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「やめてください、離してっ!」

声のする方へ目を向ければ、女の子が数人の荒くれ者に絡まれていた。
「助けなきゃ…」
無謀とも思える行動だが、見て見ぬ振りは出来なかった。
私は女の子と荒くれ者の間に割り込み、女の子を背中に庇い真っ直ぐに彼らを睨みつけた。
「ちょっ…待て千歳!」
「まったく…人に無謀だ無茶苦茶過ぎるとか言っておいて、自分の事は全部棚に上げるんだからな、君は。」
平助君の声も沖田さんの声も聞こえてはいなかった。
ただ夢中で…とにかく助けなきゃって…それだけが頭の中を支配していて…体が自然に動いてしまった。
足が震えている。
小太刀にかける手もかなり震えていて、それでも私が恐怖を感じている事をこの人達に気づかせてはいけないと、彼らを睨む目だけは逸らす事が出来なかった。
「ほら、どいて。君、邪魔なんだから。」
沖田さんが私達を庇うように荒くれ者の前に立ち、一言二言何か声をかけた。
すると荒くれ者は悪態をつきながら散り散りに去って行ってしまった。
急に強い脱力感に襲われた。
それでも何とか足を踏ん張り、後ろにいる女の子を振り返った。
「大丈夫ですか?怪我はない?」
「はい…おかげさまで…ありがとうございました。」
私は女の子の姿を見て思わず息を飲んだ。
(わぁ…綺麗な人…どこかのお嬢さんなのかな?)
容姿や着物だけではない。
仕草、言葉づかい、どれをとってもすごく洗練されているのだ。
(でも…なんだろう…)
沖田さんにお礼を述べる彼女をぼんやりと眺めていた。
私の心は何故か彼女に強い違和感を感じていた。
「ねぇ、千歳ちゃん。ちょっと彼女の隣に立ってみて。」
「えっ?」
「いいから、立ってみて。」
いきなり沖田さんに腕を引っ張られ、私は女の子の隣に立たされる事となった。
ひどく恥ずかしかった。
着ているものが違うから比べようがないとわかっていても、素材が大きく違うから比較される事が恥ずかしかった。
でも、沖田さんの口からは意外な言葉が飛び出した。
「やっぱり似てる。」
「全然似てねぇじゃん。」
「平助は人を見る目がなさ過ぎ。似てるよ。この二人。千歳ちゃんもちゃんとした格好をさせればもっとそっくりになると思うな。」
(似てる?私がこの人と?)
ふと横を見ると目が合った。
ふわりと花のように笑いかけられた。
なのに…私の心の中の違和感はさらに強まり、心は何故かざわめき始めるのだ。
「…申し訳ございません、急ぎますから今日はこれで。お礼は改めて…新選組一番組長沖田総司さん。」
彼女は意味ありげな視線を一瞬だけ沖田さんに向け、静かに私の方へと近づいてきた。
「改めて…ありがとうございました。私は南雲薫と申します。貴方は?」
「雪村です。雪村千歳です。」
「千歳さんとおっしゃるの…そう…。」
千歳さん、またね…
私にだけ聞こえるように、薫さんは耳元でそっと囁いた。
「あっ…」
私は薫さんの立ち去る姿をただ黙って見ていた。
心のさざめきを押さえられぬまま…その美しい後ろ姿をただ黙って見送っていた。