アラン「ダンス、付き合わせろ」
アランは私の腰を引き寄せると、手に手を合わせ、
アラン「いいか、始めるぞ」
そう言って、一つ一つ丁寧にダンスを教えてくれた。
(アランだって、公務で疲れているはずなのに…)
改めて優しさを感じ、私は思い切って口を開く。
イヴ「あのね、アラン…」
アラン「なに」
イヴ「やっぱり、レオとちゃんと話をしてほしい」
アラン「………」
アランは足の動きを止め、困ったように眉を寄せる。
(どう言ったら、いいかな…)
考えながら、でも確かな思いを私は口にする。
イヴ「誕生日パーティーをお祝いするのに、主役の2人が喧嘩中だったら」
イヴ「みんなも気を遣ってしまうと思うの」
イヴ「だから……お願い」
アラン「………」
アランは何も言わず、黙って僅かに目を細めた…。
ダンスのレッスンを終え、アランは一人部屋へと廊下を歩いている。
アラン「………」
自室の扉に手を掛けると、ふとイヴのお願いという顔が頭を過ぎった。
アラン「…ったく」
アランは小さく呟くと、ドアノブから手を離し、部屋とは別の方向へ歩いていき…。
アランが向かった先は、レオの執務室だった。
息をつくと、扉を叩き中に入る。
レオ「アラン?」
扉を閉めるアランの姿を見てレオは驚き、目を開いた。
アランは想像通りのレオの反応を怪訝に思いながらも、口を開く。
アラン「あいつがうるせえから」
レオ「え?」
アラン「別に処分が重いと思っただけで」
アラン「お前の立場は分かってるって言いに来ただけ」
強く優しい物言いに、レオは思わず吹きだすように笑う。
レオ「お前、変わったな」
アラン「は?」
レオ「イヴちゃんが側にいるようになって、丸くなった」
レオは、そんなアランを温かな瞳で見つめている。
レオ「良かったな」
アラン「………」
アランは眉を寄せると、視線を逸らすようにして部屋の扉に手をかけた。
アラン「じゃ、それだけだから」
そう言って退出しようとすると、その背中をレオが静かに呼び止める。
レオ「待って、アラン」
アランは足を止め、レオの方へ振り返る。
レオ「俺も言いたい事がある」
アラン「なんだよ」
視線を落とすようにして向き合うと、
レオ「事後報告は止めてもらいたかったてこと」
レオ「ちゃんと報告してくれたら、俺だって行かせる」
アラン「………」
レオ「そこまで俺も、頭は固くないよ」
レオはそう言っていつもの笑顔を見せた。
レオ「それだけ、言いたかった」
その言葉を聞いてアランは小さく頷きを返すと、そのまま静かに部屋を退出した……。
月夜が明るく部屋の中を照らしている―
私はベッドにつきながら、明日のことを思った。
(明日は誕生日パーティーだけど……)
(2人とも、仲直りができてるといいな)
星空に願いを呟くと、私はそっと目を閉じて眠りについた。
………
そうして迎えた、アランとレオのバースデーパーティー当日―
私はドレスに身を包み、会場へ向かう仕度を整えていた。
ユーリ「イヴ様、準備できたよ」
イヴ「ありがとう…!今、行くね」
靴のリボンを結び直し、意を決してダンスホールへと向かった。
会場につくと、中は多くの人で賑わっていた。
(みんな、来てくれたんだ)
集まってくれた人たちの顔を見て、私は思わず頬を綻ばせる。
イヴ「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」
感謝の気持ちを伝え、改めてアランとレオへ視線を移す。
イヴ「レオ、アラン、お誕生日おめでとう」
シャンパンを掲げると、皆のおめでとうの声が響き渡った。
やがて時間になり、フロアに音楽が流れ始めた。
みんながパートナーと踊る姿を微笑ましく見つめていると、ユーリが後ろから声をかける。
ユーリ「ほら、イヴ様も踊って」
イヴ「う、うん…」
ユーリに腕を引かれ、アランとレオの前へ歩みを進める。
イヴ「……」
流れる沈黙の中…―最初に口を開いたのはレオだった。
レオ「せっかくイヴちゃんと踊るチャンスだけど、」
