ユウ「やっぱり…そう簡単にはいい情報は得られないですね」
ナギ「…すぐに見つかったら苦労はしないだろう」
ユウ「ですね…」
公園に足を踏み入れると、奥の方に一軒の屋台を見つけた。
ユウ「この香りは…」
ユウ「なんだか美味しそうですね」
ナギ「…ああ」
香りが漂う方向に思わず足が進んでしまう。
そこには『おでん』という文字が大きく書かれたのれんが見えた。
ユウ「わあ、おでんだ!」
ナギ「…なんだ、おでんって言うのは」
ユウ「ナギさん、知りませんか?」
ナギ「…ああ」
ユウ「あんまり有名ではありませんけど…」
ユウ「とってもおいしいお料理なんですよ」
ナギさんと話ながら、おでんの屋台へと近づいていく。
中を覗き込むと、美味しそうなおでんがぐつぐつと煮込まれていた。
ユウ「わあ!熱々で美味しそう!」
ナギ「…うまそうだな」
おじさん「なんだ?」
おじさん「お前ら、客じゃねーならさっさと失せろ」
ユウ「えっ?」
おじさん「商売の邪魔だ。食う気がねーなら出てけ」
ユウ「す、すみません…」
ユウ(客商売なのに、すごい言い方…)
ナギ「ユウ、この白いのはなんだ?」
ユウ「あ、それは、はんぺんですよ。こっちのはがんも、これはつくねです」
ナギ「材料はなんだ?」
ユウ「はんぺんはお魚のすり身が材料で、がんもは…」
私の話を熱心に聞くナギさんの横顔を眺めながら、ハッとする。
ユウ(早く屋台を出て行かないと またおじさんに怒られるよね……)
ユウ(しかも、見ていたら食べたくなってきたし……)
ユウ(でも今は、偽シリウス団の情報を集めないと…)
ユウ「ナギさん、そろそろ行きましょうか。お仕事の邪魔をしても悪いので……」
ナギ「…」
その時、ナギさんがふと何かに気づいたように視線を落とす。
すると、すぐ近くにあったイスに私を座らせた。
ユウ「えっ!ナギさん?」
ナギ「適当でいいか…」
ユウ「えっ?」
ナギ「俺の好みで頼むぞ」
ユウ「もしかして、食べていくんですか!?」
ナギ「ああ…腹減ってるんだろ」
ユウ「で、でも……今は偽物の情報を」
ナギ「ちょうど昼メシ時だ…あいつらもどこかで食ってる頃だろ」
ナギ「親父、そのがんもとつくねと……」
私の心配をよそに、ナギさんが注文を始める。
おじさん「ほらよ」
ユウ「あ……」
ナギ「…」
ナギさんは、私の代わりにおじさんから熱々のおでんが入ったお皿を受け取ると、私の前に置いて、さらにお箸まで手渡 してくれた。
ユウ「…ありがとうございます」
ナギ「…熱いから気をつけろよ」
ユウ「はい!いただきます!」
ユウ(実は食べたかったこと)
ユウ(ナギさんが気づいてくれたんだよね…)
ユウ(なんだか嬉しいな)
ユウ「あふっ!」
ナギ「…!」
でも勢い込んで食べたせいか、おでんの熱さにむせてしまった。
あまりの熱さに、言葉を発することもできなくなる。
ユウ「……っ!」
ナギ「…だから言っただろ」
ナギさんは呆れた顔をしながらも、さりげなく水を手渡してくれた。
ユウ「あひがとうございまふ…」
ナギ「…」
ナギ「…喋るなら食ってからにしろ」
ユウ「…」
ナギさんの言葉に大きく首を縦に振ると、ナギさんはなぜか私のお皿を手元に寄せた。
ユウ(おでんなんて久しぶりに食べたから、熱いってこと忘れてた…)
ナギ「ほら…こうやって小さく切って食え」
ユウ「あ、すみません…」
ユウ「私は大丈夫です。ナギさんも冷めないうちに食べて下さい」
ナギ「…ああ、分かってる」
ナギ「…ほら」
ユウ「えっ!?」
ナギさんは一口大にされたはんぺんに息を吹きかけると、私の口元へと差し出した。
ユウ「あっ!あの…」
ナギ「…また火傷したら大変だろ」
ユウ「す、すみません…」
ユウ(これ、『あーんしろ』ってことだよね…)
ユウ(ナギさんは全然意識してないみたいだけど…)
ユウ(目の前にはおじさんもいるし、ちょっと恥ずかしいな…)
それでもナギさんの好意を断るのも悪いと思い、思い切ってはんぺんを口に入れた。
ユウ「ん!おいしい!私が作ったのよりずっとおいしいです!」
おじさん「当たりめーだろ!こっちは商売でやってんだから」
ユウ「ナギさんも食べてみてください!」
ユウ「はい!」
ナギ「…」
ナギさんにしてもらったのと同じように、私も一口大のはんぺんをナギさんに差し出す。
ナギ「…俺のことはいいから、お前は自分のことだけやれ」
ユウ「え…は、はい」
ナギ「他のも食べるか?ほら、口開けろ」
ユウ「も、もう一人で食べれますから!」
慌てて首を振ると、テーブル越しにおじさんのため息が聞こえてきた。
おじさん「ったく…最近の男は軟弱になったもんだな」
ユウ「え?」
おじさん「女に気を遣って……みんなそんななのか?」
ナギ「…」
ユウ(た、確かに…私たち、今かなり恥ずかしいことしてた?)
