユウ「無茶はしないでください…!」


ナギ「そんなことは、かまわない」


ナギさんはまた一歩ずつ、私との距離を縮める。


そのたびに、私は一歩ずつ後ずさった。


ユウ「こ、来ないで下さい…」


ユウ「私に近づかないで…」


ナギ「…ユウ」


ユウ「やめて…」


ユウ「すぐにここから出てください…」


ユウ「お願いだから…」


ナギ「……」


ユウ「ナギさんを危険な目に遭わせたくないんです」


ユウ「お願いします…」


ナギ「…何が起こってもいい」


ユウ「駄目です!」


ユウ「私はそんなの、嫌です…!」


トンッ


(あ……)


背中が壁に当たり、逃げ場を失う。


――と、すぐ目の前にナギさんが立っていた。


(これ以上は絶対に駄目…)


ナギさんに向かって首を横に振ろうとした、その時――。


フワリと包み込むように、ナギさんが私を抱きしめた。


ナギ「…もう離さない」


ユウ「……」


抱きしめられた腕の力はどんどん強まって、私はナギさんの腕の中へと閉じ込められる。


私たちの間にあった隙間が全て埋まると、ナギさんと私の息づかいが重なった。


ナギ「…お前の事を信じてるって言っただろ」


ユウ「ナギさん…」


見上げると少し照れたように笑うナギさんがいた。


ナギ「…飯は食ったのか?」


ユウ「今、それを気にするんですか?」


ふふっと笑うとナギさんも笑ってくれる。


優しい腕の中、やっと何かが戻ってくるような気がした。


その時――


ガタッ!!


突然、部屋が揺れ始める。


ユウ「ナギさん…!!」


ナギ「…こいつが呪いか」


ギュッと抱きしめられるとさらに揺れは強くなった。


(このままじゃ…部屋ごと潰されてしまうかも…!)


ナギ「逃げるぞ、ユウ!」


ユウ「逃げるって…」


ユウ「逃げても呪いは消えないんですよ!?」


ナギ「わかってる」


ナギ「こうなったら、戦うしかないな」


ナギ「まずは船に戻る」


ナギ「話はそれからだ」


落ちてくる物や倒れてくる家具から私をかばうようにナギさんは私の肩を抱き歩き出した。


シリウス号に着くと、甲板から街中を見る。


ナギ「ホテルは無事みたいだな」


見える限り、ホテルが崩れている様子はない。


外にいる人々も何事もなかったように街中を歩いていた。


(あんなに大きな揺れだったのに…)


(やっぱり私たちだけに…)


私は意識的にナギさんから距離を取る。


ナギ「……」


ユウ「すみません…」


ユウ「でも、今は離れていたほうがいいと思うんです」


ユウ「呪いが何なのか…」


ユウ「もし、わからなくても、もう逃げたりしませんから」


ナギ「…そうか」


ナギさんは少し悲しそうに、でもどこか安心したように微笑んだ。


ナギ「その呪いの事だが…」


ユウ「ナギさんが私に触れると起こるんです」


ユウ「原因はわかりません」


ユウ「でも、さかのぼってみると…」


ナギ「最初に起きた異変は、シンの銃の暴発か…」


ナギ「…その前に何があった?」


ユウ「その前…?」


思わずナギさんと見つめ合う。


ふとナギさんは何かを思いついたようにハッと目を見開いた。


ナギ「もしかしたら、あの遺跡が…」


ナギさんが口を開いたその時――


リュウガ「おう、お前ら戻ってたのか」


ユウ「リュウガ船長!」


見ると、リュウガ船長を先頭に皆が甲板に集まっていた。


トワ「ユウさん、よかったです!」


トワ「無事だったんですね!」


ハヤテ「部屋に行ったら、窓ガラスは割れてるし、ユウはいねーし…」


ハヤテ「心配したんだからな!」


シン「ナギに連れ出されたのか…」


ソウシ「ナギ、大丈夫なのかい?」


ナギ「ああ、たいした事はない」


ナギさんが私を引き寄せようと手を伸ばす。


だけど、それを避ける様に一歩後ろに下がった。


ユウ「今はまだ、何が起こるかわかりません…」


ユウ「ナギさんとは、なるべく離れているようにします」


ユウ「あんな事を言った後で、許してもらえないかもしれませんが…」


ユウ「また、私をシリウス海賊団に入れてください…!」


リュウガ船長をはじめ、皆に頭を下げる。


(皆を危険に巻き込んでしまうかもしれない…)


(それでも、私は皆と一緒にいたい…)