レオ「アランに譲るよ。俺は他の子と踊ってくる」
するとその言葉を受けたアランがぼそりと呟く。
アラン「お前、少しは一人の女に落ちつけよ」
レオは目を開くと、すぐに口元を緩めた。
レオ「忠告ありがとう」
レオはにっこり笑い、その場から立ち去っていく。
(あれ…?前よりも2人の中が穏やかになった気がする)
不思議に思い、アランの顔をじっと見つめると…、
アラン「で、踊るんだろ」
イヴ「う、うん…」
アランはいつもの調子で、ぽんっと頭を撫でて言った。
差し伸ばされた手に手を重ね、2人は身体を寄り添わせる…。
音楽に乗せ、ドレスの裾を揺らしていると…、
イヴ「…っ……!」
突然足に痛みが走った。
(やっぱり、この靴慣れていないから…)
(あんなに練習したのに…)
痛む足をかばうように踊ろうとすると、それに気がついたアランが足を止める。
アラン「足、見せろ」
そう言って心配そうにしゃがみこんだ。
アランに肩を借り、私たちはバルコニーへと向かった。
片膝に私の脚を乗せ、ケガの具合を見るアラン。
アラン「靴ずれ起こしてんじゃねえか」
イヴ「うん…」
俯きがちにコクリと頷くと、アランはポケットからハンカチを取り出して靴に挟んでくれた。
アラン「これでしばらくは大丈夫だろ」
イヴ「ありがとう」
アランの優しさを身に染みて感じ、嬉しさが込み上げてくる。
(そういえば…)
イヴ「レオと仲直り、したんだね」
アラン「…まあな」
短く言葉を返し、アランは私の脚をそっと地面に置いた。
アランの肩を借り、立ち上がろうとした次の瞬間。
(あっ……)
バランスを崩し、アランの胸元に手をついてしまった。
アランの顔が間近に迫る。
イヴ「ごめんっ…」
慌てて離れようと肩を押すと、アランは私の顎を引き、口づけようと顔を近づけた。
(……!)
イヴ「待って…みんな、中にいるから……」
恥ずかしさを覚え、視線を背けると…、
アラン「何かあったら、話聞きたいって言ったのはお前だろ」
アラン「今、お前に触れたいんだけど」
イヴ「でも…」
(誰か来てしまうかもしれない)
キョロキョロとあたりを見回す私を見つめ、アランは大きく息をついた。
アラン「…ったく、しょうがねえな」
離れるアランに、私はとっさに思いついた言葉を口にした…―。
アランは私の腰を引き寄せると、手に手を合わせ、
アラン「いいか、始めるぞ」
そう言って、一つ一つ丁寧にダンスを教えてくれた。
(アランだって、公務で疲れているはずなのに…)
改めて優しさを感じ、私は思い切って口を開く。
イヴ「あのね、アラン…」
アラン「なに」
イヴ「やっぱり、レオとちゃんと話をしてほしい」
アラン「………」
アランは足の動きを止め、困ったように眉を寄せる。
(どう言ったら、いいかな…)
考えながら、でも確かな思いを私は口にする。
イヴ「誕生日パーティーをお祝いするのに、主役の2人が喧嘩中だったら」
イヴ「みんなも気を遣ってしまうと思うの」
イヴ「だから……お願い」
アラン「………」
アランは何も言わず、黙って僅かに目を細めた…。
ダンスのレッスンを終え、アランは一人部屋へと廊下を歩いている。
アラン「………」
自室の扉に手を掛けると、ふとイヴのお願いという顔が頭を過ぎった。
アラン「…ったく」
アランは小さく呟くと、ドアノブから手を離し、部屋とは別の方向へ歩いていき…。
アランが向かった先は、レオの執務室だった。
息をつくと、扉を叩き中に入る。
レオ「アラン?」
扉を閉めるアランの姿を見てレオは驚き、目を開いた。
アランは想像通りのレオの反応を怪訝に思いながらも、口を開く。
アラン「あいつがうるせえから」
レオ「え?」
アラン「別に処分が重いと思っただけで」
アラン「お前の立場は分かってるって言いに来ただけ」
強く優しい物言いに、レオは思わず吹きだすように笑う。
レオ「お前、変わったな」
アラン「は?」
レオ「イヴちゃんが側にいるようになって、丸くなった」
レオは、そんなアランを温かな瞳で見つめている。
レオ「良かったな」
アラン「………」
