24.ウィ・アー・ベビーメタル。 | FOXGODへの道

FOXGODへの道

定年間近のあるテレビマンは、1枚のFAXをきっかけにある3人の女の子に出会った。その瞬間から彼の人生は一変する。そして全くの異業種に転職。彼が営む大人の秘密基地の名は、「FOXGOD TOKYO」

 

いよいよロンドンThe Forum公演は
クライマックスだ!

 

真ん中の女の子の「あーーーーーー」の声が
ウォール・オブ・デスの合図だったんだ。

 

東京の会場、5メートル間隔で手摺りがある

から2ヵ所くらいに横長の長方形のスペース

出来て、左右から一斉に観客が突進して

ぶつかり合っている。
手摺がなければもっと大きなウォールが

出来ただろうに残念だ。

ぶつかっては戻され、またぶつかるの

繰り返し。
黒Tシャツ軍団やるな。

 

そして、ロンドン。
映像ではチラッとしか映らなかったが、
円形の大きなスペースで客たちがぶつかり

合っている。
ロンドンの観客も始まるタイミング知って

たんだ。
サークルの周りでは、ぶつかり合ってる客を

煽りながら暴れている人も沢山いる。

 

ほう、これがウォール・オブ・デスか。
ユーチューブ以外で実際に見るのは初めてだ。
大人たちの「押し競ら饅頭」ってな感じだな。
ケガする人いないのかな?

 

ステージでは、左右の女の子が両端から

全速力で走りUターンしてはまた走っている。
これはウォール・オブ・デスをイメージさせる
ダンス言語なんだ。

 

ウォール・オブ・デスは自然発生的に出来る

ものだと思っていたけど、ベビーメタルは

意図的に、曲の中にその要素を散りばめ、
ウォール・オブ・デスが発生する様に

仕向けている。
さっきの英語のナレーションの中にあっ

た言葉は
やはり「Wall of Death」

だったんだ。

北欧のフェスのクラウド・サーフィンで
死亡事故があったと聞いた事あるけど、
このウォール・オブ・デスでも
過去に事故があったと聞いた事もある。
破天荒な儀式だよね。オジー・オズボーンが

主催するフェスが始まりらしいけど、

やはりメタルの儀式なんだ。

 

目の前のウォール・オブ・デス見ながら

思った。
今ね、音楽だけに限らず、

何でも「事なかれ主義」で
つまらない世の中になっちゃったよね。
子供の教育もそうだし。スポーツも、会社も
マスコミも、政治も。そして音楽の世界でも。
あとで問題になりそうな事は全て最初っから

しない。
しなければ問題にならないと思ってる。
でもね、そんな世の中じゃ、
あっと驚く発想や今までにない新しい考え方。
失敗を恐れては絶対に出来ない事。
大きな夢をみる事。何にも出来ないでしょ。
特に、そんな世の中に生まれた子供たちは
挑戦さえしなくなっちゃう。

 

もしも、もしもだよ。この東京やロンドンの
ウォール・オブ・デスで事故が起きたと

しよう。
自然発生的に観客が勝手にやったのなら、
事故を起こした観客が悪い、警備も甘かった

で済むけど、ベビーメタルの場合は、

曲作りの時点からウォール・オブ・デスを

煽り、歌やダンスでも観客を煽ってるから、

事故が起きた時、全面的に運営側の責任に

なる可能性がある。
チケットの裏や会場には危険行為禁止と
書いてあったとしても、事件が起きて警察が

調べれば、ベビーメタルの運営はかなり不利

だと思うよ。

事故の程度によっては、連日マスコミに

叩かれ、最悪、グループ解散の事態になる

可能性だってある。

 

ベビーメタルの運営は、それを恐れずに

堂々とやってる。
「事なかれ主義」に立ち向かっている。
それはどうしてか?
運営側がこのグループはアイドルではない。
メタルだ。ロックだと思っているからでしょ。
いゃー、この心意気好きだな。

だって元々、ロックやメタルは、
社会への反骨精神から生まれた音楽でしょ。
規制の概念をぶっ壊さなければ

ロックじゃない。
メタルじゃないでしょ。

そう考えると、

 

ベビーメタルは・・メタルだよ。

 

