シンさんに連れられて来たのは、港の近くにあるホテルの一室だった。
シン「入れ」
ユウ「……」
開かれたドアから、ゆっくりと中に入る。
するとそこにはハヤテさんとトワくんの姿があった。
トワ「ユウさん!」
トワ「よかった…来てくれたんですね!」
ユウ「トワくん…」
ハヤテ「どーせ、シンが脅して連れて来たんだろ?」
ユウ「ハヤテさんも…」
シン「フン…」
シン「それが見つけられず帰ってきたヤツの言うことか?」
ハヤテ「なんだと!」
シンさんが眉間にシワを寄せ、私の後から部屋に入ってくる。
トワ「ちょ、ちょっと待ってください!」
トワ「今はそんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
トワ「ソウシ先生やリュウガ船長にユウさんが見つかった事を」
トワ「伝えに行かないと…」
(ソウシさんやリュウガ船長…?)
(どうして…私、皆に気づかれない様に船を出てきたのに…)
シン「バレないと思ったのか?」
シン「まったくおめでたいヤツだな」
ハヤテ「お前がいなくなった事を、俺たちが気づかないわけねぇじゃねーか」
ユウ「…じゃあ、もしかして皆、私の事を探しに…」
トワ「何か話せない事情があったんですよね?」
トワ「リュウガ船長は遺跡がどうのって言ってましたけど…」
シン「船長の勘は当たってた」
シン「こいつは面倒な呪いとやらにかかっているらしい」
ユウ「シンさん!!」
トワ「呪い…」
トワ「そういう事だったんですね…」
ハヤテ「なるほどな」
ユウ「どうしよう…」
ユウ「このままだと皆も危険な目に合ってしまうかも…」
ハヤテ「危険?」
ハヤテ「そんな事、気にすんな!」
ハヤテ「俺たちは海賊だぞ?」
ハヤテ「仲間ひとりも守れねーでどーすんだ!」
トワ「そうですよ!」
ハヤテ「俺たちが必ずなんとかする」
ハヤテ「それまでお前はこの部屋で大人しくしてろ」
シン「…というわけだ」
シン「面倒も気にならないバカが仲間でよかったな」
シンさんがフッと笑う。
ユウ「皆さん…」
ユウ「ありがとうございます」
シン「俺たちは調べることがある、行くぞ」
ハヤテ「おい、シン待てよ!」
ハヤテ「ユウ、また後でな!」
シンさんを追いかけてハヤテさんが部屋を飛び出して行く。
トワ「後で食事を持ってきますから」
トワ「今はここで待っててくださいね」
ユウ「うん…」
ユウ「ありがとう、トワくん」
トワ「いいえ、僕はユウさんに戻ってきてほしいだけですから」
トワくんは微笑むと、静かにドアを閉めて部屋を出て行った。
(あれからどのくらいの時間が経ったんだろう…)
気がつけば部屋の窓から見える空は、すっかりオレンジ色に染まっていた。
(今も皆は、呪いの正体を探してくれてるんだよね…)
(ここで大人しくしてろ、って言われたけど…)
(何もできない自分自身がもどかしい…)
――コンコンッ
その時、部屋のドアがノックされる。
ソウシ「ユウちゃん」
ユウ「ソウシさん…」
ユウ「すみません、私…」
ソウシ「シンから話は聞いたよ」
ソウシ「シンも詳しくは知らないようだったけど…」
ソウシ「事情があることはわかったからね」
ユウ「……」
(夢での事は、絶対に言えない…)
(言ったら私やナギさんだけじゃなく、皆も呪いを受けてしまうかも…)
(そう言えば…ナギさんはどうしてるんだろう…)
最後に見たナギさんの表情を思い出し胸がギュッと締めつけられる。
ソウシ「…ナギの事が気になるかい?」
ユウ「はい…」
(私がシンさんに呪いの事を聞かれてしまった事で)
(ナギさんがまた危険な目に遭ってるかもしれない…)
(どうしよう、私のせいで…)
ソウシ「大丈夫」
ソウシ「ナギがそんなに弱い男じゃないのは」
ソウシ「ユウちゃんが一番わかっているよね」
ユウ「……!」
ユウ「もしかして、ナギさんにまた何か起こって…」