アランは眉を寄せると、視線を逸らすようにして部屋の扉に手をかけた。
アラン「じゃ、それだけだから」
そう言って退出しようとすると、その背中をレオが静かに呼び止める。
レオ「待って、アラン」
アランは足を止め、レオの方へ振り返る。
レオ「俺も言いたい事がある」
アラン「なんだよ」
視線を落とすようにして向き合うと、
レオ「事後報告は止めてもらいたかったてこと」
レオ「ちゃんと報告してくれたら、俺だって行かせる」
アラン「………」
レオ「そこまで俺も、頭は固くないよ」
レオはそう言っていつもの笑顔を見せた。
レオ「それだけ、言いたかった」
その言葉を聞いてアランは小さく頷きを返すと、そのまま静かに部屋を退出した……。
月夜が明るく部屋の中を照らしている―
私はベッドにつきながら、明日のことを思った。
(明日は誕生日パーティーだけど……)
(2人とも、仲直りができてるといいな)
星空に願いを呟くと、私はそっと目を閉じて眠りについた。
………
そうして迎えた、アランとレオのバースデーパーティー当日―
私はドレスに身を包み、会場へ向かう仕度を整えていた。
ユーリ「イヴ様、準備できたよ」
イヴ「ありがとう…!今、行くね」
靴のリボンを結び直し、意を決してダンスホールへと向かった。
会場につくと、中は多くの人で賑わっていた。
(みんな、来てくれたんだ)
集まってくれた人たちの顔を見て、私は思わず頬を綻ばせる。
イヴ「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」
感謝の気持ちを伝え、改めてアランとレオへ視線を移す。
イヴ「レオ、アラン、お誕生日おめでとう」
シャンパンを掲げると、皆のおめでとうの声が響き渡った。
やがて時間になり、フロアに音楽が流れ始めた。
みんながパートナーと踊る姿を微笑ましく見つめていると、ユーリが後ろから声をかける。
ユーリ「ほら、イヴ様も踊って」
イヴ「う、うん…」
ユーリに腕を引かれ、アランとレオの前へ歩みを進める。
イヴ「……」
流れる沈黙の中…―最初に口を開いたのはレオだった。
レオ「せっかくイヴちゃんと踊るチャンスだけど、」
レオ「アランに譲るよ。俺は他の子と踊ってくる」
するとその言葉を受けたアランがぼそりと呟く。
アラン「お前、少しは一人の女に落ちつけよ」
レオは目を開くと、すぐに口元を緩めた。
レオ「忠告ありがとう」
レオはにっこり笑い、その場から立ち去っていく。
(あれ…?前よりも2人の中が穏やかになった気がする)
不思議に思い、アランの顔をじっと見つめると…、
アラン「で、踊るんだろ」
イヴ「う、うん…」
アランはいつもの調子で、ぽんっと頭を撫でて言った。
差し伸ばされた手に手を重ね、2人は身体を寄り添わせる…。
音楽に乗せ、ドレスの裾を揺らしていると…、
イヴ「…っ……!」
突然足に痛みが走った。
(やっぱり、この靴慣れていないから…)
(あんなに練習したのに…)
痛む足をかばうように踊ろうとすると、それに気がついたアランが足を止める。
アラン「足、見せろ」
そう言って心配そうにしゃがみこんだ。
アランに肩を借り、私たちはバルコニーへと向かった。
片膝に私の脚を乗せ、ケガの具合を見るアラン。
アラン「靴ずれ起こしてんじゃねえか」
イヴ「うん…」
俯きがちにコクリと頷くと、アランはポケットからハンカチを取り出して靴に挟んでくれた。
アラン「これでしばらくは大丈夫だろ」
イヴ「ありがとう」
アランの優しさを身に染みて感じ、嬉しさが込み上げてくる。
(そういえば…)
イヴ「レオと仲直り、したんだね」
アラン「…まあな」
短く言葉を返し、アランは私の脚をそっと地面に置いた。
アランの肩を借り、立ち上がろうとした次の瞬間。
(あっ……)
バランスを崩し、アランの胸元に手をついてしまった。
アランの顔が間近に迫る。
イヴ「ごめんっ…」
慌てて離れようと肩を押すと、アランは私の顎を引き、口づけようと顔を近づけた。
(……!)