そんな事思っていたら、真ん中の女の子、

歌い始めた。
アニメっぽい。アニメの主題歌といっても

おかしくない。
日本でもヒットする要素を持ったメロディー

だ。

 

そして、左右の女の子のダンス、

めちゃくちゃ激しい。
髪を振り乱し、全身全霊で踊っている。

これもメタルだ。

さらに左右の女の子、お立ち台に立って

合いの手だ。

センターで真ん中の女の子が堂々と歌い、
左右のお立ち台で観客を盛り上げながら

合いの手。
このピラミッドの構図、やっぱり絵になる。

 

わーっ、「イジメ?」「ダメ?」の

合いの手で東京の観客およそ2000人が

一斉に大ジャンプした!
何じゃこれ!
皆、腕をバツ印にしている。そしてまた

大ジャンプ。
これ何処かで観た事あるぞ。
エックスジャンプだ!
腕をバツ印にしてダメ、ダメ、ダメの大合唱。
これ、始まった時から感じたんだけど、
X-JAPANの影響をかなり受けてるよね。
ところどころにXの要素がかなり入っている。
もしかして、製作者側にXの関係者が

いるの?
それとも大ファンだった人が関ってるの

かな。

 

ロンドンの観客は?
ロンドンは、東京と同じようにジャンプして

いる客もいるけど、暴れていたり、

ヘッドバンギングしたり無秩序に盛り上がっ

ている。
これはこれで凄い光景だけどね。

 

さっき、東京の客は何処か優等生だ。

と言ったけど撤回!
この2000人の大ジャンプ凄いよ。

凄すぎる。
ライブビューイングでもこれなんだから、
実際に生のステージの前だったら、

本当に凄いだろうな。
ステージと観客の一体感、ハンパじゃない。
はっきり言う。このシーンに限っては東京の

勝ち!
日本人はこういう団結力、本当に強いよね。

 

デジャブじゃないけど、この光景も何処かで

見た。
そう、高校の頃に観た、米映画

「ローラーボール」だ。
当時ローラーゲームというスポーツ興行が

流行っていた。
それをヒントに映画化されたのが

「ローラーボール」。
未来が舞台のSF映画で、ローラースケート

を履いて行うローラーボールというスポーツ

が未来で大流行する話。
そのスポーツは鉄の玉を穴に入れるゲーム

なんだけど

相手選手を鉄の玉で殴り殺しても反則には

ならない。
選手たちは次々に相手選手を殺しながら穴に

ボールを
入れて得点を競うという

トンデモナイB級映画だった。

主人公のいるヒューストンのチームが強くて
ライバルは東京とニューヨークのチーム。
第2戦の東京での戦いは、東京の観客が全員
カラテのポーズで応援する。その一糸乱れぬ

応援と団結力で相手のヒューストンの

選手たちは戦意喪失し、次々に殺されていく

という内容だった。
最後はヒューストンが逆転で勝つという

お決まりの話だけどね。

 

なんかね、真下の2000人の一糸乱れぬ

大ジャンプ見てたら、その映画思い出し

ちゃったよ。
とにかく、それほど凄い大ジャンプだった。
ごめん、脱線しすぎだね。

 

この曲のテーマ。
イジメがなくなることを歌っている様だ。
さっきのナレーション

「ノー・モア・ブーリィング」は
「もうイジメはたくさんだ」って意味だった

んだね。

 

イジメって日本に多いってイメージだけど
世界共通の問題だと聞いた事がある。
日本は人間関係や好き嫌いでイジメに

発展するけど、米国や欧州では人種差別も

絡んでるから日本以上にイジメの根は深いと

言われている。

 

そう思ってステージ見ると、3人のダンス、
イジメと格闘している事、よく表している。

そして、真ん中の子の歌、ほんとに巧いよね。
声の直球だよね。心を揺さぶられちゃうよ。
最後の曲だろうから、打ち止めとしてもう

一度言う。

 

これ、アイドルの歌唱力じゃないでしょ。

 

そしてお立ち台の左右の女の子、
ただカワイイだけではなく、表情も真剣その

ものだ。
イジメがある同世代の女の子として、
この曲にちゃんと向き合っているんだ。

 

なんか、目頭が熱くなってきた。やばー。

 