ソウシ「何もないよ」
ソウシ「だからそんな顔をしないで」
ソウシ「事情があった事は伝えてあるから、ナギも落ち着けば顔を出すと思うよ」
ソウシ「今は、少し動揺してるみたいだけどね」
ユウ「あ…」
(そうだ…私はナギさんにひどい事を言ってしまったんだ…)
(今更会わせる顔なんて…)
――コンコンッ
その時また部屋のドアがノックされる。
トワ「ユウさん、入って大丈夫ですか?」
トワ「食事を持ってきました!」
ユウ「トワくん?」
ユウ「うん、どうぞ」
私の言葉で部屋のドアが開く。
トワくんは大きなバスケットを手に部屋へと入ってきた。
ソウシ「またずいぶんとたくさん持ってきたね」
トワ「はい」
トワ「ナギさんがあれもこれもって詰め込むから」
ユウ「ナギさんが…」
バスケットを部屋に置いたトワくんは、バツが悪そうにソウシさんと目配せをした。
トワ「こんな事、ユウさんに言っていいのかわからないんですが…」
トワ「ナギさん、今までにないくらい落ち込んでて…」
ユウ「……」
トワ「す、すみません…」
トワ「でも、ナギさんを救えるのはユウさんしかいないんです」
トワ「このお弁当だって、ナギさんがユウさんのためだけに」
トワ「作ったもので…」
トワ「ナギさんはずっとユウさんが戻ってくるのを待ってて…」
ソウシ「トワ、そこまでだよ」
ソウシ「これからの事は、全てが片付いた後、ふたりが話し合うことだ」
トワ「わかってます」
トワ「でも…」
ソウシ「トワの気持ちもわかるよ」
ソウシさんはなだめる様にトワくんの肩を叩くと、私に微笑みかける。
ソウシ「ユウちゃん」
ソウシ「相手がどんな強い敵でも、ナギは最後まで諦めないと思うよ」
ソウシ「だからユウちゃんもナギとの事をもう一度よく考えて欲しいな…」
ソウシ「じゃあ、私たちはまた情報を探しに行ってくるね」
ユウ「……」
トワ「ちゃんとご飯も食べてくださいね」
ユウ「…ありがとうございます」
ふたりが部屋をでていくと、私は部屋の壁にもたれかかった。
(もし、呪いが解けたとしても…)
(私はナギさんにあんなひどい事を言ってしまって…)
(きっと、もう、元になんて戻れない…)
そのまま壁にもたれるようにすべり落ちると、身体を丸めうずくまった。
静かになった部屋にひとりうずくまる。
オレンジ色だった空はあっという間に真っ暗になっていた。
ユウ「…ナギさんのご飯、食べたい」
顔をあげ、トワくんの持ってきてくれたバスケットを見つめる。
(別れてほしい…最初から好きじゃなかったなんて…)
(こんなに好きなのに…よく言えたよね…)
ユウ「今だって、ナギさんのこと」
ユウ「世界中で誰よりも」
ユウ「一番大好きなのに……」
真っ暗な部屋の中、抑えていた感情を吐き出すように小さく呟く。
その時――
???「…俺もだ」
ユウ「!!!」
(い、今の声…)
突然聞こえてきた声に、あたりを見渡す。
(誰もいるはずないよね…)
(でも、今、確かに…)
ユウ「ナギ、さん…?」
ナギ「ユウ」
ナギ「俺も、お前が好きだ…」
ユウ「ナギさん…!」
(この声、いったいどこから…?)
(もしかして…)
思わず壁に張りつくように身体を寄せる。
(ナギさん、隣の部屋にいるの…?)
ナギ「呪いが襲おうが何だろうが、俺はお前が好きだ」
ユウ「……!!」
ナギさんの声に、ナギさんの言葉に、一瞬で胸が張り裂けそうになる。
ユウ「ナギさん…」
ナギ「…どうした」
ユウ「……」
ユウ「すみません…私…」
ナギ「……」
ユウ「私…本当はあんな事…」
ユウ「ナギさんの事が好きじゃないなんて」
ユウ「嘘でも言いたくなかった…」
ユウ「でも…」
ナギ「ああ、わかってる…」
ユウ「……」
(ナギさん…)
ナギさんの優しい声に、さらに胸が締めつけられる。
(あんなにひどいことを言ったのに、私を許してくれるの…?)