イヴ「待って…みんな、中にいるから……」
恥ずかしさを覚え、視線を背けると…、
アラン「何かあったら、話聞きたいって言ったのはお前だろ」
アラン「今、お前に触れたいんだけど」
イヴ「でも…」
(誰か来てしまうかもしれない)
キョロキョロとあたりを見回す私を見つめ、アランは大きく息をついた。
アラン「…ったく、しょうがねえな」
離れるアランに、私はとっさに思いついた言葉を口にした…―。
2つの唇が重なり、わずかな隙間からアランの舌が滑り込んでくる。
イヴ「…っ……」
甘い刺激に小さく肩を揺らすと、それに気づいたのかアランがそっと身体を離した。
(こんなにも、優しく口づけてくれるのに……)
イヴ「ねえ、アラン…?」
アラン「なんだよ」
私はアランの瞳をじっと見つめて考える。
(喧嘩したことを気にするなって言ったり…)
(どうして頼ってくれないんだろう)
イヴ「私…アランに何かあったら話も聞きたいし」
イヴ「力になりたい」
アラン「………」
アランは視線を外さず、静かに私の話を聞いている。
イヴ「いつも、気にするばかりだから…」
心からまっすぐにそう思いを伝えると、アランはふうっと小さく息をつき…。
アランは小さく息をつくと、事の成り行きを話し始めた。
アラン「この前、騎士のひとりが城を抜け出したんだよ」
イヴ「え?」
聞くと、その騎士は家族の体調が悪くなり、何の報告もなしに突然城を抜け出してしまったのだと言う。
アラン「一応、俺には声をかけていったから、すぐに行けって言っただけ」
そのことを事後報告したところ、レオがその騎士に対し謹慎処分を言い渡したそうだ。
アラン「まあ、官僚って立場もあってあいつは言ったんだろうけど」
アラン「謹慎処分は重いだろ」
(そんなことがあったんだ…。ただ喧嘩してるだけかと思ったんだけど)
(ちゃんとレオの立場も理解した上で考えてるんだ)
私はアランの顔を見上げ、そんな思案を巡らせる。
アラン「なんだよ、その目」
イヴ「…ううん、別に」
(アランとレオって…もっと話し合えばいいのに)
俯きがちに首を横に振ると、アランはふわりと私の身体を抱き寄せていった。
アラン「…だるいな。こんな話お前にするなんて」
イヴ「アラン…?」
顔を上げようとすると、表情を見せたくないのかアランはさらに腕の力を強める。
アラン「そういうこと言われると、調子狂うんだよ」
言いながら、心なしかアランの体温が上がっていく。
イヴ「そういうこと…?」
アラン「力になりたいとか、さっき言ってただろ」
ぐっと力を込めるアランの腕に、私はなんとなく悟る。
(もしかして、照れているのかな…?)
