差しのべられた手の先には――。
ユウ「ナギさん…」
ナギ「…大丈夫か?」
ユウ「はい、大丈―わっ!」
ナギ「…!」
ナギさんの手を取ろうと、一歩踏み出すとズルッと足元が滑る。
ナギ「ユウ!」
ズシャッ!
ユウ「いっ、たぁ…」
氷の上に膝をつくようにして、うずくまる。
ユウ(うわぁ…手を貸してもらったのに転ぶなんて…)
起き上がろうとすると、グイッと腕を引っ張られて立つ。
ナギ「…本当に大丈夫か?」
ユウ「あ、ありがとうございます…」
ナギ「…本当によく転ぶな」
一部始終を見ていたみんなが、ニヤニヤと表情を崩す。
トワ「だから、ナギさんもユウさんをほっとけないんですよねー」
ハヤテ「甘いんだよ、ナギ兄は」
シン「ほっとけ、どうせ好きでやってるんだ…」
ソウシ「ふふっ。見ていて微笑ましいね」
ナギ「…」
ナギさんは頬を赤らめて顔を背ける。
ナギ「歩けるか?」
ユウ「はい」
ナギさんに手を引かれて、今度はゆっくりと氷の道を歩き出した。
街につくと、店という店の店頭にクリスマスツリーを飾り、キラキラと輝いていた。
ユウ「わあッ!綺麗ですね、クリスマスツリー!」
ナギ「…そうだな」
ハヤテ「あー、腹減ったぁ…」
ハヤテ「もう夕飯の時間じゃねーの?」
トワ「そうですね。もう夕方ですもんね」
リュウガ「ところで、そのクリスマスパーティーは」
リュウガ「どこでやるんだ?」
ナギ「…シン、何か書いてないのか?」
招待状を持っていたシンさんが地図を見る。
シン「どこかのホテルの隣に会場があるらしいが…」
ソウシ「じゃあ、ひとまず」
ソウシ「そのホテルで食事でもして予定を立てるというのは?」
リュウガ「そりゃいいな!酒も飲める」
ハヤテ「ソウシさん、ナイス!」
ハヤテ「そうと決まったら さっさと行こうぜ!」
トワ「あっ!待ってくださいよ、ハヤテさん!」
招待状の地図に従い、皆でホテルに向かって歩き出す。
ナギ「おい…」
ユウ「はい?なんですか、ナギさん」
ナギ「店に着いたら…」
ナギ「…」
ユウ「着いたら?」
ナギ「…いや、何でもない」
ナギ「とにかく…店に行くぞ」
ユウ「はい…」
ユウ(ナギさん、どうしたんだろう…)
ユウ(何か言いかけたみたいだけど…)
ホテルに着くと、私たちはすぐにレストランに入った。
一番大きなテーブルに案内されて、囲むように座る。
ユウ(じゃあ、私はナギさんの隣に…)
椅子に座ろうとした、その時――
ユウ「痛っ…」
トワ「ユウさん?」
トワ「どうかしましたか?」
ユウ「あ、ううん…」
ユウ(私、膝をすりむいてたんだ…)
ユウ(さっきまで痛くなかったのに…)
膝の痛みを隠すように綿うと、ゆっくりと椅子に座る。
ナギ「…」
ユウ「うーん、何食べようかな…」
ハヤテ「俺はこのビーフストローなんとかってヤツにすっかな!」
シン「ビーフストロガノフだ。字も読めないのか?」
ハヤテ「言っただろ!ビーフストローガノフだ!」
ソウシ「はいはい、分かったよ」
ソウシ「ハヤテはビーフストロガノフだね」
ハヤテ「なっ!ソウシさんまで!」
ハヤテ「俺、ちゃんと言えてただろ?」
シン「…フッ」
ハヤテ「…な、なんだよ!」
リュウガ「あーうるせぇな!」
リュウガ「俺はこの店で一番上等な酒でいいぞ」
ナギ「お前はどうする…」
ユウ「私は…えっと…」
ユウ「まずいなあ…どんどん膝が痛くなる…)
ユウ(でも、今手当てしてしてもらうのもちょっと…)
トワ「ユウさん、やっぱり何か…」
トワ「あっ!その膝のケガ、どうしたんですか!?」
ユウ「えっ!?」
ソウシ「ケガ?痛むかい?」
ソウシ「どこか部屋を借りて手当てを…」
ソウシさんが席を立とうとした、その時――。
ガタッ。
ナギ「…」
ユウ「ナギさん?」
隣に座っていたナギさんが立ち上がった。
ナギ「…ついて来い」
ユウ「えっ…でも注文が…」
ナギ「…」
ユウ「!?」
ナギさんは私の腕をつかむと、ゆっくりと手を引いた。
ソウシ「ナギ、救急箱はフロントに預けた荷物の中だよ」
ナギ「…!」
ソウシ「何を驚いているんだい?」
ソウシ「ユウちゃんのケガが気になっていたんだろう?」
ナギ「…」
ソウシ「これで納得がいったよ」
ソウシ「さっきからナギの様子がおかしかったからね」
ハヤテ「ったく、そんなの舐めときゃ治るだろ」
シン「女を甘やかしてもいいことはない…」
リュウガ「何言ってんだ、シン」
リュウガ「女は甘やかしてやるのが一番だ」
トワ「ナギさん、僕も手伝いましょうか?」
ナギ「…いい。先に食っててくれ」
ナギ「こんな事なら、先に手当てしとけばよかったな…」
ユウ「気づいてたんですか?」
ナギ「あれだけ派手に転べば誰でも気づく」
ユウ(もしかしてナギさん…)
ユウ(ずっと膝を気にしてくれてたの?)