リュウガ「おいおい、何言ってんだ?」


リュウガ「そもそも船を降りるっていうのを許した覚えはねえぞ?」


ハヤテ「お前は俺たちの仲間だろ?」


ソウシ「ユウちゃん」


ソウシ「今、皆で君を迎えに行こうと思ってたんだよ」


トワ「ナギさんに先をこされちゃいましたけどね」


シン「まったく、辛抱のないやつだ」


ナギ「……」


ナギさんは頬を赤らめ顔を背ける。


リュウガ「とにかくだ」


リュウガ「だいたいの事はもう分かっている」


リュウガ「俺たちはとんでもない間違いをしたらしい」


ユウ「間違い、ですか?」


リュウガ「そうだ」


リュウガ「今から航路を変える」


リュウガ「もう一度あの島に行くんだ」


ナギ「やはり、あの遺跡が…」


ナギさんの言葉に皆が頷く。


リュウガ「出港の準備だ!」


リュウガ「お前らさっさと取りかかれ!」


リュウガ「シン!目的地はあの山の遺跡だ!」


シン「はい」


リュウガ船長のかけ声で甲板は慌ただしくなる。


トワ「ユウさん、行きましょう!」


トワ「準備ですよ、準備!」


ユウ「う、うん!」


トワくんに呼ばれて私も動き出す。


気がつけば、皆の中、私も出港の準備に追われていた。


数日後。


シリウス海賊団はあの遺跡の前にいた。


リュウガ「ここだな…」


リュウガ船長は遺跡の前に立つ。


リュウガ「ハヤテ、お前が宝の地図を手に入れた時」


リュウガ「正確には何て言われたんだ?」


ハヤテ「確か…とんでもないもんがあるから絶対に近づくな、だったような…」


ソウシ「やはり船長の勘は当たっているみたいですね」


リュウガ「ああ」


リュウガ「あちこちで情報を集めたが、どこも似たような情報しかなかった」


シン「山の頂上には近づくな」


トワ「とんでもないことになる、とか…」


トワ「眠っているモノを起こすな、とかですよね」


リュウガ「聞いただけだと宝のありかのように聞こえるがな」


リュウガ「じつは違うんじゃねえかと思う」


ユウ「どういうことですか?」


ハヤテ「とんでもないもんってのは宝じゃなく、呪いだったって事だろ?」


ユウ「!!!」


ハヤテさんは大きくため息をつく。


シン「つまり、ハヤテの早とちりでひどい目に遭わせられたわけだ」


ハヤテ「な、何だよ…」


ハヤテ「俺のせいだって言うのかよ…!?」


ナギ「誰のせいとか今はどうでもいい」


ナギ「問題はどうしてユウだけが呪われたって事だ」


ソウシ「もしくはふたりが、だね」


トワ「そうですよね…」


トワ「ここには皆で来たんです」


トワ「呪われるなら、皆一緒のはずですよね」


リュウガ「そこなんだよなあ…」


リュウガ「どうしてふたりだけが呪われたのか…」


リュウガ「これが分からねえと呪いの解きかたもわからねえ」


ナギ「どうして俺たちだけ…」


ナギさんと私は顔を見合わせる。


(あの時、この遺跡に来て、私とナギさんだけがしたこと…?)


???「おやおや、こんな所に人がいるなんて…」


???「ここには近づかない方がいいと聞きませんでしたか?」


背後から声が聞こえ振り向くと、一人の老人が驚いた表情でこちらを見ていた。


ハヤテ「じいさんこそ、こんなとこに何しに来たんだよ」


トワ「ここは危ない場所なんですよね?」


老人「危ない?」


老人「ああ、確かにそうですね…」


老人「悲しみと怒りが眠っている場所ですから」


老人は手に抱えた花束とお供え物を遺跡の前に置く。


ユウ「悲しみと怒り、ですか?」


老人「そうですよ」


老人「その昔…何百年も前に、悲恋の末に死を遂げた男女の墓だという話です」


ナギ「墓…」


老人「私は先祖代々このお墓の墓守をしています」


老人「と言っても、人が入らないように噂を流し」


老人「こうして花を置くだけなんですがね」


ハヤテ「じゃあ、じいさんがあの噂を!?」


トワ「やっぱり宝じゃなかったんですね…」


老人「宝?ああ、お前さんたちは海賊か…」


老人「そりゃあ、残念でしたね……」


老人「ここはただの墓ですよ」


リュウガ「じゃあ呪いってのもじいさんが流した噂なのか?」


老人「呪い!?」


老人「ま、まさか…!」


老人は慌てて遺跡の前にやってくる。


老人「な、なんてことだ…」


老人「石が動いている!」


シン「石…?」


私たちは遺跡の前にあるふたつの石を見る。


(あの石…確か、ハヤテさんとシンさんがケンカして)


(仲裁に入った時にナギさんとふたりでぶつかった…)


ユウ「まさか…」


ナギ「ああ」


ナギさんと声が重なる。


ナギ「その石が呪いに関係あるんだな」


老人「この石はその昔、ふたりの男女をかたどった石像だったという話です」


老人「死してやっと共にいられるようになったとかで…」


老人「ふたつある石像を動かすと、災が起ると伝えられています」


老人「昔この丘を観光スポットにしようとしたみたいなのですが…」


老人「この石を動かすたびに次々と災いが起り断念したとか…」


ソウシ「なるほど…その石を守るために、墓守がいるんですね」


老人は静かに頷く。


トワ「じゃあ、おじいさんは呪いを解く方法も知ってるんですか?」


老人「石を動かした人間…」


老人「つまり呪いのかかった人間が、この石を元に戻せばいい」


ナギ「それだけでいいのか?」


老人「元々、ふたつの魂が一緒にあるための墓だ」


老人「悪い怨念のようなものとは違うんですよ」


トワ「じゃあ、ユウさんとナギさんが石を元に戻せばいいだけなんですね!」


トワくんに背中を押されるように石の前に立つ。


隣にはナギさんが立っていて、ふたりで一緒に石を動かした。


ぴったりと寄り添わせるように石をくっつけると、フワッと何かが軽くなる。


(あ…今…)


ナギさんは私と同じように宙を見つめた後、こちらを見て微笑んだ。


ナギ「とんだ災難だったな」


そっと私の頬にナギさんが触れる。


その手に頬を寄せ、小さく笑った。


ユウ「もう、何も起こりませんね」


ナギ「ああ」


頬を離れた手が私の手を握る。


しっかりと、離さないように繋ぐと、皆の方へ振り返った。


リュウガ「解決したようだな」


ソウシ「そのようですね」


トワ「よかったです…」


トワ「これでもう大丈夫ですね!」


ハヤテ「なんだ…悪かったな」


シン「まったく、お前はいつも面倒事しか起こさないな」


ハヤテ「なっ…!」


ハヤテ「元はといえば、シンが――」


リュウガ「おいおい、また問題起こす気か?」


リュウガ「ったく…船に戻るぞ!」


リュウガ「今夜は宴だ!」


ソウシ「いいですね」


皆の笑顔にホッと胸をなでおろす。


何より、繋がれた手から伝わる温もりに心が熱くなった。


(何も変わらず、ずっと同じ日常が続くと思ってた…)


(でも、本当は違う…)


(毎日、何かが変わって、同じ日なんて来ない)


(何が起こるかわからないからこそ)


(毎日をもっと大切にしなくちゃいけないんだ…)


ナギ「ユウ、戻るぞ」


ユウ「はい!」


笑顔で頷くと私たちはシリウス号へ向かって、山を下り始めた。

キッチンの片づけを終え部屋に戻る。


ベッドに入ったものの、すぐには眠る事ができなかった。


ナギ「どうした」


ナギ「早く寝ろ」


ユウ「はい…」


(何か恐ろしい事が起こっている気がする…)


(やっぱり、今までの事はすべて私に関係あるんじゃ…)


