今回の冬は全国的に寒く、積雪の量も例年より多いようです。
かわら版によると、あちこちで雪による事故が相次いでいるとか…。
悩ましいこの雪には、実は私も困り果てています。
「千歳、今日お前を同行させるのは無理だ。屯所で大人しくしていろ。」
「はーい…」
土方さんと私の目の前には、足首がすっぽりと隠れてしまうくらいの雪がこんもりと積もっています。
「しかしお前が出かけようとするたびに、面白いほど雪が降りやがる。」
「今日こそ用事が済ませられると思ったのに…残念です。」
「慌てるな。『急がば回れ』って言葉があるだろうが。回り道が近道になることもある。」
「そうですね。慌てずに行きます。」
「賢明だな。お前が慌てると…ふっ…ろくな事が起きやしねぇ。」
土方さんの言葉に返す言葉も無く…私は項垂れるばかりです。
「おっ!今回も千歳ちゃんの『雨女』ならぬ『雪女』ぶりが発揮されてるな。
「永倉さん…もう苦笑いしか出ません。ここまで足止めを喰らうとは思いもしませんでした。」
「新八、『雪女』は妖怪だろう。なんかもっと良い言い方はないのかよ?」
「左之〜幾ら俺が知的でも、感性は持ち合わせていないんだな。」
「左之助、新八に多くを求めるな。知的はある程度認めるが、感性は皆無だろう。」
「「そういう土方さんも…」」
「左之助、新八、なんか言ったか?」
「「いやいや!何にも言ってねぇ!」」
三人のやりとりを見ていると、沈んだ気持ちも少し浮上してきました。
「ふふっ…確かに『雪女』かもしれませんね。」
笑う私の様子を見ながら、土方さんがポツリと呟きました。
「『雪積姫』ってのはどうだ?」
「「「ゆきつみひめ?」」」
「妖怪と同じ名前じゃああんまりだろうが。雪を降らせて積んでは自分で困ってやがる『雪積姫』。姫って柄でもないかもしれねぇがな。」
「さすが土方さん…上手い下手は置いといて、発句集作るだけの感性はあるよなあ、新八。」
「だな(笑)可愛いじゃねぇか『雪積姫』なんてよ!」
「なんだ?今発句集がどうとか言わなかったか?」
「「気のせい!気のせい!」」
でも土方さんの眉間に皺がよったのは、気のせいじゃないはず。
「雑談はこの辺にして、さっさと出かけるぞ!早く出立しねぇと増々雪に足を取られちまう。」
『雪積姫』としては、これ以上雪が降らないように願うばかりです。