私は手当てのため、ナギさんに連れられてレストランを出た。
膝の手当てを終えた私とナギさんは、レストランには戻らなかった。
ユウ(わあ!夜になると、一段ときれいですね!」
ナギ「…ああ」
街のイルミネーションが暗闇を明るく照らしている。
ツリーというツリーが点灯し、そこらじゅうからクリスマスソングが聞こえていた。
ユウ「でも、いいんでしょうか?」
ユウ「勝手にホテルを出てきちゃいましたけど」
ナギ「フロントに手紙を残した。大丈夫だ」
ナギ「それより、足は大丈夫か?」
ユウ「はい。ナギさんに手当てしてもらったら良くなりました」
ナギ「…無理はするな」
ナギ「痛むようならレストランに――」
ユウ「えっ!?無理します!」
ナギ「え…」
ユウ「だって、こんなふうにナギさんとデートするのは久し振りですから」
ナギ「…」
ナギ「…そう、だな」
ナギさんは照れたように笑う。
ユウ(膝の痛みなんて、全然我慢できる)
ユウ(ナギさんとこんなキレイな街を一緒に歩けるなら…)
ユウ「あれ?あのお店はなんでしょう?」
ナギ「繁盛してるようだな」
ユウ「なんのお店なんだろう…」
ユウ「行ってみてもいいですか?」
ナギ「ああ」
ユウ「やった、じゃあ早く行きましょう!」
ナギさんの手を少しだけ引っ張ると、客足の絶えない店に向かった。
店の中に入ると、たくさんの人が真剣にショーケースを覗き込んでいた。
ショーケースの中には、指輪やネックレスなどのアクセサリーが並んでいる。
ユウ「アクセサリーショップだったんですね」
ナギ「…クリスマスだからな」
ナギ「相当、混んでるな…」
ユウ「ですね」
ユウ(それにしても、キレイだなあ…)
店員「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
ユウ「あ、いえ…」
店員「もしかして、お2人は恋人ですか?」
A:曖昧に笑う
ユウ「あ、あの…」
店員さんの質問に、私は曖昧に笑ってごまかした。
店員「あら?違いました?」
店員「お似合いだから、てっきり…」
ナギ「…恋人、で合ってるだろう」
ナギさんはそう答えると、苦笑交じりの笑みを浮かべた。
ユウ(そうだよね、そうはっきり言えばいいのに)
ユウ(改まって聞かれると、恥ずかしい気がして…)
B:「はい」と答える
ユウ「あ、はい」
ナギ「…」
私がはっきりそう答えると――。
次の瞬間、繋いでいたナギさんの手が、ぎゅっと私の手を握り返した。
C:ナギさんの返事を待つ
ユウ(何て答えよう…)
ナギさんの返事を待つ。
すると、ナギさんは小さなため息をついた。
ナギ「恋人以外に何があるんだ?」
店員「そうですよね!お2人は恋人にしか見えませんわ」
店員は慌てて笑う。
店員「それなら、こちらなんていかがですか?」
店員さんはショーケースの中からペアリングを取り出す。
ユウ「わあ!可愛いですね」
店員「でしょう?クリスマス限定の指輪なんですよ」
店員「男性用には永遠の愛を誓うメッセージ」
店員「女性用には、永遠の愛の象徴でもある宝石が埋め込まれてるんです」
目の前に出されたペアリングから目が離せなくなる。
――と、隣に立っていたナギさんが、静かに口を開いた。
ナギ「…それをもらう」
ユウ「えっ!」
店員「ありがとうございます!今、お包みしますね」
ナギ「そのままでいい」
ユウ「ナ、ナギさん?買うんですか!?」
ナギ「…欲しいんだろ?」
ユウ「ほ、欲しいけど…でも…」
ユウ(ナギさんがペアリングをつけるの?)