ギュッと身体を丸めると、ギシッとベッドが軋んだ。


そっと近づく気配がすると、大きな手が私の頭を撫でる。


ナギ「…落ち着け」


ユウ「ナギさん、私…」


振り返ると、ベッドで横になりながらナギさんが私の顔を覗く。


ナギ「慣れない山歩きで疲れてるはずだ…」


ナギ「目を閉じれば眠れる」


ユウ「はい…」


寝返りをうつようにナギさんに背を向ける。


その瞬間、背後からぎゅっと抱きしめられた。


ナギ「心配するような事は何もない」


ナギ「眠るまでこうしててやるから、今日は何も考えないで寝ろ」


ユウ「…はい」


ナギさんの腕に包まれながら目を閉じた瞬間――


先程より大きな揺れが船を襲う。


ユウ「きゃっ…!」


ナギ「またか…」


ナギさんは私を守る様に後ろから強く抱きしめた。

転覆しそうなほど船が傾いた時、視界の隅で何かがキラリと光る。


ユウ「ナギさん、危ない!!」


ナギ「!!!」


私がそう叫んだのと同時に、鎖鎌がナギさんめがけて落ちてくる。


落ちてくる物から私を守りつつ、ナギさんは難なく鎖鎌を避けた。


ナギ「…悪い」


ナギ「俺が壁なんかに掛けたせいだ」


ズサッという鈍い音と一緒に、鎖鎌がベッドに突き刺さる。


ユウ「ナギさん、ケガは…!?」


ナギ「大丈夫だ」


ナギ「本当に今日は何なんだ…」


私から手を離し、ナギさんは鎖鎌をベッドから抜き取ると、棚に片付けた。


(…やっぱり何かがおかしい)


(まるで、私がナギさんに触れると、おかしな事が起こっているみたい…)

(でも、そんなまさか…)


ナギ「ユウ?」


ナギ「どうしたんだ?」


ユウ「すみません、私…」


ユウ「すぐに寝ますから、ナギさんは先に寝ててください」


私はベッドから出ようと足を踏み出す。


ナギ「待て、お前は寝てろ」


ユウ「え?」


ナギ「何か持ってきてやる」


そう言うとナギさんは部屋を出て行った。


ひとりきりになると、一気に不安に襲われる。

私はベッドに横になると、心を落ち着かせようと目を閉じた。


――ピチャンッ。


どこかで水音がする。


(これは…夢の中?)


視界もあやふやで、どこか遠くからしか音が聞こえない。


???「お前たちのせいだ…お前たちがまた我らを分かつ…」


確かに聞こえた声は、男とも女とも判別できなかった。


ユウ「誰…?」


ユウ「私たちのせい、ってどういう事…?」


???「やっと一緒になれた…」


???「やっと共にあることが許され、永い時を共に過ごすと誓ったのに…」

???「それをお前たちが……絶対に許さない」


ユウ「何を…」


???「お前には呪いを…この報いを受けてもらう」


ユウ「呪い…?」


その言葉に不安を感じる。


???「大切なものに触れれば、その者に不幸を与える呪いだ」


ユウ「大切な、人…」


(私の大切な人…)


(ナギさん…?そうだ、ナギさんは私のせいでケガを…)


???「そして、やがては命さえも奪う強い呪いをかけてやる」


ユウ「命…!?」


ユウ「そんな…やめてください!」

ユウ「私が悪いなら、私を狙えばいいじゃないですか!」


???「本当の悲しみは、大切なものを目の前で失うこと…」


???「お前にも同じ苦しみを与えてやる」


ユウ「同じ苦しみ…」


???「呪いの事を誰かに言った場合も、その者の命はないと思え」


???「わかったな」


その言葉を最後に声が段々離れていく。


ユウ「待って!」


ユウ「待ってください!」


手を伸ばしそう叫んだ瞬間――


ユウ「っ…!!」


目の前に広がるのは薄暗い部屋だった。


(今のは…夢?)


確める様に辺りを見渡していると、部屋のドアが開く。


見ると、温かそうに湯気を立てているカップを手にしたナギさんが入ってきた。


ナギ「…待たせたな」


ユウ「ナギさん…」


(そうだ…ナギさんに待ってろ、って言われて…)


(私、そのまま寝てしまったんだ…)

(でも、何だろう…)


(あの声も、呪いの事も…すごくはっきりと覚えてる)


ナギ「…飲め」


ナギ「落ち着く」


差し出されたカップを受け取ろうとして手を引っ込める。


(大切な人に触れた時…)


(その人に不幸を与える…)


ユウ「…ありがとうございます」


ユウ「テーブルに置いておいてくれますか?」


ナギ「…ああ」


ユウ「あとで飲みますから…」


ユウ「ナギさんはもう寝てください」


カップをテーブルに置いて、不思議そうな顔をするナギさんに微笑む。


ユウ「少し、起きててもいいですか?」


ユウ「ナギさんの邪魔にならないようにしますから」


ナギ「……」


ユウ「ナギさん?」


ナギさんはじっと私の顔を見つめる。


そして、そっと手を伸ばし、いつもの様に私の頭に手を置こうとした。


???「大切な者に触れれば、その者に不幸を与える呪いだ」


???「やがては命さえも奪う強い呪いをかけてやる」


ユウ「っ…!」


パシッ!!


頭に先程の言葉が浮かび、近づいた手を思わず払う。


ユウ「あ…」


ナギ「……」


ユウ「ご、ごめんなさい…」


ナギさんは驚きながら、今度は少し悲しそうに私を見た。


ナギ「…大丈夫か?」


ナギ「何か…」


ユウ「大丈夫です!」


ユウ「疲れたんですよ、きっと!」

ユウ「やっぱり、私も寝ようかな…」

ユウ「あ、ホットミルクいただきますね」


テーブルに駆け寄ると、温められたホットミルクを飲む。


(おいしい…ナギさんの味だ…)


嬉しさで涙が滲む。


(これ以上、ナギさんに心配かけちゃダメだ…)


ユウ「やっぱりナギさんのホットミルクは最高ですね!」


ユウ「これでゆっくり眠れそうです」


私は勢いよくホットミルクを飲み干すと笑顔を向ける。


ナギ「…そうか」


ユウ「はい!」


ユウ「ナギさんも早く寝てください」


ユウ「明日、起きたら傷がよくなってるといいですね」


一緒にベッドの中に入ると、なるべくナギさんから離れるように横になる。


ユウ「おやすみなさい」


ナギ「……」


背中越しにナギさんの視線を感じる。


不安に押しつぶされそうになりながら、ナギさんに抱きつきたいのを必死に堪えた。


(私が触れたらナギさんに不幸が起こる…)


(あの夢きっとただの夢じゃない…)


(シンさんの銃の暴発も、ソウシさんの薬も…)


(やっぱり、私が関係してたんだ…)


痛々しいナギさんの頬の傷を思い出す。


(船に戻ってからも、私がナギさんに触れるたびに船が揺れて…)


(最初は食器、次は鎖鎌…もう少しでナギさんの命が危なかった)


(全部、私に呪いがかかってるせいだったんだ…)


