私は幾つかあります。
皆さんで雪合戦をしたこと。
雪うさぎを作ったこと。
そして私が初めて『新選組』と『新撰組』に遭遇した時も雪の日でした。
思い出したくもないおぞましい光景の中、あの時の私は一人の鬼神に魅了されていた。

「運のないやつだ…」
冷たい言葉と声が体中を痺れさせる。
私は不思議な感覚に囚われていた。
そして…夢の中で、雪の降る中に聞いた不思議な詩。
五歳優游同過日 一朝消散似浮雲 琴詩酒友皆抛我 雪月花時最憶君
これは山南さんから、白居易という詩人の詩だと教えてもらいました。
(たしか…)
「五歳の優游同に日を過ごし 一朝消散して浮雲似たり 琴詩酒の友皆我を抛ち 雪月花時最も君を憶う」
「白居易か…お前にしてはずいぶんと小難しい事を知ってるじゃねぇか」
後ろを振り向くと、これまた小難しいそうな顔をした土方さんが立っていました。
「あっ…えっと…聞きかじっただけですが、なんだか印象的な詩だったので少し調べたりしました。悲しくて美しい詩ですね。」
「世の中何時までも変わらねぇなんてモンはねぇ。出会えば何時か別れがくる。過去の記憶が綺麗だってなら、それはそれで幸せなんじゃねぇか?」
私はドキッとしました。
何時か別れがくる。
それは此処での暮らしも同じ。
私は何時か江戸に戻って、父様の診療所の手伝いをしながら生きていく。
そう思っているのに、なんで胸が苦しくなるんだろう。
黙りこくってしまった私の次の言葉を待つように、土方さんも黙ってしまいました。
「…」
「…」
「…雪…だな」
顔を上げると、空からチラチラと白いモノが舞い降りてきました。
「雪…初雪ですね!」
「ずいぶんと冷えると思えば、もうそんな頃だな。」
空に手を伸ばすと雪がひんやりと手に触れ、そして体温ですぐに消えてします。
「俺達の人生も、この雪みたいに淡いモノかもしれねぇな。だからこそ今を生きる。何時か消えても、巡り巡ってまた雪の華を咲かせるんだろうよ。」

土方さんの言葉がコトリと心に落ちました。
それは悲しい意味ではなく…また彼等に会えるかもしれないという、小さな希望。
「そうですね。今は今しか無いんですもんね。」
「あぁ、だから今を大切にしろと、人は言うんだろうな。」
「私…私頑張ります!」
「はぁ?…ったく…なにを頑張るんだよ?お前はよ!」
「とりあえず頑張ってお茶をお淹れしますね。あっついのを!」
私は勝手場へと走り出しました。
今年の雪の思い出は、土方さんと見た初雪になりそうです。
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