店員「このまま、はめていかれます?」
ナギ「ああ…」
ナギさんは私の手を取り、そっと指輪をはめる。
シンプルなデザインの指輪は、まるでマリッジリングにも見えた。
ナギ「サイズはどうだ?」
ユウ(ど、どうしよう…ドキドキしてきた)
ユウ(まさか、ペアリングをナギさんとつけることができるなんて…)
店員「あら、いけませんわ。彼女さんにつけてもらわなきゃ」
ナギ「あ?」
自分で指輪をはめようとしたナギさんを、店員さんが慌てて止める。
ユウ(あ、そっか、私が…)
ユウ「ナギさん、私が…」
ナギ「…」
今度は私がナギさんの手を取ると、指輪をはめた。
店員「まあ、お似合いのカップル!羨ましいわ」
ユウ(お似合いの…カップル…)
ユウ(やだな、顔がにやけちゃうよ…)
ナギ「…」
ナギ「分かりやすいな、お前は…」
ユウ「…そ、そういうナギさんだって」
ユウ「…笑ってるじゃないですか」
ナギ「そうか?」
ユウ(ペアリング、か…)
ユウ(なんだか、恋人の証みたいで、くすぐったいな)
ナギさんの優しい笑顔を覗き込むと、私もつられて微笑んだ。
指に光るペアリングを見つめながら店を出る。
歩き出そうとした、次の瞬間――。
ナギさんの手が、私の腕を慌てて掴んだ。
ユウ「わっ!」
ナギ「よそ見してると、転ぶ。気をつけろ」
ナギ「またケガしたいのか?」
ユウ「い、いえ…」
からかうように笑いながら、ナギさんが手を繋いでくれる。
ナギ「そろそろホテルに戻るか…」
ナギ「いい加減、船長たちの酒盛りも終わった頃だ」
ユウ「そうですね」
ユウ(お揃いのリング、はめたままで大丈夫かな?)
みんなにどう説明しようか考えていると、1軒の店から見覚えのある集団が出てくるのが見えた。
???「ちょっとー。何軒回るわけぇ?」
???「あたしの気に入るものがないんですものっ!」
???「もぅ、姉さん迷いすぎよぉ…」
ユウ(ん…?姉さん…それにこの声は…)
聞き覚えのある声に目を凝らしてみると、そこには――。
ユウ(あれって、おネエ海賊団の…)
ナギ「ユウ、行くぞ」
ユウ「あ!ナギさん、あの人たち――」
ナギ「…なんかあったみたいだな」
ユウ「え?」
口を閉じて、ナギさんの視線を辿る。
見ると、目の前の広場で街の人たちが騒いでいた。
街人1「本当か?」
街人2「ああ!招待していた有名シェフ軍団が来られなくなったと今、連絡が!」
街人3「それじゃあ、パーティーなんてできないじゃないか!」
ユウ(えっ、パーティーができない?)
街人1「とにかく、もう一度集まって、話し合うぞ」
街の「場合によっては、今年のクリスマスパーティーは中止だな」
街人「そんな…」
言いあいながら、街の人たちはどこかへと走っていく。
ユウ「パーティーが中止?」
ナギ「そうらしいな…」
ユウ「そんな…みんな楽しみにしているのに…」
ナギ「とりあえず、ホテルに戻ってあいつらに知らせる」
ユウ「はい」
私とナギさんはみんなに伝えるために、ホテルへと急いだ。
ホテルに戻ると、ロビーにみんなの姿があった。
ハヤテ「はぁ~、食った~」
リュウガ「いい酒だったなあ」
トワ「あ!ユウさんとナギさん!」
私たちを見つけたトワくんが、こちらに向かって手を振る。
ユウ「リュウガ船長!大変です」
ソウシ「どうしたんだい?そんなに慌てて」
シン「戻らないと思ったら、2人で抜け出してたのか」
ナギ「…その話は後だ」
ナギ「それより、パーティーは中止かもしれない」
リュウガ「ああ、その話なら聞いたぞ」
ソウシ「なんでも有名なシェフ軍団が来られないとか…」
リュウガ「なぁに!心配すんな!」
リュウガ船長が大きな声で笑う。
ハヤテ「そのことなら解決済みなんだよなー」
シン「…ナギ、俺は反対したぞ」
ナギ「…?」
ユウ「どういう事ですか?」
トワ「実は…有名シェフの代役オーディションが」
トワ「行われることになったんですよ」
トワ「それで、今ナギさんを探していたところで…」
ナギ「俺を?」
シン「船長がナギをエントリーしたからな」
ナギ「な、に…?」
リュウガ「ここまできてパーティーは中止なんてことにはさせねぇ」
リュウガ「ナギ、やってくれるよな」
ナギ「…」
ハヤテ「頼むよ、ナギ兄!」
ハヤテ「俺、パーティー楽しみなんだよ」
トワ「僕もです!お願いです、ナギさん!」
ナギ「…」
ユウ(ナギさん、どうするんだろう…)
ナギさんは呆れたようにみんなを見ると、小さくため息をついた。
ナギ「…オーディションってのは どこでやるんだ?」
ナギ「行ってみないことには、分かんねーだろ…」
ユウ「ナギさん…」
ナギさんの返事に、ハヤテさんたちはパッと目を輝かせた。

