パーティー会場の外に出ると――。
キラキラと眩しいほどのソリの大群が、夜空を横切って行く。
人々は通路を開けて、大通りのサンタクロースたちの行進を見つめていた。
ユウ「すごい…」
ユウ「これって、クリスマスパレードですよね!」
ナギ「…ああ」
ユウ「ここからじゃ良く見えな――」
ユウ「わっ!」
ナギ「…!」
後ろから押し寄せる見物客に、背中を押されて転びそうになる。
ナギさんは、咄嗟に私の体を支えると、手を引いてくれた。
ナギ「…こっちだ」
ユウ「えっ?」
ナギさんに手を引かれるままに、見物客の群れから離れる。
ユウ(ナギさん、どこに行くんだろう…)
ユウ(通りから離れたら、パレードが見えなくなっちゃうんじゃ…)
ナギ「ここ、上がれ」
ユウ「え?」
ユウ「は、はい…」
見ると、華やかなパレードが少し離れた場所に見える。ナギさんに支えてられて、私は少し高い塀の上に
目線を移した。
ユウ(ここに座るの!?)
ユウ(こんなに高ところ、上がれるわけな――)
ナギ「…」
ユウ「わっ――」
ナギさんに腰を抱き上げられて、そっと塀の上に座らされる。
ひょいっと飛び上がったナギさんは、私の隣に並んで座った。
ナギ「…相変わらず軽いな」
ナギ「もっと飯を食わせねーと…」
ユウ「…そ、そんなことないです!」
ユウ「こ…これ以上は太れませんから…」
ナギ「…そうか」
ユウ「はい…」
小さく微笑むナギさんの表情に、思わず胸が高鳴り始める。
心臓の音が、ナギさんにまで聞こえてしまいそうで、意識を逸らすように声を上げた。
ユウ「わあー!」
ユウ「ここからでもパレードがよく見えますね!」
ナギ「少し離れた方がよく見えるな」
ユウ「はい!すごくキレイですね…」
ナギ「…お前、これ下に敷いてろ」
ナギ「…冷えるだろ」
ユウ「え…?」
ナギさんは自分のバンダナを脱ぐと、私が腰かけている場所の下へと敷いてくれた。
お礼を込めてナギさんに向かって微笑むと かじかんだ手を無意識に擦り合わせながら、パレードを見つ
める。
――と、ナギさんは不思議そうな顔をして、私の手を取った。
ナギ「…お前、指輪…」
ナギ「どうしたんだ?」
ユウ「え…?」
ユウ「あ…」
ナギさんの言葉に、慌てて手を隠す。
ナギさんの手に視線を移すと、さっき返してもらったペアリングが光っていた。
ユウ(どうしよう…ナギさんに何て言おう…)
ユウ(隠したってどうしようもないんだし、ちゃんと伝えなきゃ…)
ユウ「…私…あの時…」
ユウ「あの、ゲストルームで…」
ナギ「ゲストルーム?」
ナギ「…あいつらに連れて行かれた部屋か?」
ユウ「…はい」
ユウ「指輪を返して欲しかったら、言う通りにしろって言われて…」
ユウ「食材がダメになって困ってるナギさんを」
ユウ「これ以上苦しめたくなくて…」
ナギ「それで…どうしたんだ?」
ユウ「……す、捨てました」
ユウ「自分で、窓の外に投げたんです…」
ナギ「…」
ユウ「お、怒りますよね…当たり前です…」
ユウ「でも、ナギさんの悪口を言われて我慢できなかったんです」
ユウ「指輪は返して欲しいけど、だからって言いなりになりたくなかった」
ナギ「…」
ナギさんは黙ったまま私を見つめる。
ユウ「だって、私は指輪はなくても」
ユウ「ナギさんさえ側にいればいいって思ったから…」
ユウ「だから…って――」
ユウ「ナ、ナギさん!?」
ナギ「…」
ナギさんは突然大きく腕を振り上げると、思い切り指輪を投げ捨てた。
ユウ「ナギさん!!」
ナギ「だったら、仕方ないだろ」
ユウ「え…」
ぎゅっ…
ユウ「!?」
次の瞬間――。
隣から腕が伸びてきて、私はナギさんの胸に引き寄せられた。
ナギさんの心臓の音が、鮮明に私の体へと伝わってくる。
ユウ「ナギさん…」
ナギ「…俺も、そうだ」
ナギ「指輪は…いらない」
ナギ「…お前さえ、俺の側にいればいい」
ユウ(ナギさん…)
