中秋とは【秋の真ん中の月の真ん中の日】の事。
秋は【七月・八月・九月】なので八月が【真ん中の月】、だから八月十五日が【秋の真ん中の月の真ん中の日】で中秋となります。
あっ…これは皆様が今使用している暦の前の暦のお話です。
だから明日が前の暦の八月十五日にあたり、中秋の名月、十五夜となります。
ご存知でしたか?十五夜は必ずしも満月ではないのです。
少しばかり欠けた月に当たる事が多いようです。
でも、今年の十五夜は満月なのですよ。
確率としては稀なようですから、明日のお月見は貴重な経験となりそうです。
しかし、どうやら天候は不安定な様子。
もしかしたら月の影さえも見えないかもしれませんね(ため息)。
土方さんにお茶をお持ちした時、明日の十五夜のお話をいたしました。
浮かれているようで申し訳ないのですが…十五夜と満月がぴたりと合った事がなんだか嬉しかったから。
しかし…いえ、当然かもしれません。
土方さんはいつもの不機嫌そうな顔をしながら、黙ってお茶を飲んでいます。
(しまった!空気読めなさ過ぎだった。)
「…」
嫌な感じの汗が背中を流れてきました。
「千歳」
「はい!ごめんなさい!浮かれ過ぎでした!」
「まだ何も言っちゃあいねぇだろうが。」
「あっ…ごめんなさい。」
「だから…別に浮かれ過ぎだとか…怒っちゃいねぇよ。ここに坐って…少し落ち着け。」
言われた通り指差す座布団に坐ったものの、なんだか居心地が悪くて落ち着きません。
(お月見の話題…他にもあるんだけど、頭が上手く整理出来なくて口に出来そうにない。でも、何か話さないと居心地が悪すぎる(汗))
「…中秋の名月が必ず仏滅になるって話は知っているか?」
「いいえ、そうなんですか?」
「あぁ、必ず仏滅になる。仏滅は『仏も滅するような最悪の日』って意味らしいがな、まぁ単なる迷信だろう。そんな事いちいち気にしていたら何も出来やしねぇ。」
私は以前土方さんからお聞きしたお話を思い出していました。
千歳、知ってるか?海の向こうの国では、月の光を浴びると狂人になるって話があるらしい。特に満月の光を浴びると人の心に悪しきものが宿り、人外のモノに変貌する…とかな。
「あの…もしかしたら以前お聞きした異国の地のお話と何か関係があるのでしょうか?月の光を浴びると狂人になるとか、人外のモノに変わるとか…。」
「さぁな。悪しきものは人の心に宿る。人の心の中に悪しき種が蒔かれて、それはちょっとしたきっかけで芽吹くもんだ。蔑み、嫉妬、愛欲や物欲。人を思いやる事なく、自分中心の世界に生きていると錯覚を起こし、高慢な考えで行動する。もし月明りがそれらを誘発するって言うのなら、そいつらは美しいものを美しいと思えねぇ…愚かで憐れな人間だって事なんだろうよ。」
「そんなの…悲しいですね。」
「あぁ、そうだな。憐れと思ってかける情けと同じかもしれねぇ。救ってやりてぇなんて生温い気持ちが仇になって…結局苦しめるだけ苦しめて…てめぇの手で始末する破目になる。選ばせてやると言って生かしておいて…勝手に殺すなんてな。となると…月明かりは関係ない。全部てめぇで決めててめぇでやった事…結局は全部自分のせいって事だ。」
「…」
自嘲気味な笑いを浮かべる土方さんに、私は何の言葉もかける事が出来ませんでした。
「あっ…明日晴れるといいですね!月が見えれば気分も晴れますよ。」
「無理だろう。」
(うっ…スパッと一刀両断されたら話が続けられないんですけど…)
「目に見えなくても月は必ず空にある。雨が降れば【雨月】、月が雲に隠れて見えねぇなら【無月】、明日が駄目なら翌日の【十六夜】、月の楽しみ方なんざいくらでもある。」
そう言って空を見上げる土方さんの横顔はとても綺麗で…
(初めて見た時の冷たい美しさとは違う。なんだろう…優しくて…でも少しだけ寂しそうにも見えて…)
「おい…」
「はい?」
「いつまで人の顔をジロジロ見てやがる。」
「へっ?」
気がつけばいつもの不機嫌な顔が私を睨みつけていました。
「///かっ重ね重ね失礼いたしました!」
私はお盆を掴んで慌てて立ち上がりました。
「おい、出て行くなら茶のかわりを持って来い。」
「あぁ…気が利かなくててすいません。」
「いちいち謝らなくてもいい!」
「本当にすいません!」
私はひったくるように湯呑みを奪い取り、勝手場へと走り出しました。
明日は十五夜。
果たして月はどんな姿を見せてくれるのでしょうね。
晴れたなら金色に輝く月を愛で、雨が降れば空が泣き止む事を祈りつつ、雲隠れするのなら雲の向こうにある月を想いながら十五夜を楽しみましょうか。
もちろん!熱いお茶と美味しいお菓子を用意します(笑)