ユウ(船の中とか、誰も見ていないところじゃないんだから…)
ユウ(おじさんの言うとおりだよね…)
顔を真っ赤にする私の横で、ナギさんはいつも通り、特に気に留めた様子もない。
でも、おでんを一口食べると、その表情がパッと変わった。
ナギ「…うまい」
ユウ「ですよね!」
ナギ「これは…出汁が違うのか?」
おじさん「いろんなの使ってるからな。それに、毎日煮込み続けてる」
おじさん「年季が違うんだよ」
ナギ「これ…作り方教えてもらえないか?」
ユウ(ナギさんが自分からそんなこと言うなんて珍しい…)
ユウ(それだけ、おでんが気に入ったのかな)
おじさん「はあ?バカなこと言うんじゃねーよ」
おじさん「そう簡単に教えられるわけねーだろうが」
ナギ「…なら、この出汁の取り方だけでも教えてもらえないか?」
おじさん「無理だって言ってんだろ! んなことしたら商売あがったりだ!」
ユウ(出汁の取り方、私でも基本的なことならわかるけど)
ユウ(でも、この屋台ならではの隠し味とかあるよね…)
ナギ「…親父、頼む」
ナギ「料理人として知っておきたい」
おじさん「お前、料理人か?」
おじさん「ならわかるだろ、他人に教えられるもんじゃねーってのは」
ナギ「…」
その時、ガタン!と大きな音がして誰かが屋台に入ってきた。
男「おい、金は用意しただろうな」
おじさん「メギ…!」
ユウ(な、なに、この人…)
ナギ「…」
ナギさんは私の腕を掴むと、無言で自分の後ろ側へと私を引き寄せた。
男「ふん、こんな時間に客か」
男「こんなしけた屋台で食うなんて、よっぽど暇なんだな」
おじさん「メギっ!」
ナギ「…」
男「ほら、さっさとしろ」
おじさん「……」
さっきまでのおじさんの勢いは消えて、おじさんは黙ってお店のお金を男に手渡した。
男「ちっ…これだけか。少なすぎんだろ」
おじさん「今はそれしかねえ」
男「まあいい、また来るから、そん時はもっと用意しとけよ」
私たちに目もくれず、男はそう吐き捨てると屋台から出て行った。
ユウ「おじさん、大丈夫ですか…?」
ナギ「…ショバ代、ってヤツか?」
おじさん「…そんなんじゃねえ」
ユウ(さっきまであんなに威勢のよかったおじさんが、黙ってお金を渡すなんて)
ユウ(それに、名前呼んでたよね…… 『メギ』って)
ユウ「もしかして……おじさんの息子さん、とか?」
おじさん「……ふん」
ナギ「息子……」
ナギ「…だからって、稼いだお金を簡単に渡すのは間違ってるだろ」
おじさん「…仕方ねーんだよ。 これも自分でまいた種だ」
おじさん「ずっと店が忙しくて、あいつには構ってやれなかったからな」
ユウ「でもそれは、おじさんのせいじゃ……」
おじさん「母親が生きてたうちは、まだよかったんだ」
おじさん「数年前に病気で死んでから、悪い仲間とつるむようになった」
ナギ「それで、あんたに金をせびりに来てるのか」
おじさん「…お前らには関係ねえ。食ったならさっさと帰れ」
ナギさんと私は、思わず顔を見合わせる。
私たちは、ひとまずお代を置いて、その屋台をあとにした。
おなかはいっぱいになったけれど、何となく胸がもやもやしていた。
ユウ「なんだか悲しいですね。 実の親子なのに、あんな…」
ナギ「…あの親父が言ったように、俺達には関係ない」
ユウ「そうですけど…」
ユウ(でもナギさんだって、なんだか難しい顔してる)
ユウ(関係ないし、私たちにはどうすることもできないって)
ユウ(わかってるけど…)
ナギ「…おい」
ユウ「え?」
ナギ「あれ…さっきの息子じゃないか」
ナギさんが指した方を見ると、おじさんが『メギ』と呼んだ あの男が歩いてる。
ユウ「ほんとだ…どこに行くんですかね」
ナギ「あのホテルに入るみたいだな」
ナギさんが言ったように、メギさんは近くの怪しげなホテルへと消えた。
(選択してください)
A:追いかける
ユウ「ど、どうしましょう、追いかけますか?」
ナギ「別に、あいつは俺たちが追ってる偽物じゃない」