ベッドの中でギュッと身体を丸める。


ナギ「…ユウ、起きてるか?」


突然、聞こえた声にドキッとする。


ユウ「……」


ナギ「…もう、寝たのか?」


ナギ「本当にお前はホットミルクが好きだな…」


小さく笑うナギさんの声が胸を締め付ける。


ナギ「…お前のせいじゃない」


ナギ「たとえ、お前に関係してたとしても、俺が必ず解決してやる」


ナギ「だから、心配するな」


(ナギさん…)


私は唇を噛み、泣き出しそうになるのを必死で堪えた。


波の音が聞こえ、その合間に小さな寝息が聞こえ始めると


ベッドから身体を起こした。


ふと、隣で眠るナギさんを見つめる。


ユウ「…好きです」


ユウ「ナギさんの事が本当に…」


(これからもずっとナギさんと一緒にいたかった…)


(でも、私が側にいる事でナギさんを不幸にしてしまう…)


(それどころか、命まで奪ってしまうかも…)


ユウ「だったら、私が取る道はひとつですよね…」


ユウ「私にもナギさんを守らせてください…」


今すぐにでも抱きつきたい気持ちを抑え、最後のキスさえも許されないことに胸が締め付けられた。


(せめて、忘れないように目に焼き付けておこう…)


(この部屋で、一緒に過ごしたナギさんとの日々を…)


ユウ「…ナギさん、さようなら」


小さく呟くと、溢れた涙が次から次へと流れていった。


翌朝。


シリウス号はとある賑やかな島に到着した。


リュウガ「よし、食糧や水の調達がてら、この辺で宝の情報でも集めとくか」


トワ「それにしても、ずいぶん賑やかな街ですねー!」


ソウシ「貿易で有名な島らしいからね」


ソウシ「品物はもちろん、情報も豊富だと思うよ」


ハヤテ「よし!」


ハヤテ「また新しい情報でもつかんでくるか!」


シン「お前の情報はあてにならないからな」


シン「まだユウの情報の方がマシなんじゃないのか?」


トワ「ナギさんもついてますしね」


ナギ「当たり前だ」


皆が楽しそうに会話をする中、私はいつ話を切り出そうかと考え込んでいた。


リュウガ「ん?」


リュウガ「どうした、ユウ」


リュウガ船長に呼ばれてハッと顔を上げる。


私は一歩下がった場所から皆の顔を見つめた。


(何を迷っているんだろう…)


(もう決めたことなのだから、ちゃんと皆に伝えなくちゃ…!)


ユウ「リュウガ船長、私…」


リュウガ「ん?」


ユウ「…シリウス号を降りようと思います」


ナギ「!!!」


ハヤテ「おい、マジかよ!?」


トワ「ユウさん、急にどうしたんですか!?」


ソウシ「何か理由があるのかい?」


リュウガ「お前ら静かにしろ!」


ザワザワとする皆を落ち着かせる様に、リュウガ船長が一喝する。


リュウガ「…ユウ、どういうことだ?」


ユウ「言葉のままです」


ユウ「ここで私は船を降りようと思います」


真っ直ぐにリュウガ船長を見つめる。


リュウガ「また急だな」


ユウ「すみません…」


ユウ「でも、ずっと考えていたことなんです」


ハヤテ「おい、そんな勝手が許されると思ってんのかよ!」


ハヤテ「それに…」


ハヤテ「ナギ兄はどうするんだよ!」


ユウ「ナギさんは!」


ゆっくりとナギさんを見つめ、そして目を伏せた。


ユウ「ナギさんはこの船での生活がありますから…」


ユウ「私ひとりで行きます」


ユウ「別れる覚悟を決めたから、こうしてお願いしているんです」


ソウシ「本気かい?」


ソウシ「こんな誰も知らない島で降りるなんて…」


シン「……」


トワ「ユウさん、考え直してください」


トワ「仕事が大変とかなら、僕がもっと頑張りますんで…」


ユウ「ありがとうトワくん」


ユウ「でも、もう決めたことだから…」


ユウ「ナギさんも…今まで隠していてごめんなさい」


ナギ「…本気なのか?」


ユウ「はい」


ユウ「今まで色々ご迷惑をおかけしました」


ナギ「……」


皆の目が信じられないというように見開いている。


だけど私はリュウガ船長に頭を下げ、強引に船から降りることを決めた。


荷物をまとめ、船を降りたのは昼過ぎになってからだった。


(今夜、宴を開くって言ってくれたのに)


(勝手にいなくなって皆怒るだろうな…)


(でも、今みんなの顔を見たら気持ちが揺らいでしまいそう…)


最低限の金貨と荷物をつめたカバンを手に街を歩く。


通りには商店が連なり、酒場や宿も豊富だった。


(ここならすぐに仕事も見つかりそう…)


(大丈夫、きっと頑張れる…)


一度も港を振り向かずに歩いていると、突然後ろから腕をつかまれる。


振り返ると悲しそうな表情のナギさんが立っていた。


ユウ「…ナギ、さん?」


ナギ「…なぜだ?」


ユウ「あ、あの…」


ユウ「離してください…!」


つかまれた手を何度も離そうと引っ張る。


ナギ「本気なのか?」


ナギ「本気で船を降りる気なのか!?」


ユウ「……」


ナギ「どうして黙ってる…」


ナギ「やっぱり何か理由があるんだな」


ユウ「な、何もありません」


ユウ「早く手を…」


(そうだ、私がナギさんに触れると…)


そう思った瞬間――


頭上の窓から落ちてきた花瓶が地面に叩きつけられ、大きな音を立てて割れる。


ユウ「……!」


ナギ「な、何だ…」


ナギ「花瓶…?」


(今の…もう少しずれていたらナギさんに当たってた…)


(やっぱり、呪いは本物なんだ…!)


