巡察に同行させてもらったある日、数人の女の子達の色めきたった声が聞こえた。
彼女達はどうやら芝居を見てきた帰りらしく、誰が一番かっこいいかと論じているらしい。
そんな彼女達を羨ましいと思う反面、彼女達の口にしている【かっこいい】の言葉に疑問を感じた。
【かっこいい】とはどういう意味なんだろう?
容姿、立ち振る舞い…それが美しく秀でていれば【かっこいい】と言えるのだろうか?
「千歳君?どうしたのかね?お腹でも痛いのかい?」
「へっ?」
気がつけば、井上さんが怪訝な顔をして私の顔を覗きこんでいた。
「そんなに顔を顰めて…女の子がそんな顔をしていたらトシさんみたいに眉間に皺が寄ってしまうよ」
「あはははっ…井上さん、沖田さんみたいな事言ってますよ」
「あはは、そうかな?でもずいぶんと難しい顔をしていたからね。やっぱり女の子は笑っている方がいい」
「今は…女ではありませんけどね。新選組隊士でもありませんが。でも…難しい顔をしていても何も解決しませんね」
「何か悩み事かね?私でよければ聞くと言いたいところだが…色恋の事では役に立てそうにないがね」
「ちっ…違います!そんなんじゃありません!【かっこいい人】ってどんな人を指すのかなって考えていただけです!」
大きな声を出しすぎたのか、他の隊士さん達は苦笑いをしていたり、小さな声で笑っている。
「すっ…すいません。変なこと言っちゃって」
「かっこいい…ねぇ…。千歳君はどう思うかね?」
「私は…今までは容姿が美しい人を【かっこいい】と思っていましたが、今は違うと思うんです」
「ほう…例えば?」
「例えば…自分の生き方や信念を貫く人、自分を変える柔軟さや強さを持っている人、間違いを間違いと正す厳しさを持っている人、人を気遣い、そして優しさを与えられる人…そんな人が【かっこいい人】と言えるのではないでしょうか?」
「千歳君の【かっこいい人】はずいぶんと理想が高いんだね。これでは並の男では太刀打ち出来ない」
「そう…ですね。あはははは!」
でも、そんな人達に出逢えたからこそ、心からそう思える。
そんな人達と一緒にいるからこそ、私は気がつく事が出来たんだ。
「もちろん井上さんも【かっこいい】ですよ。たちの悪そうな人とすれ違う時、さりげなく庇ってくれますよね?いつもお気遣いに感謝してます」
彼らの心に根づいているものはきっと、彼らがこの世から消えてしまった後も誰かの心へと伝わって行くに違いない。
消えずに時代を超えて受け継がれていく。
本物は消える事はない…いつまでも…きっと…。