(こんな私を信じてくれるの…?)
いつの間にか涙が頬を伝っていたことに気づく。
ユウ「ナギさん、私…」
次の瞬間、声が震えていることも忘れて、必死に想いを伝えていた。
ユウ「好きです…」
ユウ「ナギさんが大好きです…」
ナギ「…ユウ」
ユウ「だから、守りたかったんです」
ユウ「たとえ一生会えなくても、生きてて欲しいって思ったから」
ユウ「でも、ナギさんと別れることがこんなに辛いなんて…」
ユウ「わた…し…」
涙がこみ上げ、声が震える。
ナギ「…泣いているのか?」
(やっぱりナギさんと離れたくない…)
(でも、もう一緒にはいられない……)
(誰よりもナギさんのことが大切だから…)
ナギ「ユウ?」
ユウ「……っ」
嗚咽で返事もままならない。
しかし震える声を抑え、なんとか声を出す。
ユウ「…でも…やっぱり…」
ユウ「元には戻れません…」
ユウ「私は…ナギさんを守りたいんです…」
ナギ「……」
目の前の薄い壁が、とてつもなく大きな障害に思える。
いつも抱きしめてくれた人が、すぐ近くにいるのに、もう触れることすらできない。
ナギ「…バカだな」
ナギ「お前は…」
ユウ「え…?」
その時――
ドンッ
ユウ「!!!」
バルコニーに続く窓が、突然大きな音を立てる。
そこには――
ガラス越しに立っているナギさんの姿があった。
ユウ「ナギさん…!」
急いで駆け寄ると、ナギさんは鍵を指差して声をあげた。
ナギ「…ユウ」
ナギ「ここを開けろ」
ユウ「…え?」
ナギ「ここを開けろ」
ユウ「で、でも…」
(この窓を開けたら…きっとナギさんに触れてしまう…)
(そしたらもう、次は何が起こるかわからない…)
ナギ「ユウ?」
ユウ「……」
窓の向こうのナギさんの顔を見上げる。
今すぐにでも包み込まれたい腕の中を思いながらも、首を振り後ずさった。
ユウ「…だ、駄目です」
ユウ「ここを開けたら、今度こそナギさんが…」
ナギ「そんなもん、関係ない」
ナギ「早く開けろ」
ユウ「…駄目です!」
ナギ「……」
ナギさんの目が、静かに私を見据える。
固めたはずの決心が揺らぎそうで、私の方から視線をそらした。
(絶対に開けられない…)
ナギ「…ユウ少し離れてろ」
ドンッ!!
(え……)
ユウ「ナギさん!?」
ナギさんは鎖鎌を構えると、窓に向かって勢いよく投げつけた。
鎖鎌が当たった窓には大きなヒビが入る。
ユウ「ナギさん、待って…!」
ユウ「やめてください!」
ナギ「…諦めろ」
ナギ「お前が今言った言葉が本心だ…」
ユウ「それは…」
ナギ「なのに、こんな所で黙っていられるか」
ナギさんが再び鎖鎌を大きくふりかざそうとする。
ユウ「や…やめて!!」
ナギ「!?」
ヒビの入った窓ガラスに抱きつくようにして張り付いた。
ナギ「ユウ、離れろ!」
ナギ「怪我するだろ…」
ユウ「離れません!」
ユウ「もうやめてください!」
ユウ「私はもう…ナギさんと一緒にはいられないんです!」
ナギ「……」
ユウ「……」
部屋の中が、不自然に静まり返る。
ふと視線を上げると、ナギさんの手から鎖鎌が消えていた。
ナギ「…そこをどけ」
ユウ「…ナギさん?」
ユウ「何を――」
ナギ「いいからどけ!!」
ユウ「……!」
ナギさんの鋭い声に、身体がビクっと反応する。
その迫力に圧倒されるように、私は窓から離れた。
次の瞬間――。
ナギ「……」
ユウ「な…!!」
ガシャン!!!