緩んだ手からすかさず腕を引くと、ナギさんから離れるように後ずさる。


ナギ「ユウ…?」


ユウ「こ、こないでください…」


ナギ「待て」


ナギ「まだ話は終わってない」


(これ以上ナギさんと話していたら、呪いの事も全て話してしまいそう…)


(でも、呪いの事は誰にも言えない…)


(私ができるのは……)


ユウ「…私と別れてください」


ナギ「……!」


ユウ「私は本気です」


ユウ「もう船を降りて普通の生活がしたいんです」


ユウ「今思えば、私が海賊になるなんて最初から無謀だったんですよ」


ユウ「朝から晩まで働いて、毎日クタクタで…」


ユウ「もう、うんざりなんです」


(皆との毎日はすごく楽しくて…)


(もっと強くなりたい、もっと皆の役に立ちたいって思ってた…)


ユウ「船を降りたら、もうナギさんと会うこともないですね…」


ユウ「今までありがとうございました」


私は精一杯の笑顔をナギさんに向けた。


しかし、ナギさんは今までの話を聞いていなかったように微笑む。


ナギ「俺は、お前が好きだ」


ナギ「ずっと…お前もそうだと思っていた」


ナギ「何か、理由があるんだろ?」


私は首を振る。


涙がにじんでいるのを見られたくなくて、ナギさんに背を向けた。


ユウ「理由なんてありません」


ユウ「それに私は好きじゃなかった…」


ユウ「最初からナギさんの事を好きじゃなかったんです」


ナギ「な、にを……」


ナギさんの声が曇るのがわかる。


ショックを受けている顔が見なくてもわかるほど、声が痛みを含んでいた。


ナギ「本当、なのか…?」


小さく聞こえてくる声に私は精一杯の力をふりしぼって頷く。


ユウ「はい」


ユウ「だから、もう追ってこないでください」


最後に、と振り返る。


そこには傷ついた表情のナギさんが立っていた。


ユウ「さようなら…」


今にもナギさんに抱きつきたいのを堪えるように、背を向け歩き出す。


ナギ「ユウ…」


ナギ「俺は信じてる」


(ナギさん…ごめんなさい…)


通りを曲がり、ナギさんの姿が見えないだろうところまできて立ち止まる。


後ろを振り返り、そこにもう誰も追いかけてこないことを確かめると、とめどなく涙が溢れた。


賑やかな街を歩き、時間がいくら経っても涙が止まることはなかった。


(まさか、こんな事になるなんて…)


(数日前まではずっと一緒にいられると思ってたのに…)


ユウ「でも、これでいいんだ…」


ユウ「これでナギさんを不幸が襲うことはなくなる…」


立ち止まり、一歩も動けなくなった足を見下ろす。


涙が溢れポタポタと地面に落ちるのを止めることができなかった。


(ナギさんを守る方法がこれしかないってわかってる…)


(わかってるけど…)


ユウ「大切な人に触れると不幸が襲うなんて…」


ユウ「そんな呪い、どうして私が…」

ユウ「なんで私なの…!」


シン「ひどい顔だな」


ユウ「えっ!」


聞きなれた声にふと顔を上げる。


目の前に立っていたのは、不機嫌そうな顔をしたシンさんだった。


ユウ「シンさん…」


シン「急に生意気な事を言い出すから何事かと思ったが…」


シン「やはり、そういう事か」


ユウ「そういう事って…あ…」


思わず口を覆い隠す。


(まさか、今のを聞いてたんじゃ…)


シン「おおかた、他言すれば災いが大きくなるとでも言われたんだろう」


ユウ「ほ、放っておいてください」


ユウ「私は船を降りたんです」


シン「そんなひどい顔をしてよく言うな」


シン「まぁ、いい」


シン「ついて来い」


シンさんはそう言い歩き出す。


しかし、その場に立ちつくしている私を見ると、眉間に皺を寄せ立ち止まった。


シン「これ以上、面倒をかけさせるな」


シン「今すぐ荷物のように抱えられたくなかったらさっさと歩け」


ユウ「は、はい!」


私は訳もわからず、シンさんの後をついていった。

険しい山道を登り始めて、もう2時間以上はたっていた。


見上げると、リュウガ船長を先頭に先を歩く皆の姿が見える。


(あとどれくらいで着くんだろう…)


(こんな所に宝があるって、本当なのかな?)


(確かハヤテさんが前に立ち寄った島で)


(噂を聞いたって言ってたけど…)


ユウ「きゃっ…!」


踏んだ地面の小石が滑り、そのまま転んでしまいそうになる。


すると、すかさず伸びてきた手が私の腕をつかんだ。


ナギ「…大丈夫か」


ユウ「は、はい!」


ユウ「すみません、ありがとうございます」


ナギさんの手に引っ張られ、上へと引き上げられる。


(これで何度目だろう…)


(ナギさんに迷惑をかけない様にしっかりしなくちゃ…)


体を立て直すと、ナギさんから手を離そうとする。


しかし、ナギさんは私の手をしっかりつかんだまま、ゆっくりと山道を登り始めた。


ユウ「あ、あの、ナギさん…」


ユウ「私ならもう大丈夫です」


ユウ「ひとりで…」


ハヤテ「ナギ兄、ひとりで歩けるってよ」


少し先で休憩していたハヤテさんが、大きく伸びをしながらこちらを見る。


ナギ「……」


シン「放っておけ」


シン「どうせナギは手を離さないだろうからな」


ソウシ「ユウちゃんが転ばないか」


ソウシ「心配そうに何度も立ち止まってたもんね」


ユウ「え…」


手を引くナギさんの顔を見る。


リュウガ「男が女を守るのは当然だ」


リュウガ「だがな~…」


リュウガ「ナギ、こうも甘いとユウのためにならねえぞ?」


トワ「でも、転んでケガをしたら大変ですし…」


シン「フン、ユウそのままナギに手を引いてもらえ」


シン「お前に合わせていたら、いつまでたっても目的地に着かない」


ソウシ「それが一番いいよ」


ソウシ「ナギも安心だろうしね」


ハヤテ「ほんと、ナギ兄はユウに甘いよなー」


シン「ハヤテのは嫉妬か?」


トワ「ま、まさか…ハヤテさんユウさんのこと…」


ハヤテ「ち、ちげーよ!」


ハヤテ「だいたい、女なんて邪魔なだけだろ!」


ハヤテ「今だってナギ兄は面倒をしょいこんでるようなもんじゃねーか」


ソウシ「フフ、それは違うよ」


ソウシ「きっとナギは面倒なんて思ってないだろうしね」


リュウガ「ユウのことが大事でしかたねえんだよな」


シン「…くだらない」


みんなの視線に顔が熱くなる。


ナギ「……」


キュッと握る手に力が込められるのを感じ、ナギさんを見上げた。


ナギ「立ち止まるな、動けなくなるぞ」


ユウ「は、はい」


ナギ「休憩しないで登る」


ナギ「きつかったら言え」


ナギさんはそう言うと、休憩で立ち止まっていた皆の前を通りすぎた。


トワ「えっ、ユウさんとナギさんは休憩をしないんですか!?」


ソウシ「今、歩くのをやめると次に歩き出す時がキツイからね」


ソウシ「ナギは登りきってしまう気なんだよ」


ハヤテ「だから、そういうのが甘いって言ってんだよ」


リュウガ「がっはっはー!」


リュウガ「これが愛だ!」


リュウガ「ハヤテにはまだわかんねーか!」


シン「…ハヤテはガキだからな」


ハヤテ「ば、馬鹿にすんなよ!」


ハヤテ「早く俺たちも行こうぜ!」


ハヤテ「宝を手に入れる前に日が暮れちまうだろ!」


ハヤテさんは勢いよく山道を駆け上がり、すぐに私たちを追い抜いていってしまう。


その間も、ナギさんは私の手を引き黙々と山道を登って行った。


(リュウガ船長の言うように…)