耳元でそう囁かれると、すかさず唇が重なった。
優しくて、柔らかなナギさんのキスに、言葉など必要がなくなる。
ナギさんの想いに応えるように、私はナギさんの首元にそっと手を回した。
パーティーは無事に終わりを迎えた。
会場ではスタッフだけの打ち上げパーティーが始まっていた。
リュウガ「まあ飲め!」
ソウシ「船長、あおり過ぎです…」
おネエ1「やっだ~、ドクター!」
おネエ1「カタイ事いわないでっ!」
ハヤテ「船長!俺にも!」
トワ「わああー!」
トワ「や、やめてくださいよー!」
トワ「く、口は勘弁してくださいー!!」
おネエ2「んもう♪可愛い子!」
おネエ2「遠慮しないで~♪ちゅってしてあげる♪」
おネエ3「シン様ー!シン様はどこぉ?」
おネエ4「いないわ!さっきまでここにいたのにぃ!」
シリウスのみんなもおネエ海賊団のみんなも楽しそうに盛り上がっている。
ナギ「…大変そうだな」
ユウ「はい…」
ナギさんが呟くその横で、私は料理を食べていた。
ユウ「あ、この料理、さっき食べそこなったんですよー」
ユウ「んー、美味しい!」
ナギ「…」
ユウ「ナギさんも食べますか?」
ナギ「いや、いい…」
ナギ「いいな…お前は平和で…」
ユウ「平和?」
アンナ「ちょっとあんた!」
アンナ「何、大きな口開けて食べてばっかりいるの!」
ユウ「アンナさん!」
ユウ「おつかれさまでした!」
アンナ「ナギさんの前で… なんて子なの!?」
アンナ「クリスマスなのに、全っ然ムードがないわ!」
ユウ(そ、そうかな…いつも、こんな感じだから…つい…)
ナギ「アンナ、どうかしたのか?」
アンナ「うふふ、ナギさんにお礼、言ってなかったから」
ユウ「お礼、ですか?」
アンナ「あんたは黙って食べてな!」
ユウ「は、はい!」
ユウ(さっきは食べるなって言ったくせに…)
アンナ「さすがナギさんって感じね!感動しちゃったわ」
アンナ「ナギさんがいなかったら、今日のパーティーは成功しなかったもの」
ナギ「…そんな事はないだろ」
ナギ「アンナの腕も落ちてない」
ナギ「…いいパートナーだった」
アンナ「まあ!」
アンナ「ちょっと聞いた?」
ドスッと肘で突かれて、思わずフォークの手を止める。
アンナ「あら、ごめんなさいねぇ」
アンナ「そうだ、これ…」
アンナさんは見覚えのある小さな光を差し出した。
ユウ「え……」
ユウ「こ、これ…」
ナギ「…」
ユウ「私たちのペアリング!?」
アンナ「やっぱりそうだったのね~ 拾ったのよ!」
ユウ「拾ったって…」
ナギ「捨てたもん、拾ってどうする…」
アンナ「す、捨てた!?何考えてんのよ!」
アンナ「モノを粗末にするなんて、あたしが許さないわよ!」
ナギ「…」
アンナ「何があったか知らないけど、とにかく!」
アンナ「これは2人に返すわ」
アンナ「もう捨てたりしちゃダメよ♪」
アンナ「さぁ~!あたしもいい男、探さなきゃ♪」
アンナさんは私にペアリングを渡すと、いそいそとみんなの方へと足を向けた。
ユウ「もどって、きましたね…」
ユウ「ペアリング…」
ナギ「…そうだな」
ユウ(このペアリング…確かに嬉しかったけど…)
ユウ(よく考えてみたら、料理人のナギさんにとっては…)
ユウ「あの…お守りにしませんか?この指輪…」
ユウ「指だと、また失くしちゃいそうですし」
ユウ「お守りなら、失くさないですよね」
ナギ「ああ…そうだな」
ナギさんは私から指輪を受け取る。
ナギ「いくつもペアリングがあっても仕方ない…」
ナギ「…こういうのは、人生で1つあれば充分だろ」
ユウ「え…」
ユウ(人生で1つって…)
ユウ(もしかして…)
意味深に微笑んだナギさんが近づいてくる。
ユウ(人生で1つだけのペアリング…)
ユウ(いつか、ナギさんと…)
賑やかなパーティーの中、私たちはみんなに見えないように――。
2人だけの秘密のキスを交わした。