耳に響くアランの鼓動が次第に早まるのがわかった。
(なんだか、そう思うと少しかわいいな…)
イヴ「うん、でも本当のことだから」
くすりと笑って言葉を返すと、
アラン「笑うな」
アランは怒ったように語調を強め、もう一度触れるように優しく唇を重ねた。
その夜―
私は自室でユーリと一緒にパーティーの準備をしていた。
鏡の前に立つ私の姿を見ると、ユーリはぱっと目を瞬かせた。
ユーリ「わー、イヴ様きれい」
ユーリは嬉しそうに、私を見てにっこりと微笑んだ。
イヴ「ありがとう、ユーリ」
鏡に映るドレス姿の自分を見つめ、私もにっこり微笑みを返す。
(とっても素敵なドレス…間に合って良かった)
アランとレオの誕生日パーティーで踊るため、以前から、ドレスを仕立ててもらっていたのだ。
ユーリ「きっと、アラン様も喜ぶよ」
くすっと笑い、ユーリは意味ありげにドレス全体を見渡す。
(そうだといいな…)
ぼんやりとそんなことを考えながら鏡に視線を戻すと…、ふと見慣れない靴を履いている足元に目が止まる。
(この靴はヒールが高いから、当日つまづいてしまいそう…)
微かな不安が頭を過ぎった。
(そうだ!今のうちに少し練習しておこう)
私はドレスを脱いで別のワンピースに着替えると、ヒールのままダンスホールへと向かった。
(この時間なら、もう誰もいないよね)
そう思い、ひとりで練習を始めたその時――
???「こんな時間に、何してんだよ」
見ると、ホールにはアランの姿があった。
イヴ「アラン…」
(誕生日パーティーで踊ることは内緒なのに…)
何と答えようか…慌てて考えていると、
アラン「言いたくないなら別にいいんだけど」
アランはそう言って、そのまま今度は視線を私の胸元へ落とす。
アラン「お前さ」
一歩距離を縮め、私の首筋にトントンと指をおいた。
イヴ「…?」
アランは、私の胸元にあるパールネックレスを指差して聞いた。
アラン「こんな豪華なネックレス、何で付けてんだよ」
イヴ「…!」
ミントグリーンに輝くパールが目に入り、私ははっとする。
(さっき試着したの、外し忘れていたんだ…)
イヴ「新しく作ってもらったのが出来上がって……」
咄嗟にごまかすと、意外な言葉が返ってきた。
アラン「ふーん、似合ってんじゃん」
イヴ「え?」
褒められて一瞬胸がときめくも、すぐにほっとした心地になる。
(良かった…誕生日パーティーで踊ること気づいてないみたい)
イヴ「ありがとう」
アラン「それより…一人でダンスの練習かよ」
アランはホールを一周見回すと、床に膝をつき、すっと手を私の方へ差し出した。
イヴ「え?」
辺りはガランとしていて、他に人の気配はない。
アランは顔を上げ、真剣な眼差しで言った。
アラン「お前、力になりてえって言ってたよな」
イヴ「あ、うん……」
アラン「お前にそういうこと言われっぱなしだと、もやもやすんだよ」
アラン「…こういうのは、男から言うもんだと思うし」
そう小さく呟いたアランは、立ち上がり様に私の腰元をぐっと抱き寄せる。
アラン「ダンス、付き合わせろ」
イヴ「…っ……」
甘い刺激に小さく肩を揺らすと、それに気づいたのかアランがそっと身体を離した。
(こんなにも、優しく口づけてくれるのに……)
イヴ「ねえ、アラン…?」
アラン「なんだよ」
私はアランの瞳をじっと見つめて考える。
(喧嘩したことを気にするなって言ったり…)
(どうして頼ってくれないんだろう)
イヴ「私…アランに何かあったら話も聞きたいし」
イヴ「力になりたい」
アラン「………」
アランは視線を外さず、静かに私の話を聞いている。
イヴ「いつも、気にするばかりだから…」
心からまっすぐにそう思いを伝えると、アランはふうっと小さく息をつき…。
アランは小さく息をつくと、事の成り行きを話し始めた。
アラン「この前、騎士のひとりが城を抜け出したんだよ」
イヴ「え?」
聞くと、その騎士は家族の体調が悪くなり、何の報告もなしに突然城を抜け出してしまったのだと言う。
アラン「一応、俺には声をかけていったから、すぐに行けって言っただけ」
そのことを事後報告したところ、レオがその騎士に対し謹慎処分を言い渡したそうだ。
アラン「まあ、官僚って立場もあってあいつは言ったんだろうけど」
アラン「謹慎処分は重いだろ」
(そんなことがあったんだ…。ただ喧嘩してるだけかと思ったんだけど)
(ちゃんとレオの立場も理解した上で考えてるんだ)
私はアランの顔を見上げ、そんな思案を巡らせる。
アラン「なんだよ、その目」
イヴ「…ううん、別に」
(アランとレオって…もっと話し合えばいいのに)
俯きがちに首を横に振ると、アランはふわりと私の身体を抱き寄せていった。
アラン「…だるいな。こんな話お前にするなんて」
イヴ「アラン…?」
顔を上げようとすると、表情を見せたくないのかアランはさらに腕の力を強める。
アラン「そういうこと言われると、調子狂うんだよ」
言いながら、心なしかアランの体温が上がっていく。
イヴ「そういうこと…?」
アラン「力になりたいとか、さっき言ってただろ」
ぐっと力を込めるアランの腕に、私はなんとなく悟る。
(もしかして、照れているのかな…?)