真っ暗な部屋の中、キラキラと輝くガラスの粒が散らばる。
ナギさんの足が割れたガラスから抜かれると、部屋の中には鍵が開く音だけが響いた。
ナギ「……」
ユウ「…ナギさん?」
部屋の中へと入ってきたナギさんは、一直線に私へ向かって歩いてくる。
ナギ「……」
ナギさんは目の前で立ち止まると、ゆっくりと私に向かって腕を伸ばす。
私はその腕を避けるように、後ずさった。
ナギ「手荒なことをして悪かった…」
ナギ「…怪我してないか?」
ユウ「どうして…?」
ユウ「ナギさんの方こそ、怪我したらどうするんですか?」
ユウ「無茶はしないでください…!」
ナギ「そんなことは、かまわない」
ナギさんはまた一歩ずつ、私との距離を縮める。
そのたびに、私は一歩ずつ後ずさった。
ユウ「こ、来ないで下さい…」
ユウ「私に近づかないで…」
ナギ「…ユウ」
ユウ「やめて…」
ユウ「すぐにここから出てください…」
ユウ「お願いだから…」
ナギ「……」
ユウ「ナギさんを危険な目に遭わせたくないんです」
ユウ「お願いします…」
ナギ「…何が起こってもいい」
ユウ「駄目です!」
ユウ「私はそんなの、嫌です…!」
トンッ
(あ……)
背中が壁に当たり、逃げ場を失う。
――と、すぐ目の前にナギさんが立っていた。
(これ以上は絶対に駄目…)
ナギさんに向かって首を横に振ろうとした、その時――。
フワリと包み込むように、ナギさんが私を抱きしめた。
ナギ「…もう離さない」
ユウ「……」
抱きしめられた腕の力はどんどん強まって、私はナギさんの腕の中へと閉じ込められる。
私たちの間にあった隙間が全て埋まると、ナギさんと私の息づかいが重なった。
ナギ「…お前の事を信じてるって言っただろ」
ユウ「ナギさん…」
見上げると少し照れたように笑うナギさんがいた。
ナギ「…飯は食ったのか?」
ユウ「今、それを気にするんですか?」
ふふっと笑うとナギさんも笑ってくれる。
優しい腕の中、やっと何かが戻ってくるような気がした。
その時――
ガタッ!!
突然、部屋が揺れ始める。
ユウ「ナギさん…!!」
ナギ「…こいつが呪いか」
ギュッと抱きしめられるとさらに揺れは強くなった。
(このままじゃ…部屋ごと潰されてしまうかも…!)
ナギ「逃げるぞ、ユウ!」
ユウ「逃げるって…」
ユウ「逃げても呪いは消えないんですよ!?」
ナギ「わかってる」
ナギ「こうなったら、戦うしかないな」
ナギ「まずは船に戻る」
ナギ「話はそれからだ」
落ちてくる物や倒れてくる家具から私をかばうようにナギさんは私の肩を抱き歩き出した。
シリウス号に着くと、甲板から街中を見る。
ナギ「ホテルは無事みたいだな」
見える限り、ホテルが崩れている様子はない。
外にいる人々も何事もなかったように街中を歩いていた。
(あんなに大きな揺れだったのに…)
(やっぱり私たちだけに…)
私は意識的にナギさんから距離を取る。
ナギ「……」
ユウ「すみません…」
ユウ「でも、今は離れていたほうがいいと思うんです」
ユウ「呪いが何なのか…」
ユウ「もし、わからなくても、もう逃げたりしませんから」
ナギ「…そうか」
ナギさんは少し悲しそうに、でもどこか安心したように微笑んだ。
ナギ「その呪いの事だが…」
ユウ「ナギさんが私に触れると起こるんです」
ユウ「原因はわかりません」
ユウ「でも、さかのぼってみると…」
ナギ「最初に起きた異変は、シンの銃の暴発か…」
ナギ「…その前に何があった?」
ユウ「その前…?」
思わずナギさんと見つめ合う。
ふとナギさんは何かを思いついたようにハッと目を見開いた。
ナギ「もしかしたら、あの遺跡が…」
ナギさんが口を開いたその時――
リュウガ「おう、お前ら戻ってたのか」