(ナギさんの優しさに甘える事が、私のためにならないのはわかってる…)


(でも…この手を拒むなんてできない)


ナギさんと繋がれた手を見つめる。


繋いだ手からナギさんの優しさが伝わってくるような気がした。


険しい山道を抜けると、目の前に小さな遺跡のようなものが現れた。


建物は壊れ、とても宝が隠されているようには見えない。


リュウガ「神殿でもあれば、話は別だが…」


リュウガ「こりゃあ、宝がありそうな雰囲気じゃねえな」


ユウ「何かの遺跡でしょうか?」


ユウ「この大きなふたつの石も、何かの像みたいですし…」


ソウシ「文化的に貴重な建物なのかもしれませんよ」


リュウガ「だとしても、こいつはなあ…」


トワ「ええっ!」


トワ「もしかして、ここまできて何も収穫なしですか!?」


ハヤテ「な、なんだよ」


ハヤテ「俺はちゃんと聞いたぞ!」


ハヤテ「この島の山の頂上にはとんでもないもんがあるって!」


ハヤテ「ちゃんと宝の地図も手に入れただろ!」


ナギ「確かにハヤテは地図を持っていたな」


(そうだよね…)


(ハヤテさんの地図があったから、私たちはここへ来れたんだし…)


ハヤテ「島の奴らが言ってたんだ」


ハヤテ「とんでもないもんがあるから近づくなって…」


シン「とんでもないもん、か…」


シン「お前にはこれが」


シン「そのとんでもないもんに見えるのか?」


シンさんは不機嫌そうにハヤテさんをにらむ。


ハヤテ「何だよ、お前だって地図を見て乗り気だったじゃねーか!」


シン「それはお前が確かな情報だと言ったからだ」


ハヤテ「確かな情報だったんだ」


ハヤテ「島じゃ有名な話みたいだったからな!」


シン「つまり、何の確証もなく時間を無駄にさせたわけか」


トワ「ちょ、ちょっとシンさんもハヤテさんもやめてくださいよ」


ソウシ「トワの言う通りだよ」


ソウシ「ふたりとも、少し落ち着くんだ」


シン「俺は落ち着いてる」


ハヤテ「じゃあ、全部俺が悪いっていうのかよ!?」


ナギ「おい、いい加減にしろ」


ナギ「言い争ってても仕方ないだろ」


ユウ「そ、そうですよ」


ユウ「宝なら、また探せばいいんですし…」


ユウ「今日はもう船に戻って…」


ハヤテ「これは俺とシンの問題だ」


ハヤテ「ユウは黙ってろ…!」


ふたりを止めようと間に割り込んだ私の体を、ハヤテさんが押しのける。


ユウ「え?」


ハヤテ「あ…」


軽く押されただけなのに、私の体はバランスを崩してよろめいた。


ナギ「ユウ!!」


トワ「ユウさん!!」


手を伸ばすトワくんが見える。


だけどそれよりも早く、ナギさんが私をかばうように抱き寄せると、そのまま遺跡に倒れ込んだ。


低く嫌な音がしたと思うと、小さく呻くナギさんと一緒に地面に倒れ込む。


ユウ「ナ、ナギさん!?」


私は慌てて体を起こす。


ソウシ「ナギ、ユウちゃん、大丈夫かい!?」


ユウ「私は平気です」


ユウ「でも、ナギさんが…」


ナギ「少し背中を打っただけだから、大丈夫だ」


(良かった…ナギさんも大きなケガはしてないみたい…)


手を差し出すと、その手をナギさんがつかむ。


ユウ「すみません、私のせいで…」


ナギ「お前のせいじゃない」


リュウガ「まったく、シンもハヤテも反省しろ」


リュウガ「宝が空振りなのはしょうがないことだ」


リュウガ「島の連中がとんでもないもんがあるから近づくなって言ってたのは」


リュウガ「確かなんだろ?」


リュウガ「ハヤテだけの責任じゃねえ」


リュウガ「船長として、俺の責任だ」


シン「船長!」


シン「それは…」


リュウガ「行き先を決めるのは俺だ」


リュウガ船長の言葉に皆が黙り込む。


リュウガ「まあ、こういう日もある」


リュウガ「今までだってあっただろ?」


リュウガ「次の宝を探せばいいじゃねえか!」


トワ「そうですよ!」


トワ「宝は世界中にあるんですからね」


ハヤテ「…俺も少し言いすぎた」


ハヤテ「シン、悪かった」


ハヤテさんがシンさんを見る。


シン「…確かに、島の連中の話を聞いて期待しすぎた俺も悪い」


ソウシ「よかったね」


ソウシ「これで解決だ」


リュウガ「さーて、船に戻るか」


リュウガ船長が来た道を戻ろうとする。


トワ「それにしても、とんでもないものって何だったんですかね?」


ハヤテ「ったく、そうだよなー」


ハヤテ「とんでもないもんがあるから近づくなって」


ハヤテ「もったいつけやがって…」


ハヤテ「ただの石しかねぇじゃねーか」


ソウシ「…あれ?」


ソウシ「ナギ、ぶつけた所は本当に大丈夫かい?」


ナギ「はい、大丈夫ですが…」


ナギさんは立ち上がり首をかしげる。


ソウシ「ほら、石が動いてるから…」


見るとナギさんがぶつかった医師は、元あった場所から大きくずれていた。


(転んだ時に聞こえた音は、石が動いた音だったんだ…)


シン「ケガがないならいい」


シン「日が暮れる前に船に戻るぞ」


シン「ユウ、さっさと立て」


ユウ「は、はい!」


ナギ「…ほら」


ナギさんに差し出された手を見つめ、その手をつかんだその時――


ズキューンッ!!


