うだるような気温の中巡察から帰った皆さんは、着物を半分脱いで井戸水を頭からかぶったり、着物を開けて涼んだり…目のやり場に困りますね(苦笑)
私は早い時間にお湯をいただき、自室でのんびりさせていただきました。
(湯上がりも…暑い)
日が落ちるのが早くなったとはいえ、今日は何時ものような冷たい風が吹いてきません。
周りを見渡し、誰もいない事を確認した私は、袴を持ち上げぱたぱたと捲り上げて風を起こし、涼を取ることにしました。
(はー涼しい…安らぐ)
「こらっ!」
「ひゃっ!ごめんなさい!」
怒声に驚き、あたふたする私を、山南さんがくすくすと笑って見ています。
「はっ…はしたないところを見られてしまいました。」
「ふふふっ…土方くんや斎藤くん辺りに見られたら、卒倒するところですよ。」
「ほんとにお恥ずかしい姿をお見せしてしまい…」
「いえいえ。日が落ちるのが早い分、私が早起きになりましたから。雪村くんの計算違いでしたね。」
恥ずかしさで赤くなる顔を隠しながら、私はもごもごと言葉を続けます。
「まさに油断大敵。いろはかるたにもある、子供でもわかるようなことです。完全に私の不注意でした。」
「そのいろはかるたですが、京都では江戸とは違い『ゆ』は『幽霊の浜風』と言うのですよ。」
「元気がないさま…という意味ですか?」
「そうです。私も幽霊みたいなものですが、少しは元気でいるつもりですけどね。」
「山南さんは幽霊じゃありません!」
山南さんは私の顔を覗き込みながら言いました。
「『羅刹』となった私が、それ以外のものだと?」
「…」
私は止められなかった。
変若水を手にした山南さんが狂気に走るとわかっていながら、あの時の私は山南さんを止める事ができなかった。
「困らせるつもりではないのだけど…」
苦笑いしている山南さんに、私は言いました。
「山南さんは山南さんです。本質的なものは何も変わりません。」
「偽物の鬼となっても?」
「そうです。」
「…」
山南さんはふいっと顔を逸し、背を向けて行ってしまいました。
(怒らせちゃった…)
今日は油断ばかりしている日のようです。
「山南さん、顔が少し赤かったみたいだけど大丈夫かなぁ…。」