ロンドン、東京ともに観客は
まぁまぁ歳いっている人多いけど、
この曲、若い子を中心に世界中で

ヒットしないかな?
そうしたら本当にイジメが少なくなるかも

しれない。
この3人はそれが出来る可能性を秘めてるよ。

 

左右のギターの速弾きも泣いてるよ。
ベースもうなっている。
ドラムも心の葛藤がよく表れている。
パッキングバンドの4人、
プロ中のプロの演奏だ。

 

左右の子のセリフ。「痛み、感じて」
「ずっと、ひとり」「もう、逃げない」
心にしみる。。。
このセリフ、マニピレーションだよね。
こういう使い方、本当にうまいと思う。
生では出来ない微妙なエコー。
割り切るところは割り切って、

最高のステージを作っている。

 

そして、3人の指が繋がった。

またまた鳥肌立った。

 

左右の女の子が戦っている。真ん中の女の子
静かに見守っていたけど、二人の間に入って
右の子に・・左の子に・・・蹴りを入れた!
何、このダンス言語。素晴らしすぎる。

このライブ、何度もミュージカルっぽいなと

思ったけど、およそ1時間半のフィナーレに

相応しい曲だよね。

 

真ん中の子「イジメ、ダメ、ダーメー♪」と

歌い上げた。

ギター、ベース、ドラムが一斉に鳴る。

 

さー、エンディングだ。

 

3人揃ってお立ち台に立った。
左右の子はベビーメタルのフラッグを

広げてる。

真ん中の女の子が叫ぶ「ウィ・アー!」
ロンドンの観客が「ベイビィメロゥ!」
東京の観客が「ベビーメタル!」

 

ロンドンと東京の観客の声援、バックバンド

の音に負けてない。

海を隔ておよそ1万キロ離れたふたつの会場

の4000人以上が、完全に一つに

なっている。

 

真ん中の女の子が叫ぶ「ウィ・アー!」
ロンドンの観客が「ベイビィメロゥ!」
東京の観客が「ベビーメタル!」

 

わわわわ、何て光景だ!

鳥肌、涙、同時にきた。

 

3人の女の子、「3.2.1.ゼロ」と叫び

大ジャンプ!
銀テープが噴射され、ロンドンの会場に

銀吹雪が舞った。

3人の女の子、やり遂げたという満足そうな

表情。

 

君たち凄いよ!まだ10代の女の子たち

なのに、これだけの多くの人を感動の渦に

巻き込んでいる。

 

3人が一人ずつ、英語で話している。
歓声が大きすぎてよく聞こえないけど、
「また、ここに戻ってくるね」と

言っているようだ。

 

自分の後ろで、拍手の音がした。
振り返ると関係者の一人が立ち上がって

拍手している。
自分もすぐに立ち上がって拍手した。
5.6人が立ち上がり、座ったままの人も

全員拍手してる。
始まったばかりの時は、想像も出来ない

光景だ。

 

3人の女の子が「シー・ユー!」と言って

舞台を去った。

 

ロンドン、東京、関係者席の拍手は鳴りやま

ない。

 

ロンドンでさらに大きな歓声が上がった。
暗い映像に、パッキングバンドの白塗りの

4人がステージ前方に出て、観客に挨拶して

いる姿が見えた。
ロンドン、東京が再び大歓声だ!

あんたたち凄いよ。いゃーまいった。
あんたたちのおかげで、ロック少年だった事

思い出した。
今日から再びロックを聴き始めようと思う。
もちろんベビーメタルも聞くよ。

 

これまで、仕事、仕事、に追われて
たくさんの事を忘れていた様な気がする。
これからは、ひとつひとつ思い出していこう

と思う。

 

そして、このベビーメタル、
今後もずーっと見守っていこうと思う。

 

白塗りの4人がステージを去った。

 

Zepp東京の会場中に明かりが点った。
そして、始まる前と同じ様に、メタルの音楽

が流れた。
わずか1時間半前にここに座った時、
まさかこんな光景を観るとは思わなかった。
心を完全に捕まれるとは思わなかった。
涙まで流しちゃうとは思わなかった。

 

もうちょっと余韻を楽しんでから席を立とう

と思う。

 

(第25話へ)