大きな銃声と共に、目の前を何かが勢いよく通り抜けた。


ナギ「…っ!」


ユウ「ナギさん!?」


見るとナギさんの頬にツツッと赤い線が浮き上がっている。


ナギ「…シン、どういうことだ?」


振り向くとシンさんの腰にある銃からは煙があがっていた。


(シンさんがナギさんを撃つ訳はないし…)


(銃が勝手に動いたって事!?)


ナギ「…俺を殺す気か?」


シン「どういうことだ…」


シン「俺は撃ってない」


シンさんは驚いた表情で腰の銃を手に取り見つめていた。


ナギさんの頬には銃弾がかすった傷とヤケドの痕が残されていた。


ソウシ「これは…」


ソウシ「痛むかい?」


ソウシさんがナギさんの傷に触れる。


ナギ「…いえ、平気です」


ソウシ「我慢強いのはいい事だけど、少しズレていたら大変な事になっていたよ」


ユウ「でも、良かった…」


ユウ「かすっただけなんですよね?」


ナギ「ああ…」


ナギ「心配するな」


トワ「でも、何で急に銃が暴発なんて…」


ハヤテ「シン、ちゃんと銃の手入れしてんのか?」


シン「ああ…」


シンさんはナギさんに近づくと、静かに目を伏せた。


(シンさんだってすごく驚いてた…)


(自分の銃で仲間にケガをさせてしまうなんて)


(きっとすごく辛いはずだよね…)


シン「ナギ…」


シン「悪かったな」


ナギ「気にするな…」


ナギ「単なる事故だ」


ふたりは目を合わせると小さく頷く。


リュウガ「ユウの言う通り、かすった程度で済んでよかった」


リュウガ「だが、銃のヤケドは後から痛むぞ」


リュウガ「ソウシ、すぐに手当てできるか?」


ソウシ「はい、持っている薬と綺麗な水があれば…」


トワ「水なら、ここに来る途中に川がありましたよ」


リュウガ「よし!」


リュウガ「しばらくここで休憩だ」


リュウガ「ソウシとユウでナギの手当を」


リュウガ「ハヤテとトワはその辺で休んでろ」


リュウガ「シン、お前は俺と遺跡に本当に宝がないか探すぞ」


シン「…はい」


シンさんはナギさんをもう一度見てから、リュウガ船長についていった。


ソウシ「じゃあ、私は水をくんでくるよ」


ソウシ「ユウちゃんはナギを頼むね」


ユウ「はい」


ナギ「ドクターすまない…」


ソウシ「私に平気な顔をする必要はないよ」


ソウシ「その傷は痛むだろう?」


ナギ「……」


黙り込むナギさんにソウシさんがクスッと笑う。


ソウシ「じゃあ、ユウちゃん」


ソウシ「私が戻るまでに、この薬をナギの傷につけておいてくれるかい?」


ソウシさんは薬袋から緑色のビンを取り出す。


ソウシ「少し沁みるかもしれないけど」


ソウシ「消毒はきちんとしておかないといけないからね」


ユウ「はい、わかりました」


ソウシ「じゃあ、頼んだよ」


ソウシさんはそう言うと川の方へ下りて行った。


ユウ「ナギさん、薬を塗りますね」


ナギ「…ああ、頼む」


私はソウシさんに言われた通り、緑色の薬ビンのフタを開けると、薬を布にしみこませる。


赤く腫れたヤケドを見つめると、そっと頬に触れた。


ナギ「……っ!」


ユウ「あ、すみません!」


ユウ「痛みますよね…」


ナギ「大丈夫だ」


ナギ「さっさと消毒しろ」


ユウ「はい…」


(ソウシさんの言うとおり、あと少しズレてたらナギさんは…)


(事故だってわかってるのに)


(すごく不安な気持ちになるのはどうしてだろう…)


今度はそっと、傷口に薬を塗りこんでいく。


ユウ「すみません」


ユウ「すぐに終わらせますから、我慢してくださいね」


ナギ「…ああ」


(もう少し、薬をぬったほうがいいかな…)


そう思い薬ビンに手を伸ばした時――


ソウシ「ユウちゃん、待って!!」


大きな物音と一緒にソウシさんの声が響く。


あまりの声の大きさに、近くで休憩していたハヤテさんやトワくんも駆け寄ってきた。


ハヤテ「ソウシさん、どうしたんすか!?」


トワ「一体、何が…!」


手に持っていた水筒を落としたまま、ソウシさんはこちらへ走ってくる。


すると、ナギさんの頬を持っていた布で慌ててぬぐった。


ナギ「ドクター…?」


ナギ「……っ!!」


ソウシ「少し我慢するんだ」


ソウシ「この量なら…」


ソウシさんはナギさんから手を離すと、地面に落ちた薬ビンを手に取り、匂いをかぐように鼻を近づける。


ソウシ「この薬は…」


ソウシ「やはり…ジキジキ草の香りがすると思ったら……」


ユウ「ジキジキ草…!?」


ユウ「それって、あの毒草ですか!?」


手に持った布から、さっきまでしなかった強い匂いがする。


(どうして…)


(さっきまで、何の匂いもしなかったのに…)


ソウシ「ユウちゃん、すぐにナギの頬を水で洗い流して」


ソウシ「この薬は、使い方次第では劇薬になる恐ろしいものなんだ」


ユウ「は、はいっ!!」


(そんな…私、もう少しでナギさんを…!?)


慌ててソウシさんが持っていた水筒を拾うとナギさんの頬にかけた。


ソウシ「大丈夫」


ソウシ「まだ時間がたってないから違う薬で中和できるよ」


ソウシさんは薬袋を開けると、中から青い薬ビンを手に取った。


急いで傷を洗い、代わりの薬を塗る。


ユウ「すみません!私が…」


ソウシ「それは、違うよ」


ソウシ「確かに私が渡したのは消毒薬だった」


ソウシ「中身を確認しなかった私の責任だ」


ユウ「でも…」


ソウシさんはそこで考え込む。


ソウシ「ジキジキ草の薬は紫のビンだったはず…」


ソウシ「どうして中身が入れ替わって……」


(中身が入れ替わってた…?)