耳に響くアランの鼓動が次第に早まるのがわかった。
(なんだか、そう思うと少しかわいいな…)
イヴ「うん、でも本当のことだから」
くすりと笑って言葉を返すと、
アラン「笑うな」
アランは怒ったように語調を強め、もう一度触れるように優しく唇を重ねた。
その夜―
私は自室でユーリと一緒にパーティーの準備をしていた。
鏡の前に立つ私の姿を見ると、ユーリはぱっと目を瞬かせた。
ユーリ「わー、イヴ様きれい」
ユーリは嬉しそうに、私を見てにっこりと微笑んだ。
イヴ「ありがとう、ユーリ」
鏡に映るドレス姿の自分を見つめ、私もにっこり微笑みを返す。
(とっても素敵なドレス…間に合って良かった)
アランとレオの誕生日パーティーで踊るため、以前から、ドレスを仕立ててもらっていたのだ。
ユーリ「きっと、アラン様も喜ぶよ」
くすっと笑い、ユーリは意味ありげにドレス全体を見渡す。
(そうだといいな…)
ぼんやりとそんなことを考えながら鏡に視線を戻すと…、ふと見慣れない靴を履いている足元に目が止まる。
(この靴はヒールが高いから、当日つまづいてしまいそう…)
微かな不安が頭を過ぎった。
(そうだ!今のうちに少し練習しておこう)
私はドレスを脱いで別のワンピースに着替えると、ヒールのままダンスホールへと向かった。
(この時間なら、もう誰もいないよね)
そう思い、ひとりで練習を始めたその時――
???「こんな時間に、何してんだよ」
見ると、ホールにはアランの姿があった。
イヴ「アラン…」
(誕生日パーティーで踊ることは内緒なのに…)
何と答えようか…慌てて考えていると、
アラン「言いたくないなら別にいいんだけど」
アランはそう言って、そのまま今度は視線を私の胸元へ落とす。
アラン「お前さ」
一歩距離を縮め、私の首筋にトントンと指をおいた。
イヴ「…?」
アランは、私の胸元にあるパールネックレスを指差して聞いた。
アラン「こんな豪華なネックレス、何で付けてんだよ」
イヴ「…!」
ミントグリーンに輝くパールが目に入り、私ははっとする。
(さっき試着したの、外し忘れていたんだ…)
イヴ「新しく作ってもらったのが出来上がって……」
咄嗟にごまかすと、意外な言葉が返ってきた。
アラン「ふーん、似合ってんじゃん」
イヴ「え?」
褒められて一瞬胸がときめくも、すぐにほっとした心地になる。
(良かった…誕生日パーティーで踊ること気づいてないみたい)
イヴ「ありがとう」
アラン「それより…一人でダンスの練習かよ」
アランはホールを一周見回すと、床に膝をつき、すっと手を私の方へ差し出した。
イヴ「え?」
辺りはガランとしていて、他に人の気配はない。
アランは顔を上げ、真剣な眼差しで言った。
アラン「お前、力になりてえって言ってたよな」
イヴ「あ、うん……」
アラン「お前にそういうこと言われっぱなしだと、もやもやすんだよ」
アラン「…こういうのは、男から言うもんだと思うし」
そう小さく呟いたアランは、立ち上がり様に私の腰元をぐっと抱き寄せる。
アラン「ダンス、付き合わせろ」