日中は真っ青な空には真っ白な雲が浮かんでいました。
蝉は争うように鳴き、少し風はあるものの、動くとすぐに汗が流れ…要するに暑いんです(汗)
毎日治安維持のために京の街を歩き回る彼らとは違い、屯所で雑務や掃除、洗濯くらいしかする事のない私が泣き言を言うのは申し訳ないのですが…。

本文はここから
季節は暦の上で均等に四等分されているので、夏だけが短いという事はありません。
…数日の差はあるかもしれませんが。
もし、夏は短いと思うのなら、それは毎日が充実しているという事なのでしょう。
夏という季節は、忙しく過ごすものなのかもしれません。
【夏】の文字は、大きな面をつけて踊る人の姿を象ったものですから。
どこかで花火が上がっているようです。
どぉんと花火が上がる轟音だけが耳に入ってきます。
その音は夏だなと感じる反面、夏は終わりを迎えようとしているのだとも感じます。
隊士さんに花火が上がっている場所を教えていただきましたが、京の事に詳しくない私には、其処がどの方角にあるのかさえもわかりません。
その方角の空を見上げても、花火など見えるわけないのですけど(苦笑)
「花火かぁ…見たかったな」
音を聞きながらそっと目を閉じてみる。
瞼の裏に、空に咲く花を描いてみた。
私が思い描いている花火は、今空を彩る花火よりも華やかなはずだ。
想像とは、絶対にありえない事さえも現実にしてくれるから。
見上げる空。
咲いた花火。
歓喜の声。
そして傍らには…会いたいと願う人がいる。
「ん?千歳ちゃんどうした?こんなところで寝てたら風邪ひくぞ。いくら暑いっていってもよ」
「あははっ。永倉さん、眠っていたんじゃないですよ」
「ならいいけどよ。夜更かしは関心しねぇぞ。寝ずにいられるのは鬼と土方さんくらいなもんだぜ。おっと…どっちも同じ意味か」
「もう、土方さんを鬼扱いするなんて!」
「ほら、子供は寝る時間だ。寝た寝た!」
「はい。でも、皆さんにお茶を入れてからにします。皆さん毎日忙しくされていますから」
「おう、ご苦労さん!」
私は一礼をし、勝手場へと足を向けた。
一時だけ見た夏の夜の夢。
それは急ぎ足で過ぎ去る夏のように消えていった。