ユウ「リュウガ船長!」
見ると、リュウガ船長を先頭に皆が甲板に集まっていた。
トワ「ユウさん、よかったです!」
トワ「無事だったんですね!」
ハヤテ「部屋に行ったら、窓ガラスは割れてるし、ユウはいねーし…」
ハヤテ「心配したんだからな!」
シン「ナギに連れ出されたのか…」
ソウシ「ナギ、大丈夫なのかい?」
ナギ「ああ、たいした事はない」
ナギさんが私を引き寄せようと手を伸ばす。
だけど、それを避ける様に一歩後ろに下がった。
ユウ「今はまだ、何が起こるかわかりません…」
ユウ「ナギさんとは、なるべく離れているようにします」
ユウ「あんな事を言った後で、許してもらえないかもしれませんが…」
ユウ「また、私をシリウス海賊団に入れてください…!」
リュウガ船長をはじめ、皆に頭を下げる。
(皆を危険に巻き込んでしまうかもしれない…)
(それでも、私は皆と一緒にいたい…)
リュウガ「おいおい、何言ってんだ?」
リュウガ「そもそも船を降りるっていうのを許した覚えはねえぞ?」
ハヤテ「お前は俺たちの仲間だろ?」
ソウシ「ユウちゃん」
ソウシ「今、皆で君を迎えに行こうと思ってたんだよ」
トワ「ナギさんに先をこされちゃいましたけどね」
シン「まったく、辛抱のないやつだ」
ナギ「……」
ナギさんは頬を赤らめ顔を背ける。
リュウガ「とにかくだ」
リュウガ「だいたいの事はもう分かっている」
リュウガ「俺たちはとんでもない間違いをしたらしい」
ユウ「間違い、ですか?」
リュウガ「そうだ」
リュウガ「今から航路を変える」
リュウガ「もう一度あの島に行くんだ」
ナギ「やはり、あの遺跡が…」
ナギさんの言葉に皆が頷く。
リュウガ「出港の準備だ!」
リュウガ「お前らさっさと取りかかれ!」
リュウガ「シン!目的地はあの山の遺跡だ!」
シン「はい」
リュウガ船長のかけ声で甲板は慌ただしくなる。
トワ「ユウさん、行きましょう!」
トワ「準備ですよ、準備!」
ユウ「う、うん!」
トワくんに呼ばれて私も動き出す。
気がつけば、皆の中、私も出港の準備に追われていた。
数日後。
シリウス海賊団はあの遺跡の前にいた。
リュウガ「ここだな…」
リュウガ船長は遺跡の前に立つ。
リュウガ「ハヤテ、お前が宝の地図を手に入れた時」
リュウガ「正確には何て言われたんだ?」
ハヤテ「確か…とんでもないもんがあるから絶対に近づくな、だったような…」
ソウシ「やはり船長の勘は当たっているみたいですね」
リュウガ「ああ」
リュウガ「あちこちで情報を集めたが、どこも似たような情報しかなかった」
シン「山の頂上には近づくな」
トワ「とんでもないことになる、とか…」
トワ「眠っているモノを起こすな、とかですよね」
リュウガ「聞いただけだと宝のありかのように聞こえるがな」
リュウガ「じつは違うんじゃねえかと思う」
ユウ「どういうことですか?」
ハヤテ「とんでもないもんってのは宝じゃなく、呪いだったって事だろ?」
ユウ「!!!」
ハヤテさんは大きくため息をつく。
シン「つまり、ハヤテの早とちりでひどい目に遭わせられたわけだ」
ハヤテ「な、何だよ…」
ハヤテ「俺のせいだって言うのかよ…!?」
ナギ「誰のせいとか今はどうでもいい」
ナギ「問題はどうしてユウだけが呪われたって事だ」
ソウシ「もしくはふたりが、だね」
トワ「そうですよね…」
トワ「ここには皆で来たんです」
トワ「呪われるなら、皆一緒のはずですよね」
リュウガ「そこなんだよなあ…」
リュウガ「どうしてふたりだけが呪われたのか…」
リュウガ「これが分からねえと呪いの解きかたもわからねえ」
ナギ「どうして俺たちだけ…」
ナギさんと私は顔を見合わせる。
(あの時、この遺跡に来て、私とナギさんだけがしたこと…?)