ナギ「追う必要もないだろ」
ユウ「そうですよね…」
ユウ(でも、気になんだかなって… おじさんに教えなくてもいいのかな)
B:ナギを見る
ユウ「ナギさん…」
どうしようかとナギさんを見ると、静かに首を振った。
ナギ「どうしようもない。あの親父に頼まれたわけでもないし」
ユウ「ですよね…」
C:待ち伏せする
ユウ「ここで待ち伏せしましょうか」
ナギ「いつ出てくるかもわからないし、そんなことする必要もない」
ナギ「あの親父に頼まれたっていうなら別だけどな」
ユウ「そっか…そうですよね」
何となく後ろ髪を引かれつつ、私たちは皆との待ち合わせ場所へ向かった。
みんなと落ち合うと、今日一日調べた結果の報告をし合う。
ソウシ「結局、誰も有力な情報はつかめなかったみたいだね」
トワ「みんな、偽シリウスがどこから来て」
トワ「どこを根城にしてるのかも知らないみたいですね」
ハヤテ「つーか…お前ら、大事なこと忘れてねーか?」
ユウ「大事なこと?」
ハヤテ「メシだよメシ!俺はもう腹減って死にそうだ!」
シン「報告が済むまで待てないのか…」
ハヤテ「待てねーよ!もう限界だ!」
シン「…まったく、どうしようもない奴だ…」
リュウガ「ハヤテ…」
リュウガ「俺もだ!」
ソウシ「船長…」
ナギ「これから帰って夕飯の支度となると、かなり遅くなる…」
ハヤテ「ダメだ!ナギ兄、なんとかしてくれよ!」
リュウガ「そりゃ、待ってらんねーな!」
シン「ガキですか…」
ユウ「あ、そうだ!ナギさん、あの屋台に行きませんか?」
ナギ「…」
ソウシ「屋台?」
ユウ「昼間、ナギさんといい屋台を見つけたんですよ」
ナギ「俺はそれでいいが、お前、飽きないのか?」
ユウ「全然です!だってすごくおいしいおでんでしたから」
ハヤテ「おでん?なんだよ、それ」
トワ「おでんなんて聞いたことないですね」
トワ「僕も食べてみたいです!」
リュウガ「おい、酒はあんのか?」
ナギ「…たぶん」
リュウガ「よし!そうと決まれば今すぐ行くぞ!」
リュウガ船長の掛け声で、私たちはおじさんの屋台がある公園へと向かった。
公園に戻ると、おじさんの屋台はまだ営業しているようだった。
ユウ「あの…こんばんは」
おじさん「なんだ、お前ら!また来たのか」
リュウガ「親父!酒をくれ!」
ハヤテ「すげーいい匂いだな!」
トワ「ユウさん、これ、なんですか!?」
ユウ「これはおでんって言って…」
みんなで大きなテーブルを囲むと、おじさんに適当によそってもらったおでんをつつく。
ソウシ「これは……おいしいね」
リュウガ「ああ、酒にもよく合う」
ハヤテ「親父、おかわり!」
トワ「僕、次は違うネタ食べてみたいです!」
シン「…確かに悪くない。これは船でも作れるのか?」
ナギ「作り方が分かればな」
リュウガ「よし、親父!ナギに作り方を伝授してやってくれ!」
おじさん「お前もか……昼間も言ったが」
おじさん「見ず知らずの奴に教えられるかってんだ」
リュウガ「まあ、そう言うな!タダでとは言わねえ!」
リュウガ「何か欲しいもんはねーか?」
リュウガ「俺たちがそれを手に入れてやる!それと引き換えだ!」
おじさん「欲しいもん、か……?」
みんなにおかわりをよそおいながら、おじさんが考えるしぐさを見せる。
おじさん「そこまで言うなら……俺の息子のメギを更生させてみろ」
リュウガ「メギ?」
ナギ「…昼間の男か」
おじさん「…ああ」
ユウ「それって…」
おじさん「それができたら、喜んで教えてやる。隠し味付きでな」
リュウガ「乗った!」
ユウ「ええ!?」
ナギ「…」
ユウ「ナ、ナギさん…」
ナギ「…今回ばかりは船長に同意見だ」
ナギ「…あいつらにもそうだが」
ナギ「…お前に、船の中でも おでんを食わせてやりたいからな…」
ユウ「ナギさん…」
ユウ(確かに、おでんの作り方は教えて欲しいけど……)
ユウ(あの息子さんを更生させるって、そんなことできるの!?)