何故か胸騒ぎがした。


心を落ち着かせようと手をギュッと握り締めても、身体の震えが止まらない。


ナギ「大事にならなかったんだ、気にしないでいい」


ユウ「ナギさん…」


ナギさんは心配そうに私の顔を覗きこむ。


ハヤテ「さっきから訳わかんねー事ばっかだな…」


トワ「そうですよね…」


トワ「シンさんの銃が暴発するなんて事、今までありませんでしたし…」


トワ「ましてや、ソウシさんの薬の入れ間違いなんて……」


ソウシ「…船長たちを呼んで、早くここを出よう」


ソウシ「何か、よくない空気を感じるから」


ハヤテ「俺、船長を呼んでくる」


ハヤテ「宝もなかったんだ、こんな縁起の悪い島からさっさと出ようぜ」


トワ「あ、待ってください!」


走り出したハヤテさんをトワくんが追いかける。


(最初はシンさんの銃が暴発して…)


(次はソウシさんの薬の中身が入れ替わって…)


(その対象はいつもナギさん…そして、私…?)


ナギ「ユウ?」


ユウ「…は、はい?」


見ると、ナギさんが目の前に立っていた。


ナギ「みんな先に行った」


ナギ「歩けるか?」


ユウ「はい…」


ナギ「日が暮れないうちに戻るぞ」


私はゆっくりと歩き出したナギさんを追いかける。


(今までの事は全て、私がナギさんに触れた時に起こってる?)


(…まさか、ね…)


私は自分の考えを振り払うように急いで山を下りはじめた。


シリウス号に戻ると船はすぐに島を出港した。


食堂にはいつもよりも重い空気が漂っている。


リュウガ「ぷはぁ~!」


リュウガ「酒でも飲まなきゃやってらんねえな」


リュウガ「シン、そんなシケた面してねえで、飲め!」


リュウガ船長だけはきわめて明るく、いつも通りに振るまっていた。


ハヤテ「俺、考えたんだけど…」


ハヤテ「シン、お前が銃の扱いを間違えるわけねーし」


ハヤテ「ソウシさんが薬を入れ間違えるとか」


ハヤテ「ぜってーあり得ないだろ」


ハヤテ「これは誰かが仕組んだ事としか…」


トワ「でも、僕たちずっと船に乗ってましたし…」


トワ「誰かが侵入した形跡なんてありませんでしたよ」


ソウシ「ひょっとすると…」


ソウシ「…人の仕業ではないかもしれないね」


リュウガ「とんでもないもんがあるから近づくな、か」


リュウガ「案外、呪いでもあったりしてな!」


ハヤテ「せ、船長、何言ってんすか!」


ハヤテ「そんな事あるはず…」


呪いという言葉を聞いて皆の動きが一瞬止まる。


ナギ「…だとしても、もう島を出たんだ」


ナギ「大丈夫だろう」


ナギ「ユウ、食ったら後片づけするぞ」


ユウ「あ、はい!」


席を立ったナギさんを追いかけて、私も厨房へと急いだ。


厨房へ向かうと、ナギさんは明日の仕込みを始めていた。


ナギさんの隣に立つと、私は後片づけを始める。


ユウ「もう傷は大丈夫ですか?」


チラリとナギさんの顔を見上げると、まだ赤く腫れている頬の傷を見つめた。


ナギ「…大したことない」


ユウ「もし痛むようなら言ってください」


ユウ「私、ソウシさんから薬をもらってあるんです」


ナギ「心配すんな」


ナギ「もう平気だ」


ユウ「はい…」


ユウ「でも、傷が深くなくてよかったです」


ユウ「もう少し深かったら熱が出るそうなので…」


(あの時、私の塗った薬が正しいものだったら)


(もう少し治りが早かっただろうつてソウシさんが言ってた…)


(ナギさんは私のせいじゃないって言ってくれたけど…)


(どうしてあの時、ジキジキ草の匂いに気づかなかったんだろう…)


そっとナギさんの頬に手を伸ばす。


その気配に気づいたナギさんは私を見ると、その手をつかんだ。


ナギ「…そんな顔をするな」


ナギ「これは事故だ」


ユウ「でも、おかしいと思いませんか?」


ユウ「私を助けなければナギさんはケガをしなかった…」


ユウ「薬だって私が…」


ユウ「もしかして、シンさんの銃が暴発したのも私のせいで――」


そう口にしようとすると、言葉を飲み込ませるように唇を塞がれた。


呼吸が奪われ一瞬、息をするのも忘れる。


ナギ「お前のせいじゃない」


ナギ「それにもう島から出たんだ」


ナギ「心配する事は何もない」


腕をつかまれ、引き寄せられた身体を強く抱きしめられる。


安心させるよう何度も重なる唇に不安が少しずつ消えていった。


(大丈夫…このまま何もなければ…)


(今までどおり、ずっとナギさんのそばに…)


キスを受け入れるように緊張を解いたその時、船がグラリと大きく揺れた。


ガタガタッと物音がしたかと思うと、備え付けられていた食器棚が傾く。


ナギ「ユウ!」


ユウ「え…?」


その瞬間――


食器棚の扉が開き、中から皿やグラス、フォークやナイフが私めがけて飛び出してきた。


ユウ「!!!」


身動きできずにいる私の身体をかばうようにナギさんが抱きしめる。


ガシャーンッ!!


ナギ「…くっ」


ユウ「ナギさん!!」


落ちてきた物はすべてナギさんの背中へ降り注いだ。


ユウ「ナギさん…!」


ユウ「大丈夫ですか!?」


ナギ「動くな」


船の揺れが収まり、ナギさんが離れると床にはたくさんの皿やカップが散らばっていた。


ナギ「…おさまったか」


ナギ「ユウ、ケガは……」


ユウ「そんな事よりナギさんは…!」


ユウ「ナギさんこそケガは……」


そっと背中に触れると服が破れ、傷口からは血が滲んでいた。


ユウ「またケガを…」


ナギ「船が揺れただけだ」


ナギ「傷ならドクターに診てもらう」


私はナギさんに付き添うようにソウシさんの部屋へと向かった。


ソウシ「うん、これで大丈夫」


診察を終えたソウシさんがナギさんの背中を軽く叩く。


ソウシ「頬の傷にも薬をぬったから、明日には痛みも消えるよ」


ソウシ「それにしても、ナギが厨房でケガなんて珍しいこともあるね」


ユウ「ナギさんは私をかばって…」


ナギ「違う、さっき船が揺れたからだ」


ソウシ「ああ、確かにさっきの揺れは大きかったね」


ソウシさんは薬を片づけながら頷く。


ナギ「あの食器棚…」


ナギ「船の揺れくらいじゃ開かないようにしてあった」


ナギ「それがどうして…」


ソウシ「…食器棚の扉が開いたのかい?」


ナギ「はい」


ソウシ「そう…それはおかしいね」


2人の考え込む姿に、一度は収まった不安がまた膨れ上がってきていた。