???「おやおや、こんな所に人がいるなんて…」
???「ここには近づかない方がいいと聞きませんでしたか?」
背後から声が聞こえ振り向くと、一人の老人が驚いた表情でこちらを見ていた。
ハヤテ「じいさんこそ、こんなとこに何しに来たんだよ」
トワ「ここは危ない場所なんですよね?」
老人「危ない?」
老人「ああ、確かにそうですね…」
老人「悲しみと怒りが眠っている場所ですから」
老人は手に抱えた花束とお供え物を遺跡の前に置く。
ユウ「悲しみと怒り、ですか?」
老人「そうですよ」
老人「その昔…何百年も前に、悲恋の末に死を遂げた男女の墓だという話です」
ナギ「墓…」
老人「私は先祖代々このお墓の墓守をしています」
老人「と言っても、人が入らないように噂を流し」
老人「こうして花を置くだけなんですがね」
ハヤテ「じゃあ、じいさんがあの噂を!?」
トワ「やっぱり宝じゃなかったんですね…」
老人「宝?ああ、お前さんたちは海賊か…」
老人「そりゃあ、残念でしたね……」
老人「ここはただの墓ですよ」
リュウガ「じゃあ呪いってのもじいさんが流した噂なのか?」
老人「呪い!?」
老人「ま、まさか…!」
老人は慌てて遺跡の前にやってくる。
老人「な、なんてことだ…」
老人「石が動いている!」
シン「石…?」
私たちは遺跡の前にあるふたつの石を見る。
(あの石…確か、ハヤテさんとシンさんがケンカして)
(仲裁に入った時にナギさんとふたりでぶつかった…)
ユウ「まさか…」
ナギ「ああ」
ナギさんと声が重なる。
ナギ「その石が呪いに関係あるんだな」
老人「この石はその昔、ふたりの男女をかたどった石像だったという話です」
老人「死してやっと共にいられるようになったとかで…」
老人「ふたつある石像を動かすと、災が起ると伝えられています」
老人「昔この丘を観光スポットにしようとしたみたいなのですが…」
老人「この石を動かすたびに次々と災いが起り断念したとか…」
ソウシ「なるほど…その石を守るために、墓守がいるんですね」
老人は静かに頷く。
トワ「じゃあ、おじいさんは呪いを解く方法も知ってるんですか?」
老人「石を動かした人間…」
老人「つまり呪いのかかった人間が、この石を元に戻せばいい」
ナギ「それだけでいいのか?」
老人「元々、ふたつの魂が一緒にあるための墓だ」
老人「悪い怨念のようなものとは違うんですよ」
トワ「じゃあ、ユウさんとナギさんが石を元に戻せばいいだけなんですね!」
トワくんに背中を押されるように石の前に立つ。
隣にはナギさんが立っていて、ふたりで一緒に石を動かした。
ぴったりと寄り添わせるように石をくっつけると、フワッと何かが軽くなる。
(あ…今…)
ナギさんは私と同じように宙を見つめた後、こちらを見て微笑んだ。
ナギ「とんだ災難だったな」
そっと私の頬にナギさんが触れる。
その手に頬を寄せ、小さく笑った。
ユウ「もう、何も起こりませんね」
ナギ「ああ」
頬を離れた手が私の手を握る。
しっかりと、離さないように繋ぐと、皆の方へ振り返った。
リュウガ「解決したようだな」
ソウシ「そのようですね」
トワ「よかったです…」
トワ「これでもう大丈夫ですね!」
ハヤテ「なんだ…悪かったな」
シン「まったく、お前はいつも面倒事しか起こさないな」
ハヤテ「なっ…!」
ハヤテ「元はといえば、シンが――」
リュウガ「おいおい、また問題起こす気か?」
リュウガ「ったく…船に戻るぞ!」
リュウガ「今夜は宴だ!」
ソウシ「いいですね」
皆の笑顔にホッと胸をなでおろす。
何より、繋がれた手から伝わる温もりに心が熱くなった。
(何も変わらず、ずっと同じ日常が続くと思ってた…)
(でも、本当は違う…)
(毎日、何かが変わって、同じ日なんて来ない)
(何が起こるかわからないからこそ)
(毎日をもっと大切にしなくちゃいけないんだ…)
ナギ「ユウ、戻るぞ」
ユウ「はい!」
笑顔で頷くと私たちはシリウス号へ向かって、山を下り始めた。